
地方法人税(ちほうほうじんぜい)とは、法人税(国税)の額を基準に計算される国税の一種です。「地方」という名称がついていますが、国が徴収して全額が地方交付税の財源となります。
地方法人税は2014年10月に創設されました。それ以前は法人住民税の法人税割(地方税)の税率が高く設定されていましたが、地域間の税収格差を是正するため、法人住民税の法人税割の税率を引き下げる代わりに地方法人税(国税)を新設し、その財源を地方交付税として全国の地方自治体に再配分する仕組みとなっています。
本記事では、地方法人税率の計算方法と、混同しやすい法人住民税・法人事業税との違い、そして法人にかかる税負担の全体像を詳しく解説します。
地方法人税に関する重要ポイントをまとめます。
・地方法人税率は一律10.3%(2019年10月以降)
・課税標準は法人税額(課税標準法人税額)
・税務署に法人税と同時申告する
・法人住民税(地方税)とは別の税目である
・赤字の場合は法人税と同様にゼロとなる(均等割は別途かかる)
・損金算入は不可(法人事業税は損金算入可)
法人の税負担は法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税・特別法人事業税と複数あり、それぞれの仕組みを正確に理解することが適切な税務申告・節税対策の基本です。税務に不安がある場合は、税理士に相談することをお勧めします。
目次
地方法人税率とは何か|基本的な仕組みと目的
地方法人税は、法人税額の10.3%を課税する国税であり、地方交付税の財源として全国の地方自治体に再配分されます。名称に「地方」とついていますが国税であり、税務署への申告・納付となる点が重要です。
制度の目的は地域間の税収格差の是正です。法人住民税の法人税割の一部を国税(地方法人税)として切り出すことで、大都市圏に偏りがちだった税収を地方交付税経由で地方圏にも届ける仕組みを構築しています。
地方法人税率の税率と計算方法
地方法人税の計算は、法人税額(課税標準法人税額)に地方法人税率を掛けて算出します。
地方法人税の税率
地方法人税率は10.3%です(2019年10月1日以降開始事業年度から)。
2014年10月〜2019年9月:4.4%
2019年10月以降:10.3%
計算式
地方法人税額 = 課税標準法人税額 × 10.3%
課税標準法人税額は、基本的に「法人税額(法人税申告書別表一の法人税額)」から試験研究費の税額控除等を差し引いたものです。
具体的な計算例
法人税額が500万円の場合:
地方法人税額 = 500万円 × 10.3% = 51.5万円
合計の国税負担:500万円(法人税)+ 51.5万円(地方法人税)= 551.5万円
申告・納付のタイミング
地方法人税は法人税と同様に事業年度終了日から2ヶ月以内(申告期限延長がある場合は延長後)に申告・納付します。法人税申告書(法人税及び地方法人税申告書)に一括して記載し、同時に申告します。
中間申告の取り扱い
前期の法人税額が20万円超の場合は中間申告(法人税と地方法人税を合わせて)が必要です。
法人にかかる税金の全体像
法人が納付する税金は複数あり、それぞれの計算ベースや納付先が異なります。地方法人税の位置づけを正確に理解するため、法人税負担の全体像を整理します。
法人にかかる主な税金
1. 法人税(国税)
・課税標準:課税所得(益金 - 損金)
・税率:中小法人は年800万円以下15%、超過分23.2%
・申告先:税務署
2. 地方法人税(国税)
・課税標準:課税標準法人税額(法人税額)
・税率:10.3%
・申告先:税務署(法人税と同時申告)
3. 法人住民税(地方税)
・均等割:資本金等の規模に応じた定額
・法人税割:法人税額 × 法人税割率(都道府県・市区町村ごとに異なる)
・申告先:都道府県・市区町村
4. 法人事業税(地方税)
・課税標準:課税所得または付加価値・資本金等(外形標準課税)
・税率:都道府県ごとに異なる
・申告先:都道府県
5. 特別法人事業税(国税だが地方税と同時申告)
・課税標準:法人事業税額
・税率:37%(標準税率の場合)
実効税率の考え方
中小法人の実効税率は概ね33〜35%程度です(法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税を合算)。東京都の中小法人(資本金1億円以下)の場合、実効税率は約34%前後となります。
外形標準課税
資本金1億円超の法人には外形標準課税が適用され、法人事業税の計算が所得基準から付加価値・資本割基準に変わります。赤字でも一定の税負担が生じる点が中小法人との大きな違いです。
法人住民税との違い
地方法人税と法人住民税は名称が似ており、混同されやすいです。両者の違いを正確に理解しましょう。
地方法人税(国税)の特徴
・国税として税務署に申告・納付する
・税率は全国一律10.3%
・財源は地方交付税として全国の自治体に配分される
・法人税申告書に組み込まれて申告する
法人住民税(地方税)の特徴
・都道府県・市区町村に申告・納付する
・均等割と法人税割の2種類がある
・法人税割の税率は都道府県・市区町村ごとに異なる(標準税率が定められているが超過課税がある)
・法人税割の課税標準は法人税額
法人住民税の税率目安(東京都の場合)
都民税(法人税割):1%(標準税率、2019年10月1日以後開始事業年度から)
特別区民税(法人税割):6%(標準税率)
合計:約7%
法人住民税の均等割
法人住民税の均等割は課税所得に関わらず一定額が課税されます。資本金等の額と従業員数によって決まり、都道府県均等割と市区町村均等割の合計は中小法人で年間7万円〜数十万円程度です。
なぜ地方法人税が創設されたのか
2014年以前、法人住民税の法人税割(地方税)は各自治体の税収となり、大都市圏と地方圏で税収格差が大きい問題がありました。地方法人税を国税として徴収し、地方交付税として再配分する仕組みにより、地方圏の税収不足を補うことが目的です。
法人事業税との違い
法人事業税も地方法人税と混同しやすい税目です。両者の違いと、特別法人事業税との関係を整理します。
法人事業税の概要
法人事業税は事業活動に課される都道府県税です。法人の課税所得(所得割)または付加価値・資本金(外形標準課税)を課税標準として、都道府県に申告・納付します。
法人事業税は損金算入が認められているため、翌期の法人税計算において費用として控除できます(地方法人税・法人住民税は損金算入不可)。
特別法人事業税とは
2019年10月に法人事業税の一部が「特別法人事業税」として分離されました。特別法人事業税は国税として徴収され、全額が地方交付税財源となります(地域間税収格差の是正が目的)。法人事業税と同時に都道府県に申告・納付しますが、最終的な税収は国に移転されます。
特別法人事業税の税率:
・所得割で申告する場合:37%(標準税率)
・外形標準課税適用法人の場合は異なる税率
各税目の損金算入の可否
・法人税:損金算入不可
・地方法人税:損金算入不可
・法人住民税:損金算入不可
・法人事業税:損金算入可(翌期に費用計上)
・特別法人事業税:損金算入可(法人事業税と一体として処理)
法人事業税・特別法人事業税は損金算入できるため、実質的な税負担は表面税率より低くなります。実効税率の計算では法人事業税の損金算入効果を加味します。

申告書記載方法|別表の書き方
地方法人税は法人税申告書と同じ申告書に記載します。実務で申告書を作成する際の記載箇所を解説します。
申告書の構成
地方法人税は「法人税及び地方法人税申告書」に記載します。申告書の主要部分は共通で、地方法人税の計算は申告書の後半部分(地方法人税申告書欄)に記載します。
記載の流れ
1. 別表一:法人税額の確定(課税標準法人税額の計算)
2. 地方法人税申告書:
・課税標準法人税額の記載
・地方法人税額の計算(課税標準 × 10.3%)
・税額控除(外国税額控除等)
・既払い中間地方法人税額の控除
・差引地方法人税額の確定
電子申告(e-Tax)での対応
現在は法人税・地方法人税の申告は電子申告(e-Tax)で行うことが一般的です。会計ソフトや税務申告ソフトを使用すれば、法人税額から自動的に地方法人税額が計算されます。
消費税の申告との関係
事業年度と消費税の課税期間が一致している場合、法人税・地方法人税・消費税を同じタイミングで申告します。ただし申告書は別々に作成します。
税理士への依頼
法人税の申告は専門的な知識が必要で、誤りが多いと税務調査の対象になるリスクがあります。中小企業でも税理士に申告を依頼することをお勧めします。特に初年度・設立直後・事業内容が複雑な場合は専門家のサポートが重要です。
歴史と制度改正の変遷|税率変更の背景
地方法人税制度の変遷を理解することで、現在の税率と制度設計の意図がより明確になります。
地方法人税創設前の背景(〜2014年)
地方法人税が創設される前、法人住民税の法人税割は各都道府県・市区町村の独自財源でした。大企業が集中する東京都・大阪府・神奈川県などの大都市圏では法人税割の税収が豊富な一方、地方圏の自治体では税収が乏しく、地域間格差が深刻な問題となっていました。
地方法人税の創設(2014年10月)
地方法人税は2014年10月1日以後に開始する事業年度から適用されました。当初の税率は4.4%でした。
同時に法人住民税の法人税割の標準税率が引き下げられ(道府県民税:5%→3.2%、市町村民税:12.3%→9.7%)、実質的に法人住民税の一部を国税(地方法人税)に切り替える形となりました。
税率の引き上げ(2019年10月)
2019年10月(消費税増税と同時)から地方法人税率が4.4%から10.3%に引き上げられました。同時に法人住民税の法人税割がさらに引き下げられました(道府県民税:3.2%→1%、市町村民税:9.7%→6%)。この改正により地域間格差是正の効果が強化されました。
今後の制度改正動向
地方法人税をめぐっては、地方の税収安定化を求める動きと、地方自治の観点からの議論が続いています。経済環境の変化に応じて今後も制度改正が行われる可能性があります。税制改正情報は毎年12月の税制改正大綱で発表されるため、経営者・経理担当者は最新情報を確認することが重要です。
消費税増税との関係
2019年10月の消費税率10%への引き上げと同時に地方法人税率も改定されたことは、財政調整の一環です。消費税収の地方分配と法人税関連税制の調整が組み合わさって、地域間の財政バランスを保つ設計となっています。
事業形態別の法人税・地方法人税の違い|株式会社・合同会社・個人事業主の比較
事業を行う際の法人形態によって、課税の仕組みが異なります。株式会社・合同会社・個人事業主の税負担を比較します。
株式会社・合同会社(法人)の課税
法人格がある場合、法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税が課税されます。実効税率は中小法人で概ね33〜35%程度です。
メリット:
・役員報酬を経費(損金)として計上できる
・交際費の損金算入に一定の優遇あり(中小法人は800万円まで全額)
・退職金を損金算入できる
・欠損金の繰越期間が長い(10年)
個人事業主の課税
個人事業主は法人税ではなく所得税(累進課税)が課税されます。地方法人税・法人住民税・法人事業税はかかりません。代わりに個人住民税・個人事業税が課税されます。
・所得税:5〜45%の累進税率
・住民税:約10%(一律)
・個人事業税:約5%(事業の種類による)
高所得になるほど個人の税負担が法人より重くなる傾向があり、一般的に課税所得が800万円を超えると法人化(法人成り)が有利になるといわれています。
合同会社(LLC)の特徴
合同会社は株式会社と同様に法人税・地方法人税が課税されます。設立コストが低く(登録免許税6万円)、定款認証不要というメリットがあります。法人税の課税については株式会社と実質的に同じです。
法人成りの税メリットのシミュレーション
個人事業主として年間所得1,500万円の場合:
・所得税(概算):約450万円
・住民税:約150万円
・事業税:約70万円
合計:約670万円
法人化して役員報酬700万円・法人所得800万円の場合:
・法人税・地方法人税等(法人所得800万円):約280万円
・個人所得税・住民税等(役員報酬700万円):約200万円
合計:約480万円
法人化で年間約190万円の節税効果(試算)。ただし社会保険料・法人維持コストも考慮が必要です。
法人の節税対策との関係|課税所得を下げる方法
法人税・地方法人税を合法的に削減するための節税対策は、企業経営において重要な経営戦略です。課税所得を適切に管理することで、地方法人税を含む法人税負担全体を最適化できます。
損金算入の最大活用
法人税・地方法人税は課税所得(益金-損金)に課税されるため、損金算入できる費用を最大限活用することが基本的な節税手段です。
主な損金算入可能項目:
・役員報酬(定期同額給与など適正な要件を満たすもの)
・給与・賞与
・減価償却費
・交際費(大法人は一部のみ、中小法人は800万円まで全額)
・研究開発費
・寄付金(一定限度内)
・法人事業税・特別法人事業税(翌期に損金算入)
中小法人の特別な優遇措置
・軽減税率:年所得800万円以下は15%(通常23.2%)
・少額減価償却資産の特例:30万円未満の固定資産を一括費用計上(年300万円まで)
・中小企業投資促進税制:設備投資額の税額控除
・経営強化税制:中小企業等経営強化法認定を受けた設備投資の即時償却または税額控除
税額控除の活用
試験研究費の税額控除(研究開発税制)・雇用促進税制・賃上げ税制などを活用すると、法人税額が直接控除され、連動して地方法人税も削減できます。
決算期の選択
決算期を適切に設定することで、課税所得のタイミングをコントロールできます。例えば、大型設備投資の直前期に決算を設定することで、翌期以降の減価償却費による節税効果を得やすくなります。
欠損金の繰越控除
過去に生じた欠損金(赤字)は一定期間繰り越し、将来の所得から控除できます。中小法人は所得の全額から控除可能なため、黒字転換年度に欠損金を最大限活用することで法人税・地方法人税を削減できます。
地方法人税の国際比較|日本の法人税負担は高いのか
地方法人税を含む日本の法人税負担は、国際的に見てどのような水準にあるのでしょうか。
主要国の法人実効税率(2024年時点の概算)
・日本:約29.74%(国税・地方税合計)
・アメリカ:約25.77%(連邦21%+州税平均)
・ドイツ:約29.94%(連邦税25%+連帯付加税+営業税)
・フランス:約25.83%(法人税25%+地方税)
・イギリス:25%(2023年4月以降)
・シンガポール:17%
・香港:16.5%
日本の法人実効税率は欧米先進国と比較して同水準か若干高い程度ですが、シンガポール・香港などのアジア拠点と比べると大幅に高く、拠点選択に影響することがあります。
法人税率の国際的な引き下げ競争
1990年代以降、各国が企業誘致・国際競争力強化のために法人税率の引き下げ競争を行ってきました。日本でも2012年以降、段階的に法人税率が引き下げられ、2016年には現在の23.2%となりました。
OECD・G20のグローバルミニマム税
2023年以降、OECD・G20が推進する「グローバルミニマム税(第二の柱)」により、年間売上7.5億ユーロ以上の多国籍企業は最低15%の実効税率が課されることになりました。これにより、低税率国への利益移転を通じた税回避が制限されます。
中小企業には関係が薄い国際税務
国際税務(移転価格税制・グローバルミニマム税等)は主に大企業・多国籍企業に関わる問題です。国内中小企業にとっては法人税・地方法人税の基本的な仕組みと節税策を理解することが優先です。ただし海外取引がある中小企業は外国税額控除など国際税務の基礎知識も必要になります。
よくある疑問Q&A
Q:地方法人税はなぜ「地方」の名前なのに国税なのですか?
A:地方法人税の収入が地方交付税として地方自治体に配分されるため「地方」の名称がついています。徴収・申告先は税務署(国税)ですが、最終的な財源は地方の行政に使われます。
Q:赤字(欠損金)の場合、地方法人税はかかりますか?
A:原則として法人税額がゼロの場合は地方法人税もゼロです。ただし法人住民税の均等割は赤字でも課税されます(規模に応じて最低7万円程度)。
Q:法人税がゼロの場合でも地方法人税の申告は必要ですか?
A:法人税申告書と地方法人税申告書は一体として申告します。法人税額がゼロの場合は地方法人税もゼロですが、申告書の提出は必要です。
Q:設立初年度の場合、中間申告は必要ですか?
A:設立初年度は原則として中間申告が不要です。また前期の法人税額が20万円以下の場合も中間申告は不要です。
Q:中小法人と大法人で地方法人税率は違いますか?
A:地方法人税率は規模に関わらず一律10.3%です。ただし課税標準となる法人税額の計算(軽減税率の適用等)は法人規模によって異なります。
Q:地方法人税は消費税の計算に影響しますか?
A:消費税の計算は売上・仕入等の取引金額に基づくため、地方法人税は直接影響しません。ただし法人税・地方法人税の支払いはキャッシュフローに影響します。
Q:連結納税(グループ通算制度)の場合の地方法人税は?
A:グループ通算制度を適用している場合も、地方法人税は各法人の課税標準法人税額を基に計算されます。グループ全体での調整後の各社分担額が計算されます。
Q:外国法人の日本支店に地方法人税はかかりますか?
A:日本に恒久的施設(PE)を持つ外国法人は、日本国内源泉所得に対して法人税・地方法人税が課税されます。申告先・手続きは内国法人と基本的に同様です。
Q:事業年度が1年未満の場合の地方法人税の計算は?
A:法人税の計算は事業年度が1年未満の場合に軽減税率の適用判定等で月数按分が必要ですが、地方法人税の計算式(法人税額×10.3%)自体は変わりません。
Q:地方法人税の延滞税・加算税は?
A:法人税と同様に、期限後申告や修正申告の場合は延滞税・加算税が課されます。地方法人税の延滞税率は法人税と同じ税率が適用されます。
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