
「車通勤の従業員に交通費をいくら支給すればよいのか」「ガソリン代の計算方法がわからない」と悩んでいる経理担当者や経営者は多いのではないでしょうか。車通勤の交通費は法律で支給が義務づけられているわけではありませんが、多くの企業が福利厚生の一環として通勤手当を支給しています。
この記事では、車通勤の交通費の相場、計算方法、非課税限度額、就業規則への記載方法まで解説します。読み終えると、自社の通勤手当のルールを適切に設定できるようになります。
これから通勤手当の制度を新しく作る企業にも、既存の制度を見直したい企業にも役立つ内容です。
目次
車通勤の交通費は支給義務があるか
結論から言うと、車通勤の交通費を支給する法律上の義務はありません。労働基準法にも通勤手当の支給を義務づける条文はなく、企業の判断に委ねられています。
ただし、就業規則や雇用契約書で通勤手当の支給を明記している場合は、その内容に従って支払う義務が発生します。一度定めた支給ルールを企業側の都合で一方的に変更すると、労働条件の不利益変更にあたる場合もあるため注意が必要です。
厚生労働省の調査によると、通勤手当を支給している企業の割合は約92%にのぼります。ほとんどの企業が通勤手当を支給しているのが実態です。車通勤が多い地方の企業では、通勤手当の有無が採用活動にも影響します。人材を確保するためにも、通勤手当の制度は整備しておくとよいでしょう。
通勤手当を支給しない場合は、その旨を就業規則に明記しておくことが大切です。記載がないまま慣行的に支給していると、既得権として請求される可能性もあります。
車通勤の交通費の相場
車通勤の交通費は、通勤距離や地域によって大きく異なります。一般的な相場を確認しましょう。
片道10km未満の場合、月額4,200円から7,100円程度を支給する企業が多いです。片道10kmから25km未満では、月額7,100円から12,900円程度が相場になります。片道25km以上の場合は、月額12,900円から31,600円程度を支給するケースが見られます。
これらの金額は、後述する非課税限度額の範囲内に収まるよう設定されていることがほとんどです。非課税限度額を上限にして支給額を決めている企業が多い点は覚えておきましょう。
地域によってガソリン価格や道路状況が異なるため、全国一律の金額を設定するよりも、実態に即した基準を設ける企業が増えています。東京都内と地方都市では、同じ通勤距離でもガソリン代や高速道路の利用頻度が変わるためです。
上限額を設けず実費精算をする方法もありますが、管理の手間やコストの観点から、距離に応じた定額支給を採用する企業が主流です。
車通勤の交通費の計算方法
車通勤の交通費を算出する方法は大きく分けて2つあります。ガソリン代を基準にする方法と、距離に応じた定額を支給する方法です。それぞれの特徴を理解したうえで、自社に合った方式を選びましょう。
ガソリン代を基準にした計算方法
ガソリン代を基準にする場合は、次の計算式を使います。
月額交通費 = 片道の通勤距離 × 2(往復) × 月の出勤日数 × ガソリン単価 ÷ 燃費
具体的な計算例を見てみましょう。
通勤距離が片道15km、月の出勤日数が20日、ガソリン単価が170円/L、車の燃費が15km/Lの場合は次のとおりです。
15km × 2 × 20日 × 170円 ÷ 15km/L = 6,800円/月
この方法のメリットは、実態に近い金額を算出できる点です。一方で、ガソリン価格の変動や車種ごとの燃費の違いを考慮する必要があるため、運用の手間がかかります。
ガソリン単価は毎月変動するため、多くの企業では3か月ごとや半年ごとに見直すルールを設けています。毎月変更すると給与計算の負担が大きくなるためです。
燃費の設定も重要なポイントです。従業員の申告をそのまま採用する方法もありますが、不公平感を避けるために、一律の燃費(たとえば10km/Lや12km/L)を設定する企業が多いです。実際の燃費より低めに設定することで、高速道路の利用や渋滞によるロスも吸収できます。
距離に応じた定額支給
距離に応じた定額支給は、通勤距離の区分ごとに支給額を固定する方法です。管理がしやすく、多くの企業が採用しています。
定額支給の例を示します。
片道2km以上10km未満: 月額4,200円
片道10km以上15km未満: 月額7,100円
片道15km以上25km未満: 月額12,900円
片道25km以上35km未満: 月額18,700円
片道35km以上45km未満: 月額24,400円
片道45km以上55km未満: 月額28,000円
片道55km以上: 月額31,600円
この区分は、所得税法で定められた非課税限度額と同じ金額になっています。非課税限度額を支給額の上限に設定する企業が多いのは、これが最も合理的でわかりやすいためです。
定額支給のメリットは、計算が簡単で公平性が高い点です。ガソリン価格の変動に左右されず、毎月一定額を支給できます。一方で、ガソリン価格が大幅に上昇した場合は、従業員の負担が増える可能性がある点はデメリットです。
通勤距離の測り方
通勤距離の算定方法を明確にしておかないと、従業員とのトラブルの原因になります。以下の方法が一般的です。
Googleマップなどの地図サービスで自宅から勤務地までの距離を測定する方法が最も広く使われています。自動車のルートで検索し、最短距離を採用するケースが多いです。
車のオドメーターの数値を確認する方法もあります。ただし、通勤以外の走行も含まれるため、正確性に欠ける場合があります。
通勤経路届を従業員に提出してもらい、届出に記載された距離を採用する方法もあります。この場合、地図サービスの検索結果画面を添付させると、距離の客観性を担保できます。
就業規則には「合理的な経路で最短距離を算定する」と明記しておきましょう。遠回りの経路を申告されるトラブルを防げます。なお、合理的な経路とは、必ずしも最短距離のルートとは限りません。通勤時間帯の渋滞を考慮した経路など、合理的な理由がある場合は柔軟に判断する必要があります。
車通勤の交通費の非課税限度額
車通勤の通勤手当には、所得税の非課税限度額が定められています。この限度額を正しく理解することは、経理処理の面で非常に重要です。
片道の通勤距離に応じた非課税限度額一覧
所得税法施行令第20条の2に基づき、車通勤の通勤手当の非課税限度額は以下のとおり定められています。
片道2km未満: 全額課税(非課税枠なし)
片道2km以上10km未満: 月額4,200円
片道10km以上15km未満: 月額7,100円
片道15km以上25km未満: 月額12,900円
片道25km以上35km未満: 月額18,700円
片道35km以上45km未満: 月額24,400円
片道45km以上55km未満: 月額28,000円
片道55km以上: 月額31,600円
片道2km未満の場合は、通勤手当の全額が課税対象になります。徒歩や自転車で通勤できる距離とみなされるためです。従業員の自宅が勤務地から2km未満の場合、車通勤の交通費を支給してもよいですが、全額が所得税の課税対象になる点を説明しておきましょう。
なお、この非課税限度額は通勤手当として支給した金額に適用されます。給与に含めて支給する場合でも、通勤手当として明確に区分されていれば非課税の対象です。
非課税限度額を超えた場合の取り扱い
非課税限度額を超えて通勤手当を支給した場合、超えた分は給与所得として課税されます。
たとえば、片道20kmの従業員に月額15,000円の通勤手当を支給した場合を考えます。片道15km以上25km未満の非課税限度額は12,900円ですので、差額の2,100円が課税対象になります。この2,100円には所得税と住民税がかかり、社会保険料の算定基礎にも含まれます。
超過分の処理をまとめると次のようになります。
所得税: 超過分が給与所得に加算され、源泉徴収の対象になる
住民税: 超過分が翌年度の住民税の算定基礎に含まれる
社会保険料: 超過分が標準報酬月額の算定基礎に含まれる
企業としては、非課税限度額の範囲内で通勤手当を設定するのが最もシンプルです。従業員にとっても、手取り額が減らない非課税限度額内の支給が望ましいでしょう。
ただし、ガソリン価格の高騰や遠距離通勤者への配慮から、あえて非課税限度額を超える支給を行う企業もあります。その場合は、超過分の課税処理を正確に行う必要があります。

車通勤の交通費を就業規則に定める方法
通勤手当の制度を整備するには、就業規則にルールを明記することが不可欠です。曖昧な規定はトラブルの原因になるため、具体的に記載しましょう。
支給条件の設定
支給条件として明確にすべき項目は以下のとおりです。
支給対象者: 正社員のみか、パート・アルバイトにも支給するか
通勤距離の下限: 片道2km以上など、支給対象とする最低距離
通勤手段: 自家用車、バイク、自転車など対象となる手段
併用時のルール: 車と電車を併用する場合の取り扱い
駐車場代: 通勤手当に含めるか、別途支給するか
パートやアルバイトに通勤手当を支給しない規定を設ける場合は、同一労働同一賃金の観点から合理的な理由が必要です。雇用形態の違いだけを理由に通勤手当を支給しないことは、パートタイム・有期雇用労働法に抵触する可能性があります。
駐車場代については、会社が駐車場を用意している場合と、従業員が自分で契約している場合で扱いが変わります。従業員が負担する駐車場代を通勤手当として支給する場合は、非課税限度額の計算に含まれる点に注意しましょう。
支給額の算定基準
支給額の算定基準として、以下の内容を就業規則に記載します。
計算方法: ガソリン代基準か定額支給かを明記する
ガソリン単価: 基準とする単価と見直しの頻度を定める
燃費の基準: 一律の燃費を採用するか、車種ごとに定めるか
上限額: 非課税限度額を上限とするかどうか
端数処理: 円未満の端数は切り上げか四捨五入か
就業規則の記載例を示します。
「通勤手当は、片道の通勤距離に応じて以下の金額を支給する。ただし、片道の通勤距離が2km未満の場合は支給しない。」
このように、誰が読んでも解釈が分かれない文言で記載することが重要です。「適切な額を支給する」のような曖昧な表現は避けましょう。
届出と変更の手続き
通勤手当の適正な運用には、届出と変更の手続きを明確にしておく必要があります。
入社時の届出: 通勤経路届を入社時に提出してもらう。通勤距離、経路、使用する車のナンバーを記載させる
変更届: 転居や勤務地の変更があった場合は、速やかに届け出るルールを設ける
届出の期限: 変更が生じた日から何日以内に届け出るかを定める(一般的には14日以内)
虚偽申告への対応: 通勤距離を偽って申告した場合の処分を明記する
通勤経路届には、地図サービスの検索結果を添付させることをおすすめします。距離の根拠が客観的に示されるため、後からのトラブルを防止できます。
定期的な実態確認も重要です。年に1回、通勤経路届の内容に変更がないか確認する運用を取り入れている企業もあります。転居したにもかかわらず届出を出さず、従来の通勤手当を受け取り続けるケースを防ぐためです。
車通勤と公共交通機関を併用する場合
自宅から最寄り駅まで車で通勤し、そこから電車で通勤する「パークアンドライド」のような併用パターンも少なくありません。この場合の取り扱いを確認しましょう。
併用の場合、非課税限度額は車通勤分と公共交通機関分を合算して計算します。具体的には、車通勤の距離に応じた非課税限度額と、公共交通機関の1か月の定期代(最大月額15万円まで)の合計が非課税限度額になります。
計算例を見てみましょう。
自宅から最寄り駅まで片道8kmを車で通勤し、電車の定期代が月額15,000円の場合は次のとおりです。
車通勤分の非課税限度額: 4,200円(片道2km以上10km未満)
公共交通機関分の非課税限度額: 15,000円(定期代の実費)
合計の非課税限度額: 19,200円
つまり、月額19,200円までは非課税で通勤手当を支給できます。
注意点として、併用の場合も車通勤分は距離に応じた非課税限度額が適用されます。ガソリン代の実費ではなく、あくまで距離区分に基づいた金額です。公共交通機関分は定期代の実費が非課税になる点との違いを理解しておきましょう。
パークアンドライドの場合は、駐車場代の扱いも検討が必要です。駅前の月極駐車場の料金を会社が負担するかどうかは、就業規則で定めておくとよいでしょう。
車通勤の交通費に関する経理処理
通勤手当の経理処理は、勘定科目の選択と消費税の取り扱いが重要なポイントです。正確な処理を確認しましょう。
勘定科目と仕訳
通勤手当の勘定科目は「旅費交通費」として処理するのが一般的です。ただし、給与と一緒に支給する場合は「給与手当」に含めて処理する企業もあります。
仕訳例を見てみましょう。従業員に通勤手当10,000円を給与と一緒に支払う場合の仕訳は次のとおりです。
借方: 旅費交通費 10,000円
貸方: 普通預金 10,000円
給与に含めて処理する場合は次のようになります。
借方: 給与手当 310,000円(基本給300,000円 + 通勤手当10,000円)
貸方: 普通預金 253,000円(差引支給額)
貸方: 預り金 57,000円(源泉所得税・住民税・社会保険料)
どちらの方法でも税務上の扱いは同じですが、「旅費交通費」で処理すると通勤手当の金額を明確に把握できるメリットがあります。
非課税分と課税分の区分管理も必要です。非課税限度額を超えて支給する場合は、非課税分と課税分を分けて管理します。課税分は源泉徴収の対象となるため、年末調整の際に正確な金額を把握しておかなければなりません。
消費税の取り扱い
通勤手当の消費税の取り扱いは、企業が消費税の課税事業者である場合に重要になります。
通勤手当は、所得税法上の非課税限度額の範囲内であれば、消費税法上は「課税仕入れ」として処理できます。つまり、仕入税額控除の対象になります。
ただし、所得税の非課税限度額を超える部分であっても、通勤に通常必要と認められる範囲の金額であれば、消費税法上は「課税仕入れ」として処理できます。それを超える(給与としての性質を持つ)部分は、消費税の課税対象外(不課税)となります。
具体例で確認しましょう。片道20kmの従業員に月額15,000円の通勤手当を支給する場合は次のとおりです。
非課税限度額: 12,900円 → 課税仕入れ(仕入税額控除の対象)
超過分: 2,100円 → 不課税(仕入税額控除の対象外)
この区分を正しく行わないと、消費税の申告額に誤りが生じます。特にインボイス制度の導入後は、通勤手当に関する帳簿の記載要件が厳格化されているため、正確な区分管理が求められます。
なお、通勤手当として支給するのではなく、会社が直接ガソリンを購入して従業員に支給する場合は、購入額の全額が課税仕入れの対象です。ただし、この方法は運用の手間が大きいため、実務上はほとんど採用されていません。
車通勤の交通費に関するよくある質問
Q: 車通勤とバイク通勤で非課税限度額は異なりますか?
A: いいえ、同じです。所得税法上、自動車と原動機付自転車(バイク)は同じ非課税限度額が適用されます。片道の通勤距離に応じた金額は車通勤と同一です。ただし、自転車通勤の場合も同じ限度額が適用されます。
Q: 通勤手当を年払いで支給することはできますか?
A: できます。通勤手当の支給方法に法律上の制限はありません。月払い、年払い、四半期払いなど、企業が自由に定められます。ただし、年払いの場合は非課税限度額を月額に換算して年額で計算します。片道15km以上25km未満の場合、月額12,900円 × 12か月 = 年額154,800円が非課税限度額です。
Q: 中途入社や退職時の通勤手当は日割り計算が必要ですか?
A: 法律上の義務はありませんが、就業規則で日割り計算のルールを定めておくことをおすすめします。月の途中で入社した場合は「月額 ÷ その月の所定労働日数 × 実出勤日数」で計算する方法が一般的です。退職時も同様の計算方法が適用されます。月払いで端数が出る場合の処理も定めておくとよいでしょう。
Q: 在宅勤務と出社を併用する場合、通勤手当はどう計算しますか?
A: 在宅勤務を導入している企業では、通勤手当を実費精算に切り替えるケースが増えています。月額定額の支給を見直し、実際の出社日数に応じてガソリン代相当額を支給する方法です。たとえば、月に10日出社する場合は「片道の通勤距離 × 2 × 10日 × ガソリン単価 ÷ 燃費」で計算します。定期的に出社日数が変動する場合は、3か月ごとの精算にすると管理しやすくなります。
Q: EV(電気自動車)で通勤する従業員への交通費はどう計算しますか?
A: EVの場合もガソリン車と同様に、通勤距離に基づいて通勤手当を支給します。非課税限度額はガソリン車と同じ基準が適用されます。計算方法としては、電気代を基準にする方法があります。「片道の通勤距離 × 2 × 月の出勤日数 × 電気単価 ÷ 電費」で算出します。電費はメーカーの公表値を基準にする方法が合理的です。実務上は、ガソリン車と同じ定額支給を適用する企業が多いです。EVの普及に伴い、今後は就業規則にEVに関する規定を盛り込む企業が増えると考えられます。
まとめ
車通勤の交通費は法律上の支給義務はありませんが、約92%の企業が通勤手当を支給しています。制度を整備する際は、以下のポイントを押さえておきましょう。
計算方法はガソリン代基準か定額支給の2つがあり、管理のしやすさから定額支給が主流です。
非課税限度額は片道の通勤距離に応じて4,200円から31,600円まで定められており、この範囲内で支給するのが最も合理的です。
就業規則には支給条件、算定基準、届出の手続きを明確に記載し、曖昧な表現は避けましょう。
経理処理では、非課税分と課税分の区分管理を正確に行い、消費税の仕入税額控除にも注意が必要です。
通勤手当の制度設計は、従業員の満足度と企業のコスト管理の両面に影響します。この記事の内容を参考に、自社の状況に合ったルールを整備してください。



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