資金繰りの基礎知識

M&Aの税制を徹底解説|株式譲渡・事業譲渡の税率と節税策

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M&Aに関わる税制を正しく理解しておくと、手取り額の大幅な増加や買収後の資金繰り改善につながります。株式譲渡と事業譲渡では適用される税金の種類も税率も異なり、スキームの選び方ひとつで数百万円から数千万円単位の差が生まれることも少なくありません。この記事では、売り手・買い手それぞれの視点からM&Aに関わる税金の種類・計算方法・節税のポイントを網羅的に解説します。中小企業向けの優遇税制(経営資源集約化税制)や組織再編税制の要点もまとめていますので、M&Aを検討している経営者・担当者の方はぜひ最後までお読みください。

M&Aと税制の基礎知識

M&Aを実行すると、売り手・買い手の双方にさまざまな税金が発生します。課税の種類と金額はスキーム(取引手法)によって大きく変わるため、税制の全体像を把握しておくことがM&A成功の第一歩です。

M&Aで発生する主な税金の種類

M&Aに関連する税金には、大きく分けて以下のものがあります。

法人税・所得税は、売り手が得た譲渡益に対して課される最も基本的な税金です。売り手が個人なのか法人なのか、またどのスキームを選ぶかによって税率が変わります。

消費税は、事業譲渡で棚卸資産や固定資産などの課税資産を移転する際に発生します。株式譲渡には消費税がかかりません。

不動産取得税・登録免許税は、事業譲渡や会社分割によって不動産を移転する場合に買い手側に課されます。

印紙税は、譲渡契約書など一定の書類を作成する際に発生します。

贈与税・相続税は、親族間でのM&Aや低廉譲渡の場合に問題になることがあります。

スキーム別の課税概要

主要な3つのスキームを比較すると以下のとおりです。

株式譲渡は売り手の株主が保有株式を買い手に直接譲渡する手法で、売り手には所得税(法人の場合は法人税)のみが課税され、消費税はかかりません。買い手は株式取得費用を損金算入できませんが、対象会社の繰越欠損金をそのまま引き継げるというメリットがあります。

事業譲渡は会社が選択した事業(資産・負債・契約関係など)をまとめて売り手法人から買い手法人へ移転する手法です。売り手法人には法人税と消費税が発生します。買い手は取得資産を個別に計上でき、のれん(資産調整勘定)を5年間で償却して損金に算入できます。

会社分割・合併(組織再編)は一定要件を満たせば課税繰り延べが認められる「適格組織再編」として扱われます。適格要件を満たさない場合は「非適格組織再編」となり、資産・負債を時価で移転したとみなされて課税が発生します。

株式譲渡の税制

個人株主が株式を譲渡する場合と、法人株主が株式を譲渡する場合では税率・課税方式が大きく異なります。

個人株主の場合の税率

個人株主が保有株式を売却すると、「株式等の譲渡所得」として申告分離課税の対象になります。税率は所得税15.315%(復興特別所得税0.315%含む)と住民税5%を合わせた20.315%の一律課税です。給与所得などほかの所得とは合算されないため、高所得者にとって有利な税率となっています。

計算式は「(譲渡収入金額 − 取得費 − 譲渡費用) × 20.315%」です。たとえば、1億1,000万円で売却し、取得費が1,000万円だった場合、譲渡所得1億円に対して約2,032万円(1億円×20.315%)の税金が発生します。

法人株主の場合の税率

法人株主が株式を売却すると、その譲渡益は他の事業利益と合算して法人税の課税所得に含まれます。中小企業の軽減税率(所得800万円以下に適用される15%)と標準税率(23.2%)を組み合わせた実効税率は、一般的に25%〜34%程度になります。個人株主よりも税率が高くなるケースが多い点に注意が必要です。

株式譲渡における節税のポイント

株式譲渡の節税策としては、以下が代表的です。

取得費の正確な計算が重要です。株式の取得費には購入代金だけでなく、購入時の手数料や増資払込額なども含められます。これらを漏れなく計上することで課税所得を圧縮できます。

役員退職金の活用も有効です。売却前にオーナー経営者に役員退職金を支給すると、会社の純資産が減少し株式の評価額が下がります。退職金は分離課税(退職所得控除・1/2課税)が適用されるため、所得税の負担も抑えられます。

事業譲渡の税制

事業譲渡は売り手(法人)と買い手の双方に多様な税金が発生します。

売り手法人にかかる税金

売り手法人は事業譲渡益(=譲渡価格−簿価)を益金として計上し、法人税・法人住民税・法人事業税を支払います。さらに、棚卸資産や固定資産など「課税資産」の移転に対して消費税(現行10%)が課されます。土地は非課税資産のため消費税はかかりません。

消費税の課税基準は「課税資産の譲渡額」です。たとえば建物5,000万円・備品1,000万円・棚卸資産500万円を売却するケースでは、合計6,500万円の10%である650万円が消費税として発生します。

買い手法人にかかる税金と税務メリット

買い手法人は取得した資産を個別に時価計上します。取得対価が純資産の時価を上回る部分が「資産調整勘定(のれん相当額)」となり、税務上5年(60ヶ月)間の定額償却が認められます。毎年の償却費が損金算入されるため、法人税の節税効果を継続的に享受できます。

また、不動産を取得した場合は不動産取得税(固定資産税評価額の4%、土地・住宅は軽減措置あり)と登録免許税(不動産価格の2%など)が発生します。

のれんの税務上の取り扱い

事業譲渡で計上される資産調整勘定(いわゆる税務上のれん)は、5年(60ヶ月)で定額償却し全額損金算入できます。一方、会計上ののれんは20年以内での定額法償却が原則(日本基準)ですが、税務上の扱いとは異なるため、会計・税務の両面から整理しておく必要があります。

スキーム別の税負担比較

売り手の手取り額は、スキームの選択によって大きく変わります。

個人オーナーが株式を譲渡する場合、税率は一律20.315%です。これに対して、事業譲渡を行うと法人段階で法人税が課された後、残った利益を個人に分配する際にさらに所得税がかかるため、実質的な税負担が40〜50%以上になるケースもあります。

このため、個人オーナーが所有するオーナー会社のM&Aでは、株式譲渡を選択する方が手取り額を最大化しやすいとされています。

組織再編税制と課税繰り延べ

合併・会社分割・株式交換・株式移転などの組織再編を用いたM&Aでは、「組織再編税制」のルールに従って課税関係を判定します。

適格組織再編とは

適格組織再編とは、一定の要件を満たす組織再編のことで、資産・負債を簿価で移転できるため、移転時点での課税が繰り延べられます。後継者不足の中小企業が合併・分割によって事業再編する場合など、再編時の税負担を抑えながらグループ再構築ができる点が大きなメリットです。

適格要件の主な分類は以下の3つです。100%支配グループ内の再編(完全支配関係)、50%超の支配関係がある企業間の再編、そして支配関係のない企業間の再編(共同事業要件あり)です。支配関係のない企業間の再編では、事業の継続性・従業員の継続従事・株式の継続保有などの厳しい要件をすべて満たす必要があります。

非適格組織再編の課税

要件を満たさない非適格組織再編では、移転する資産・負債を時価で評価したうえで譲渡損益を計上します。含み益のある資産が多い場合は大きな課税が発生するため、事前に税理士・M&A専門家と十分にシミュレーションすることが不可欠です。

2025年度税制改正では、無対価で非適格合併等を実施した場合の資産調整勘定等の算定方法が見直されました。実務に影響するため、最新情報を確認することをお勧めします。

M\&Aの税制を徹底解説|株式譲渡・事業譲渡の税率と節税策

中小企業向けM&A税制優遇措置

中小企業がM&Aを行う際に活用できる代表的な優遇税制を紹介します。

経営資源集約化税制(中小企業事業再編投資損失準備金)

経営資源集約化税制は、2021年8月に施行された制度で、中小企業者等が「経営力向上計画」の認定を受けてM&Aを実施する場合に、株式取得価額の一定割合を準備金として積み立て、損金算入できる制度です。

通常枠では、株式取得価額の最大70%を損金算入できます。据置期間(益金算入開始までの期間)は5年です。

2024年度税制改正で新設された拡充枠では、「特別事業再編計画」の認定を受けた中堅・中小企業が複数回M&Aを実施する場合、1回目は株式取得価額の90%、2回目以降は100%を損金算入できるようになりました。据置期間は10年に延長されています。

たとえば株式取得価額が1億円の場合、拡充枠(1回目)では9,000万円を損金算入でき、法人税率25%で計算すると約2,250万円の節税効果が見込めます。

M&A促進補助金との併用

M&Aに要した専門家費用(仲介手数料・デューデリジェンス費用など)の一部を補助する「中小M&A補助金」と経営資源集約化税制を組み合わせることで、初期コストを大幅に抑えられます。補助率・補助上限額は年度ごとに変わるため、最新の中小企業庁の公表情報を確認するようにしましょう。

オープンイノベーション促進税制

スタートアップへの出資を通じてM&A・事業連携を行う場合は「オープンイノベーション促進税制」も検討に値します。対象となる特定事業会社が設立10年未満のスタートアップに一定額以上を出資した場合、出資額の25%を所得控除(損金算入)できる制度です。ただし、出資後5年以内に対象株式を売却・清算した場合は益金算入が求められます。

M&Aにかかる費用の税務上の取り扱い

M&Aを実行するまでには、仲介手数料・デューデリジェンス費用・弁護士費用など多くのコストが発生します。これらの費用がどのように税務処理されるかも重要なポイントです。

売り手側の費用

売り手が支払う仲介手数料や弁護士費用は、株式譲渡の場合「譲渡費用」として譲渡所得の計算上、取得費と同様に控除できます。事業譲渡の場合は、事業売却益から控除できる費用として損金算入が可能です。

買い手側の費用

買い手が支払うデューデリジェンス費用(外部専門家への報酬)は、株式取得価額に含めて資産計上する場合と、当期の損金として処理する場合があります。どちらになるかは費用の性格・金額・事業承継補助金の適用有無などにより異なるため、税理士に事前確認することをお勧めします。

また、仲介手数料については、M&A成功後に成功報酬として支払われるケースが多く、株式取得価額に上乗せして資産計上するのが原則的な税務処理となります。

税務デューデリジェンスの重要性

M&Aを実施する前に、対象会社の税務リスクを精査する「税務デューデリジェンス(税務DD)」を行うことが非常に重要です。

税務DDで発見できる主なリスク

税務DDでは、以下のようなリスクを事前に把握できます。

未払税金・追徴課税リスクとして、過去の申告誤り・申告漏れが後日税務調査で発覚すると、買収後に買い手が多額の税金を負担することになります。

繰越欠損金の引き継ぎ制限として、対象会社に繰越欠損金がある場合、M&A後の利用に制限がかかるケースがあります。特定の支配関係が生じた後5年以内に「特定資産の譲渡等損失」が生じた場合などは損金算入が制限されます。

隠れ負債・租税条約リスクとして、海外関連会社との取引がある場合、移転価格税制上の問題が潜んでいることがあります。

税務DDを外部の税理士・公認会計士に依頼し、買収価格の交渉や表明保証条項の設定に活用することが、M&A成功の鍵となります。

よくある質問

M&Aで株式を売却した場合、確定申告は必要ですか?

はい、必要です。株式等の譲渡所得は原則として確定申告が必要です(特定口座・源泉徴収ありの口座で取引した場合を除く)。非上場株式の売却は特定口座の対象外であるため、必ず確定申告を行う必要があります。申告期限は翌年の3月15日までです。

事業譲渡の際に消費税を節税する方法はありますか?

消費税は課税資産の譲渡に対して発生するため、土地や有価証券など非課税資産の割合を増やすことで消費税額を圧縮できます。また、対象会社の売り手法人が消費税の簡易課税制度を選択している場合は、みなし仕入率によって納税額が変わることがあります。スキーム設計の段階で消費税の試算を行うことをお勧めします。

中小企業が経営資源集約化税制を使うには何をすればいいですか?

まず、経営力向上計画を策定し、所管の行政機関(主管省庁)の認定を受ける必要があります。認定取得後にM&Aを実施し、株式取得価額の最大70%(拡充枠では最大100%)を損金算入できる準備金を積み立てます。申請・認定には一定の時間を要するため、M&Aの検討段階から早期に準備を始めることが重要です。

M&Aで買収した会社の繰越欠損金は使えますか?

一定の要件を満たす場合は引き継ぎ・使用が可能ですが、制限があります。買収後に「特定支配関係」が成立してから5年以内は、対象会社の繰越欠損金を使える範囲に制限がかかります。また、「みなし事業年度」の設定やグループ法人税制の適用など、複雑な税務処理が必要になるため、専門家に相談することを強く推奨します。

まとめ

M&Aの税制は、スキームの選択・売り手・買い手の属性によって課税される税金の種類・税率・節税手段が大きく異なります。この記事のポイントを振り返ります。

個人株主の株式譲渡は一律20.315%の分離課税で、手取り最大化を目指す個人オーナーに適しています。法人の株式譲渡は法人税の総合課税(実効税率25〜34%程度)が適用されます。

事業譲渡では売り手に法人税と消費税が、買い手にはのれん(資産調整勘定)の5年定額償却による節税メリットが発生します。

組織再編(合併・会社分割等)は適格要件を満たせば課税を繰り延べられますが、要件が複雑なため専門家への相談が必須です。

中小企業向けの経営資源集約化税制を活用すると、通常枠で株式取得価額の70%、拡充枠では最大100%を損金算入でき、大きな節税効果が期待できます。

M&Aの税務は複雑で、事前の戦略設計が手取り額に直接影響します。M&Aを検討する際は、早い段階から税理士・M&A専門家に相談し、最適なスキームと節税策を組み合わせることをお勧めします。

この記事の投稿者:

hasegawa

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