
欠損金の繰越控除を正しく活用できれば、赤字期の損失を翌期以降の黒字と相殺して法人税を大幅に節税できます。この記事を読めば、欠損金の意味・繰越控除と繰戻還付の制度・中小企業と大企業の違い・申告手続きの流れまで一通り理解できます。決算対策に取り組む経営者・経理担当者でも、本記事のステップに沿って確認すれば自社の欠損金を適切に活用できるようになります。
目次
欠損金とは何か|基本的な定義
欠損金(けっそんきん)とは、法人税法上の課税所得がマイナス(赤字)になった場合の損失金額のことです。税務上の欠損金は会計上の当期純損失と異なる場合があります。
税務上の欠損金と会計上の損失の違い
会計上の「当期純損失」と税務上の「欠損金」は計算方法が異なります。
会計上の損失:企業会計基準に基づいて計算した利益がマイナスの状態
税務上の欠損金:法人税法に基づいて計算した課税所得がマイナスの状態
税務上は会計上の損益から「加算・減算項目」(税務調整)を行って課税所得を計算します。例えば、交際費の損金不算入や減価償却の限度額超過分などの調整があるため、会計上の赤字でも税務上は黒字になることや、逆に会計上の黒字でも欠損金が生じることがあります。
欠損金として認められるのは税務上の計算によるものです。
欠損金が生じる主なケース
欠損金が生じる代表的なケース:
・売上低迷期や創業期の赤字:売上が少なく固定費を賄えない場合
・大型投資による費用増加:設備投資・研究開発費の増加で一時的に損失が発生
・特別損失の計上:固定資産の売却損・廃棄損、減損損失、災害損失など
・景気悪化による売上急減:不況期や感染症禍などの外的要因
・一時的な費用増加:採用費・システム投資など将来への先行投資
欠損金は将来の収益で回収できる見込みがある場合、繰越控除・繰戻還付の制度を活用して税負担を軽減できます。
欠損金の繰越控除制度
欠損金の繰越控除とは、当期に発生した欠損金を翌期以降の黒字期に控除して課税所得を減らし、法人税を節税する制度です。
繰越控除の仕組みと期間
繰越控除の基本的な仕組みです。
繰越期間:欠損金が生じた事業年度から10年間(平成27年度税制改正以降に開始する事業年度の欠損金)
※平成20年度〜26年度の欠損金は9年間
控除限度額:
・中小法人等(資本金1億円以下):繰越欠損金の全額を控除可能
・大法人(資本金1億円超):当期所得の50%まで
複数年度の欠損金がある場合は、先に生じた欠損金(古いもの)から先に控除します(先入先出し)。
繰越控除の計算例
【中小法人の場合】
X1年度:欠損金500万円発生
X2年度:欠損金200万円発生
X3年度:所得600万円
X3年度の繰越控除:
・X1年度分500万円を全額控除(残り0万円)
・X2年度分100万円を控除(600万円 – 500万円 = 100万円残)
・X3年度の課税所得:600万円 – 500万円 – 100万円 = 0円
→ 法人税ゼロ(X2年度の残り100万円はX4年度以降に持ち越し)
【大法人の場合(所得の50%が上限)】
X3年度所得600万円の場合、控除上限は300万円
X3年度の課税所得:600万円 – 300万円 = 300万円
→ 残り欠損金(X1年度分200万円・X2年度分200万円)はX4年度以降に持ち越し
繰越控除の適用要件
欠損金の繰越控除を適用するには以下の要件を満たす必要があります。
①青色申告の継続:欠損金が生じた事業年度以後、連続して青色申告をしていること
②帳簿書類の保存:欠損金が生じた事業年度の帳簿書類を保存していること(原則10年間)
③確定申告書の提出:欠損金が生じた事業年度に確定申告書を提出していること
これらの要件を一つでも欠くと、その年度の欠損金の繰越控除が認められません。特に青色申告の取り消しには注意が必要です。
白色申告法人は原則として繰越控除を適用できません(特定の場合を除く)。
欠損金の繰戻還付制度
繰戻還付とは、当期に欠損金が生じた場合に、前期(1年前)の法人税を還付請求できる制度です。
繰戻還付の仕組みと計算方法
繰戻還付の基本的な仕組みです。
繰戻期間:欠損金発生の前期(1年間)
適用対象:中小法人等(資本金1億円以下)が対象(大法人は適用停止中)
【還付額の計算式】
還付額 = 前期の法人税額 × (欠損金額 ÷ 前期の所得金額)
【具体例】
前期所得:1,000万円 / 前期法人税額:150万円
当期欠損金:400万円
還付額:150万円 × (400万円 ÷ 1,000万円)= 60万円
当期発生欠損金のうち前期所得を超える部分(600万円)は翌期以降に繰り越します。
繰越控除vs繰戻還付の選択
中小法人は繰越控除と繰戻還付のどちらかを選択できます(一部の欠損金は両制度を使えない場合もあります)。
繰戻還付が有利な場合:
・早期に資金回収が必要(還付により現金が手に入る)
・将来の黒字回復が不確実
・前期の税率が当期・翌期より高い場合
繰越控除が有利な場合:
・翌期以降に確実に黒字が見込まれる
・資金繰りに余裕がある
・税率の変動がない
資金繰りが厳しい時期は繰戻還付で即座に現金を回収する方が優先される場合があります。判断に迷う場合は税理士に相談してください。
申告手続き
欠損金を正しく申告・活用するための手続きを解説します。
繰越控除の申告手続き
繰越欠損金を当期の所得から控除するには、法人税の確定申告書(別表七(一))に必要事項を記載します。
別表七(一)の記載内容:
・各年度の欠損金額と残高
・当期控除した欠損金額
・控除後の残余欠損金額
会計ソフト・申告ソフトを使用している場合は、欠損金の情報を正確に入力すれば自動で計算されます。過去の欠損金が正確に引き継がれているか、毎期確認することが重要です。
欠損金の繰越控除は自動的に適用されるわけではなく、申告書に記載した金額のみ控除が認められます。
繰戻還付の手続きと注意点
繰戻還付を請求するには、欠損金が生じた事業年度の確定申告書と同時(または遅くとも確定申告期限内)に「欠損金の繰戻しによる還付請求書」を提出します。
手続きの流れ
①欠損金の計算と還付額の試算
②確定申告書と還付請求書を同時に提出
③税務署が審査(通常1〜3ヶ月程度で還付)
注意点
・確定申告期限後の還付請求は原則として認められません
・前期の確定申告書を提出していることが条件
・還付金には還付加算金(利子相当)が加算される場合があります
・繰戻還付を適用した欠損金は翌期以降の繰越控除に使用できません
節税活用における注意点
欠損金を活用する上で注意すべきポイントをまとめます。
欠損金の期限切れに注意
欠損金の繰越期間は10年間(一部9年)です。10年を超えた欠損金は控除できなくなります(期限切れ欠損金)。
特に長年赤字が続く会社では、古い欠損金が期限切れになることで節税効果が失われます。黒字化のタイミングで欠損金を最大活用できるよう、毎期の欠損金残高と期限を管理しておきましょう。
M&Aで法人を取得した場合、過去の繰越欠損金を引き継げるケースと引き継げないケースがあります。特定資産譲渡等損失の使用制限など複雑なルールが適用されることがあるため、専門家への相談が不可欠です。
青色申告の維持が最重要
欠損金の繰越控除は青色申告が要件です。以下のような理由で青色申告が取り消されると、その後の繰越控除が使えなくなります。
青色申告取り消しの主な理由
・帳簿書類を備え付けていない
・帳簿書類に隠蔽・改ざんがある
・確定申告書を期限内に提出しない(無申告)
・税務調査での重大な不正行為
帳簿の適正な記録・保存と期限内申告を確実に行うことが、欠損金活用の前提条件です。
税効果会計
繰越欠損金は会計上の「税効果会計」においても重要な概念です。上場企業や一定規模以上の企業では税効果会計の適用が求められます。
繰延税金資産と欠損金
税効果会計では、繰越欠損金に対応する将来の税金軽減額を「繰延税金資産」として貸借対照表の資産に計上します。
繰延税金資産の計算
繰延税金資産 = 繰越欠損金 × 実効税率
例:繰越欠損金1,000万円・実効税率30%の場合
繰延税金資産 = 300万円
回収可能性の判断
繰越欠損金に対する繰延税金資産は、将来に税金軽減の効果が実現できる見込みがある場合(将来の課税所得が見込まれる場合)にのみ計上できます。将来の黒字化が見込めない場合は繰延税金資産を計上できず、評価性引当額として控除します。
中小企業への適用
中小企業には税効果会計の強制適用はありませんが、会計上の適正な利益計算のために任意適用する企業もあります。

節税の実務ポイント
繰越欠損金を最大限に活用するための実務的なポイントをまとめます。
欠損金の残高管理
・毎期の法人税申告書(別表七(一))で欠損金の残高・期限を確認する
・Excelや会計ソフトで「欠損金管理表」を作成し年度別残高・期限を可視化する
黒字化が見込まれる期の計画的活用
・設備投資・費用前倒し計上など人為的な費用増加より、繰越欠損金の控除が有効な場合がある
・複数年度にわたる欠損金を計画的に控除するスケジュールを立てる
青色申告の維持
・確定申告期限(原則:事業年度終了から2ヶ月以内)を厳守する
・申告期限延長の承認を受けている場合でも期限内に申告する
記帳と帳簿保存
・欠損金が生じた年度の帳簿書類を少なくとも10年間保存する
・電子帳簿保存法に対応した電子保存も有効
税理士との連携
・決算前に税理士と欠損金の残高・期限・活用計画を確認する
・大型投資・M&A・組織再編の前に欠損金の取り扱いを事前に相談する
欠損金の繰越控除は法律上認められた正当な節税手法ですが、正確な計算と適切な申告が前提です。税理士と連携して最大限に活用しましょう。
欠損金発生時の資金繰り対策
欠損金が発生する局面では、税負担の軽減だけでなく資金繰りの悪化も同時に課題となることが多いです。欠損金の繰戻還付を活用しながら、資金繰り改善策も並行して検討することが重要です。
資金繰り改善の具体的な手段
①日本政策金融公庫・信用保証協会の利用
赤字決算でも融資を受けられる制度があります。経営改善計画書を作成し、回復の見込みを示すことで融資を受けやすくなります。
②セーフティネット保証・危機関連保証
業況が急激に悪化した際は、中小企業信用保険法に基づくセーフティネット保証を活用できます。通常の保証枠に上乗せして保証を受けられます。
③売掛金・在庫の圧縮
赤字局面では売掛金の回収サイクルを早め、在庫を圧縮して運転資金を確保します。
④リスケジュール(借入返済猶予)
既存の銀行借入の返済条件変更を金融機関に相談します。元本の返済猶予・返済期間の延長等により、毎月のキャッシュアウトを減らせます。
⑤補助金・助成金の活用
ものづくり補助金・IT導入補助金・持続化補助金等の公的支援を活用して設備投資や業務改善を進めます。
欠損金の繰戻還付で得た資金を上記の資金繰り施策と組み合わせることで、赤字局面を乗り切る可能性が高まります。
欠損金の消滅と期限切れへの対策
欠損金の繰越期間は10年です。長期にわたって赤字が続いた場合、古い欠損金が期限切れになって使えなくなることがあります。期限切れ欠損金への対策を解説します。
期限切れ欠損金の影響
・節税効果が消滅し、翌期以降の税負担が増加する
・貸借対照表の繰延税金資産の評価替えが必要(会計上の損失発生)
・長期赤字が継続している場合は、事業の抜本的な見直しが必要なサイン
期限切れを防ぐための対策
①計画的な黒字化:欠損金の期限(10年)を意識した経営計画を立て、期限内に黒字化を実現する
②費用の繰り延べ:欠損金を控除するために課税所得を確保する年度では、可能な費用は翌期以降に繰り延べる(ただし不自然な操作は避ける)
③含み益のある資産の売却:含み益のある土地・株式等を売却して課税所得を作り、欠損金を控除する(売却タイミングの慎重な判断が必要)
期限切れ欠損金が大量に発生している場合の対応
大量の期限切れ欠損金が見込まれる場合は、事業再生・企業再生の観点から検討が必要です。民事再生法・会社更生法などの法的手続きや、私的整理(事業再生ADR・中小企業再生支援協議会等)の活用を専門家(弁護士・税理士)と相談してください。
青色申告の維持に必要な帳簿管理
欠損金の繰越控除を守るための青色申告維持には、日々の帳簿管理が不可欠です。具体的に何をどのように管理すべきかを解説します。
青色申告に必要な帳簿の種類
法人の青色申告では「仕訳帳・総勘定元帳」が必須です。会計ソフトを利用していれば自動で作成されますが、データのバックアップと保存期間の管理が重要です。
帳簿書類の保存期間(法定)
・帳簿(仕訳帳・総勘定元帳・補助簿等):7年間
・決算書類(貸借対照表・損益計算書・棚卸表等):7年間
・証拠書類(領収書・契約書・請求書等):7年間(欠損金発生年度は10年間)
欠損金が発生した年度は帳簿・書類を10年間保存する必要があります。これは繰越期間(10年)と一致しており、税務調査で欠損金の発生事実を証明するために必要です。
電子帳簿保存法への対応
2024年1月以降、電子取引データの電子保存が義務化されました。メール等で受け取った電子請求書・領収書は電子保存(タイムスタンプまたはシステム要件への対応)が必要です。電子帳簿保存の要件を満たすことで、優良な電子帳簿として保存した帳簿は過少申告加算税の軽減措置を受けられます。
欠損金管理のまとめ
欠損金の記録→繰越期間の管理→青色申告の継続→帳簿の保存という一連の流れを毎期確実に実行することが、節税効果を最大化するための基本です。
よくある質問Q&A
よくある質問と回答をまとめます。
Q:設立初年度から赤字ですが、欠損金の繰越控除はいつから使えますか?
A:設立初年度から青色申告(青色申告の承認申請書を設立後3ヶ月以内または最初の事業年度末日のいずれか早い方までに提出)をしていれば、初年度の欠損金から繰越控除を適用できます。
Q:欠損金は合計していくらまで繰り越せますか?
A:金額の上限はありません。複数年度の欠損金を合算して繰り越すことができますが、古い欠損金から先に控除し、10年(一部9年)を超えた分は消滅します。
Q:休眠会社を活用した欠損金の引継ぎはできますか?
A:休眠会社を買収して欠損金を利用しようとする場合、法人税法57条の3(特定株主等によって支配された欠損等法人の欠損金の繰越しの不適用)などの制限規定が適用されることがあります。専門家への相談が必須です。
Q:個人事業から法人化した場合、個人の繰越損失を法人に引き継げますか?
A:個人の繰越損失は法人には引き継げません。法人化後は法人として新たに欠損金を計上していく必要があります。
Q:消費税の計算に欠損金は関係しますか?
A:欠損金は法人税・所得税の計算に使用するもので、消費税の計算とは直接関係ありません。消費税は売上に係る消費税から仕入れに係る消費税を差し引いて計算します。
Q:法人成りした場合、個人事業時代の赤字を法人で使えますか?
A:個人事業の損失は法人には引き継げません。個人の確定申告で青色申告特別控除・純損失の繰越控除を利用し、法人は別個に欠損金を管理します。
Q:会社が解散する場合、残余欠損金はどうなりますか?
A:会社が解散し清算する場合、清算事業年度に残余の欠損金を控除できますが、清算後は消滅します。清算中の法人には通常とは異なる税務処理が適用されます。
Q:欠損金を使うのに税理士は必要ですか?
A:欠損金の繰越控除は申告書(別表七(一))への記載が必要です。単純な場合は会計ソフトの申告機能で対応できますが、M&A・組織再編・大額の欠損金がある場合は税理士への相談を強くおすすめします。誤った処理は税務調査で否認されリスクとなります。
Q:欠損金と純資産の欠損(繰越欠損金勘定)は同じですか?
A:税務上の「欠損金」は法人税の計算で使用する用語で、貸借対照表の「繰越損失」(純資産の部のマイナス)とは概念が異なります。税務上の欠損金は過去の課税所得のマイナス分であり、会計上の累積損失とは税務調整の差異により一致しないことがあります。
まとめ
欠損金の仕組みと活用方法について解説しました。
欠損金とは税務上の課税所得がマイナスになった場合の損失金額です。繰越控除を使えば翌期以降最大10年間にわたって黒字と相殺して法人税を節税できます。繰戻還付は中小法人が前期分の税金を即座に取り戻せる制度です。
適用要件は青色申告の継続と帳簿保存が基本です。欠損金の残高・期限を毎期管理し、節税効果を最大化しましょう。活用方法の選択や複雑なケースは税理士への相談をおすすめします。欠損金の引継ぎ制限|M&A・組織再編の注意点
M&A(買収・合併)や会社分割などの組織再編を行う際、被買収企業(子会社等)が持つ繰越欠損金を引き継いで節税に活用したいというニーズがあります。しかし、税務上はこれを防ぐための制限規定が設けられています。
欠損金の引継ぎ制限(法人税法57条3項)
適格合併等を行った場合でも、以下の場合は被合併法人等の欠損金を引き継げません。
①合併等の直前に双方が同一の完全支配関係になかった場合で、その支配関係が5年以内のもの
②欠損金の利用を主な目的とした組織再編と認定された場合
特定資産譲渡等損失の制限
支配関係取得後に行われる特定の資産の譲渡損失についても、一定期間は損金算入が制限されます。
M&Aを検討する際には、繰越欠損金の引継ぎ可否・制限規定の適用有無を必ず税理士・税務専門家に確認してください。欠損金目的のM&Aと認定されると、税務上の否認リスクがあります。



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