
借入返済の仕訳を正確に行えれば、財務諸表が正しく作られ、銀行への説明や融資審査でも自信を持って臨めます。この記事を読めば、元金・利息の処理から長期・短期借入金の区分、毎月の返済仕訳まで具体的な数値例でわかります。仕訳テンプレートと確認ポイントがあるので、経理経験が浅くても正確に処理できるようになります。
目次
借入金の勘定科目の基本
借入金の会計処理では、借り入れた資金の種類・返済期間・返済内容によって使用する勘定科目が異なります。まずは基本となる勘定科目の体系を理解しましょう。
長期借入金と短期借入金の違い
借入金は返済期間によって長期借入金と短期借入金に分類します。
短期借入金:返済期限が1年以内の借入金。流動負債に計上します。運転資金の一時的な調達や手形貸付などが該当します。
長期借入金:返済期限が1年超の借入金。固定負債に計上します。設備投資のための長期融資や住宅ローンなどが該当します。
注意点として、長期借入金のうち1年以内に返済期限が到来する部分は「1年以内返済長期借入金」として流動負債に振り替える必要があります。これを怠ると財務諸表の流動比率が実態より良く見えてしまい、粉飾決算とみなされるリスクがあります。
元金返済と利息の勘定科目
毎月の返済金額は「元金(元本)部分」と「利息部分」で構成されています。それぞれ異なる勘定科目を使います。
元金部分:借入金(長期借入金または短期借入金)の減少として処理します。貸借対照表の負債を減らす取引です。
利息部分:支払利息(費用)として計上します。損益計算書の営業外費用に表示されます。
元金と利息を混同して全額を費用計上するミスが多いため、必ず分けて処理することが重要です。
借入返済の仕訳例
具体的な数値を使って、様々なケースの仕訳を確認しましょう。
毎月の返済仕訳(元利均等返済)
元利均等返済は毎月の支払額が一定で、元金と利息の内訳が毎月変化する返済方式です。
【設定条件】
借入額:1,000万円、返済期間:5年、金利:年2%、毎月返済額:175,278円
第1回目の元金:158,611円、利息:16,667円
【第1回返済時の仕訳】
借方:長期借入金 158,611円
借方:支払利息 16,667円
貸方:普通預金 175,278円
毎月の元金・利息の内訳は金融機関から発行される「返済予定表(償還表)」で確認できます。月ごとに金額が変わるため、返済予定表を手元に置いて処理することを習慣にしましょう。
毎月の返済仕訳(元金均等返済)
元金均等返済は毎月の元金返済額が一定で、利息部分が徐々に減少する返済方式です。
【設定条件】
借入額:600万円、返済期間:5年(60回)、金利:年2.4%、毎月元金返済:100,000円
第1回目の利息:12,000円(600万円 × 2.4% ÷ 12か月)
【第1回返済時の仕訳】
借方:長期借入金 100,000円
借方:支払利息 12,000円
貸方:普通預金 112,000円
元金均等返済では毎月の利息計算が必要ですが、残高 × 月利で計算できるため比較的シンプルです。
短期借入金の一括返済
証書借入ではなく当座貸越や手形貸付で借り入れた場合など、期日に一括返済するケースがあります。
【設定条件】
短期借入金:500万円、利息:25,000円(返済時に一括精算)
【返済時の仕訳】
借方:短期借入金 5,000,000円
借方:支払利息 25,000円
貸方:普通預金 5,025,000円
利息が毎月発生する場合は月末に未払利息として計上し、支払時に精算する処理も必要になります。
未払利息の計上が必要なケース
決算期末において、利息の発生期間と支払い時期がずれる場合は未払利息の計上が必要です。
【例】3月31日決算、4月20日に利息支払いの場合
3月末に3月分利息を費用計上します。
【3月31日決算仕訳】
借方:支払利息 8,000円
貸方:未払利息 8,000円
【4月20日支払い仕訳】
借方:未払利息 8,000円
借方:支払利息 2,000円(4月1〜20日分)
貸方:普通預金 10,000円
未払利息の計上を怠ると、決算期の費用が過少となり税務上の問題が生じます。
長期借入金の流動負債振り替え
決算時に重要な処理のひとつが、1年以内返済長期借入金への振り替えです。
1年以内返済長期借入金への振り替え
決算日の翌日から1年以内に返済期限が到来する長期借入金は、流動負債「1年以内返済長期借入金」に振り替えます。
【例】決算日:3月31日、長期借入金残高300万円のうち次の1年間で返済予定の分:120万円
【決算振替仕訳】
借方:長期借入金 1,200,000円
貸方:1年以内返済長期借入金 1,200,000円
この処理により、貸借対照表では残りの180万円が固定負債(長期借入金)、120万円が流動負債(1年以内返済長期借入金)として適正に表示されます。
翌期に実際に返済が行われると、1年以内返済長期借入金が減少します。
借入返済における消費税の取り扱い
借入金の元金返済と利息支払いの消費税処理は、それぞれ異なるルールがあります。
元金返済は消費税なし
借入金の元金部分の返済は資金調達・返済であり、消費税の課税対象外(不課税取引)です。消費税を計算する際に元金部分は含めません。
利息の支払いは非課税
金融機関への利息支払いは消費税法上の「非課税取引」です。課税対象外とは異なり、利息を受け取る側(金融機関)が消費税を負担しない取引として法律で規定されています。したがって、支払利息には消費税がかかりません。
仕訳で支払利息を計上する際、消費税区分は「非課税」または「対象外」として入力します。会計ソフトによって選択肢の名称が異なるため、マニュアルや税理士に確認してください。
借入返済の実務チェックリスト
毎月の借入返済処理で確認すべきポイントをまとめました。
1. 返済予定表(償還表)を手元に用意して、当月の元金・利息の内訳を確認する
2. 長期借入金と短期借入金の区分が正しいか確認する
3. 利息の消費税区分を「非課税」で処理する
4. 決算時に1年以内返済長期借入金への振り替えを忘れずに行う
5. 月末に利息の未払いがある場合は未払利息を計上する
6. 返済後の借入残高を金融機関の残高証明書と照合する
これらのポイントを確認しながら処理することで、ミスを防げます。
補助金・助成金による借入返済と会計処理
政府系金融機関の融資や補助金を活用した場合の特殊な会計処理についても確認しておきましょう。
政策金融公庫・信用保証協会付き融資の処理
日本政策金融公庫からの融資や信用保証協会の保証付き融資は、一般の銀行融資と同様の処理で問題ありません。長期借入金または短期借入金として計上し、返済時に元金・利息を区分して仕訳します。
保証料は「支払保証料」として費用計上します。保証期間が複数年にわたる場合は、前払費用として計上して期間按分する処理が適切です。
補助金による借入返済への充当
補助金を受け取って借入金の返済に充当する場合、補助金の受取と借入金の返済は別々に処理します。
【補助金受取時】
借方:普通預金 500,000円
貸方:雑収入(または補助金収入) 500,000円
【借入金返済時(補助金から充当)】
借方:長期借入金 490,000円
借方:支払利息 10,000円
貸方:普通預金 500,000円
補助金は収益として計上した上で、別途借入金の返済に充当します。補助金を直接借入金の減少として処理するのは誤りのため注意してください。
よくある失敗と対処法
経理担当者が借入返済の処理で犯しやすいミスとその対処法を解説します。
元金と利息を分けずに全額費用計上してしまう
最もよくあるミスが、元金部分も利息と合わせて全額「支払利息」や「借入金返済」として費用計上してしまうケースです。
元金の返済は費用ではなく、負債(借入金)の返済です。費用として計上すると、損益計算書の費用が過大計上となり、実際より利益が少なく見えてしまいます。これは財務諸表の信頼性を損ない、税務調査でも問題になります。
対処法:金融機関の返済予定表(元利内訳表)を必ず参照し、元金・利息を正確に区分して仕訳してください。
長期借入金と短期借入金の誤分類
返済期限が1年以内の借入金を長期借入金として計上し続けてしまうケースも多いです。この誤りがあると、流動比率(流動資産÷流動負債)が実態より良く見えるため、財務分析・銀行審査で誤解が生じます。
対処法:毎年の決算時に全借入金の返済スケジュールを確認し、1年以内に返済期限が到来する部分を「1年以内返済長期借入金」へ振り替えます。
返済予定表との照合を怠る
月次処理で返済予定表を確認せず、概算で元金・利息を計上してしまうケースがあります。元利均等返済は月ごとに元金・利息の内訳が変化するため、予定表なしの概算計上では累積誤差が生じます。
対処法:毎月処理前に返済予定表を参照して正確な金額を確認します。インターネットバンキングの明細から自動取得できる会計ソフトを利用している場合でも、元金・利息の内訳は手動で確認・修正が必要なケースがあります。
借入金管理の効率化
複数の借入金を管理する場合、管理ツールと仕組みを整えることで処理ミスを防げます。
借入金管理台帳の作成
借入先・借入日・借入額・返済期間・金利・残高・返済予定表の保管場所などを一覧管理する「借入金管理台帳」を作成することを推奨します。
台帳の項目例:
・借入先(銀行名)・借入日・証書番号
・借入金額・金利(固定・変動)・返済期間
・返済方法(元利均等・元金均等)
・返済期日(毎月何日)
・残高(毎月更新)
・担当者・最終確認日
スプレッドシートで管理するか、会計ソフトの固定負債管理機能を活用します。

融資審査・銀行交渉に活かす管理
借入金の管理を適切に行うことは、将来の融資審査や銀行との交渉でも有利に働きます。財務の健全性を示す観点から確認しておきましょう。
返済能力を示す財務指標
銀行は融資審査において以下の指標で借入返済能力を評価します。
債務償還年数:有利子負債残高 ÷ キャッシュフロー(税引後純利益+減価償却費)
一般的に10年以内が健全とされ、15年を超えると要注意とみなされます。
借入依存度:有利子負債残高 ÷ 総資産
低いほど財務健全性が高いとされます。業種によって基準は異なりますが、50%を超えると高い水準です。
インタレストカバレッジレシオ:営業利益 ÷ 支払利息
利息支払い能力の指標です。1倍以上あれば利息を賄えますが、3〜5倍程度が健全とされます。
これらの指標を定期的にモニタリングすることで、借入金管理の適切さを確認できます。
過剰債務の対処法
借入残高が過大になっている場合の対処法を解説します。
利益の積み上げによる返済促進:本業の収益力を高め、キャッシュフローを改善して返済スピードを上げます。
不要資産の売却:使用していない設備・不動産・有価証券などを売却して返済に充当します。
金利の見直し(リファイナンス):複数の借入を一本化(借換え)し、金利を引き下げることで利息負担を軽減します。
DDS(デット・デット・スワップ)・DES(デット・エクイティ・スワップ):借入金を劣後ローンや株式に転換する手法で、財務の見た目を改善する方法です。専門的な知識が必要なため、金融機関や顧問税理士と相談してください。
節税との関係
借入返済と法人税節税の関係を正しく理解することが、資金繰り計画に役立ちます。
元金返済は節税にならない
重要なポイントとして、借入金の元金返済は法人税の節税になりません。元金は費用ではなく、負債の返済です。
一方、支払利息は損金(費用)に計上できるため、法人税の節税効果があります。ただし、利息は借入金残高が減るにつれて徐々に減少するため、返済が進むにつれて節税効果も小さくなります。
「借入返済額を全額経費にできる」という誤解がしばしば見られますが、元金部分は費用計上できません。法人税の支払いに必要な資金(税引後利益+減価償却費)から借入元金返済額を賄えるかを確認することがキャッシュフロー管理の基本です。
減価償却と借入返済のバランス
設備投資を借入で行う場合、減価償却費と借入元金返済のバランスを意識することが重要です。
例:設備取得価額1,000万円を5年返済で借入
・年間元金返済:200万円
・年間減価償却費(耐用年数8年・定額法):約124万円
この場合、返済額(200万円)が減価償却費(124万円)を上回るため、「減価償却費は計上しているのに税引後利益がなくなる」ように感じることがあります。これは正常な状態ですが、返済に必要なキャッシュフローを確保できるかを事前に確認しておくことが重要です。
設備投資の意思決定時に、投資回収期間・IRR(内部収益率)・キャッシュフロー計画を作成して金融機関と共有することで、適切な借入条件の交渉ができます。
会計用語の解説
借入金の会計処理で登場する専門用語をわかりやすく解説します。初めて経理を担当する方や復習したい方に役立ちます。
元金(元本)とは
元金(元本)とは、借り入れた資金の原資となる金額です。利息を含まない純粋な借入金額を指します。たとえば500万円を借り入れた場合、500万円が元金です。毎月の返済では元金の一部と利息を合わせて支払いますが、元金の返済は負債(借入金)の減少として処理し、費用にはなりません。
利息(利子)とは
利息とは、お金を借りることへの対価として支払う費用です。借入残高に年利率(金利)をかけて計算します。たとえば残高300万円・年利2%なら年間利息は6万円(月額5,000円)です。利息は損益計算書の「支払利息」として費用計上できるため、法人税の節税効果があります。
繰上返済とは
繰上返済とは、返済予定より前倒しで元金を返済することです。繰上返済により借入残高が減り、以降の利息負担が軽減されます。ただし、金融機関によっては繰上返済手数料がかかる場合があります。
仕訳:繰上返済した元金分を借入金から減少させ、手数料がある場合は手数料を費用計上します。
借方:長期借入金 500,000円 / 貸方:普通預金 500,000円(元金の繰上返済)
借方:支払手数料 5,000円 / 貸方:普通預金 5,000円(繰上返済手数料)
リスケジュール(リスケ)とは
リスケジュール(通称リスケ)とは、資金繰りが厳しくなった際に金融機関と交渉して返済条件を変更することです。返済期間の延長・元金の据え置き・利息のみ返済への変更などの方法があります。
リスケを申し込む際は、経営改善計画書を作成して金融機関に提出することが一般的です。リスケ中は追加融資が難しくなる場合があるため、早期に経営改善に取り組むことが重要です。
会計上のリスケ処理:返済条件が変更された場合、長期・短期の区分を変更後の返済スケジュールに合わせて修正します。
金融機関との良好な関係維持のための情報開示
借入金を抱える企業にとって、金融機関との信頼関係は資金調達の安定に直結します。積極的な情報開示と定期的なコミュニケーションが重要です。
試算表・資金繰り表の定期提供:決算書だけでなく、毎月または四半期ごとに試算表と資金繰り実績・予定を金融機関に提供することで、経営の透明性を示せます。
重要事象の早期報告:売上の大幅な変動・重要な取引先の喪失・自然災害による損害など、業績に影響する事象が発生した場合は迅速に報告します。問題を先送りにすると信頼を損なうことになります。
融資条件の見直し交渉:金利環境の変化や業績改善があった際には、借入条件(金利・返済期間)の見直しを積極的に交渉することも重要です。メインバンクとの関係を大切にしながら、複数行取引でリスク分散を図ることも検討してください。
借入金管理のデジタル化について、クラウド会計ソフト(freee・マネーフォワードクラウド・弥生クラウド等)を活用すると、返済予定表のデータをインポートして自動で仕訳を作成する機能が利用できます。これにより毎月の手動入力の手間を大幅に削減でき、計算ミスも防げます。また、借入金の残高推移・支払利息の累計額・負債の状況をダッシュボードで可視化できるため、経営判断の資料としても活用できます。
中小企業向けの借入管理ツールとして、会計ソフトの固定負債管理機能に加えて、スプレッドシートで自作した返済管理表を補助的に使う方法も効果的です。金融機関ごとの残高・金利・返済期日を一覧化することで、複数の借入金を漏れなく管理できます。
まとめ
借入返済の勘定科目と仕訳方法について解説しました。要点をまとめます。
借入金の返済では、元金部分(借入金の減少)と利息部分(支払利息として費用計上)を必ず分けて処理します。長期借入金と短期借入金の区分、1年以内返済分の流動負債振り替えも重要な処理です。
消費税については、元金返済は不課税、利息支払いは非課税として処理します。
毎月の処理では金融機関発行の返済予定表を活用し、決算時には残高確認と振り替え処理を確実に行うことが正確な財務諸表作成の基本です。



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