
個人事業主として事業を成長させていくなかで、「もっと資金があれば次のステージに進めるのに」と感じる場面は少なくありません。そのときに頭に浮かぶのが「誰かに出資してもらえないか」という考えです。しかし、個人事業主が出資を受けるには、法人と比べて越えなければならないハードルがあります。この記事では、個人事業主のままでも出資を受けられる方法から、より本格的な出資を実現するための法人化の手順まで、具体的な数値とともにわかりやすく解説します。「何から始めればいいかわからない」という方でも、この記事を読み終えるころには、自分に合った資金調達の道筋が見えてくるはずです。
目次
個人事業主が出資を受けにくい理由
出資を受けたいと考えている個人事業主の方がまず知っておくべきことは、株式会社や合同会社といった法人に比べると、個人事業主は出資を受ける仕組みが整っていないという現実です。この根本的な理由を理解することで、どのような対策が必要かが見えてきます。
株式が発行できない
個人事業主が法人と大きく異なる点のひとつは、株式を発行できないことです。株式会社では、投資家に株式を渡すことで「出資の対価」を提供できます。投資家は株式を保有することで、将来の株価上昇や配当金というリターンを期待できます。ところが個人事業主はそもそも「会社」ではないため、株式という概念が存在しません。出資者に何らかのリターンを約束しようとしても、法律上の裏付けがある仕組みを用意しにくい状況にあります。
このことは、出資希望者にとって大きなリスクになります。資金を提供しても、それが事業の持分として明確に記録されないため、万が一トラブルが生じたときに権利を主張しにくいのです。エンジェル投資家やベンチャーキャピタル(VC)がほぼ必ず法人に対してのみ出資する理由も、ここにあります。
出資者のリターン設計が難しい
株式がない以上、投資家に提供できるリターンの設計が非常に難しくなります。法人であれば、株式の譲渡益(キャピタルゲイン)や配当金という形でリターンを設計できます。しかし個人事業主の場合、事業から生まれた利益はそのまま事業主個人の所得となります。外部の出資者に対して「利益の○%を配分する」という約束をしても、それを法的に担保する枠組みが個人事業には備わっていません。
もちろん、契約書を作成することで一定の取り決めをすることは可能です。しかし強制力という観点では、法人の出資契約と比べると弱い部分があります。こうした理由から、個人事業主への出資は専門的な投資家にとってリスクが高く、資金調達の選択肢が限られやすいのです。
個人事業主が出資を受けられる3つの方法
法人化せずに出資を受けることは難しいとはいえ、完全に不可能というわけではありません。個人事業主のまま資金を調達できる方法が3つあります。ただし、いずれの方法も法律上のリスクや制約を十分に理解したうえで活用することが重要です。
匿名組合契約を活用する
個人事業主が外部から資金を受け取るための法的枠組みとして、「匿名組合契約」があります。これは商法第535条に規定された制度で、出資者(匿名組合員)が事業者(営業者)に対して出資をおこない、その事業から生じた利益の分配を受けるという仕組みです。
この契約の特徴は、出資者の名前が対外的に表に出ないことです。事業を運営するのはあくまで個人事業主本人であり、出資者は経営に直接関与しません。出資者は出資した金額の範囲内でのみ損失を負うという有限責任の性質を持っており、一定のリスク管理が可能です。また、個人事業主のまま外部から資金提供を受けられる数少ない法的仕組みのひとつです。
ただし、実際に匿名組合を組成するには、弁護士や税理士などの専門家のサポートが必要です。契約内容が複雑になりやすく、税務上の取り扱いも事業者側と出資者側で異なります。少額の資金調達には費用対効果が合わないケースもあるため、活用する際は事前に専門家へ相談することをおすすめします。
知人・友人・家族から資金を募る
最も身近な方法として、信頼できる知人・友人・家族から資金を提供してもらうというやり方があります。関係性がすでに構築されているぶん、事業内容の説明や条件交渉がスムーズに進みやすいというメリットがあります。
この場合、受け取る資金の性質を明確にすることが非常に重要です。主に3つの形態が考えられます。
1つ目は「贈与」です。ただし贈与税の基礎控除は年間110万円までとなっており、それを超える金額を受け取ると贈与税が発生します。大きな金額を一度に受け取る場合には課税リスクがあります。
2つ目は「貸付(融資)」です。民法上の法定利率は年3%であり、無利子または著しく低い利率での貸付は利益相当額が贈与とみなされる場合があります。金銭消費貸借契約書を必ず作成し、返済期日・利率・返済方法を明記することが大切です。
3つ目が狭義の「出資」に近い形ですが、前述のとおり個人事業主への正式な出資は法的に整備されていないため、トラブルを避けるには専門家に相談しながら書面を作成することが必要です。いずれの場合も「口約束」だけでは後々のトラブルの元になります。必ず書面で取り決めを残すようにしましょう。
クラウドファンディングを利用する
近年急速に普及したクラウドファンディングも、個人事業主が資金を集める有力な手段です。インターネットを通じて不特定多数の人々から少額ずつ資金を集めることができ、法人でなくても利用できるプラットフォームが多数存在します。
クラウドファンディングには主に以下の種類があります。
「購入型」は支援者に対して商品やサービス、体験などのリターンを提供する形式で、個人事業主が最も利用しやすいタイプです。
「寄付型」は社会貢献性の高いプロジェクトに向いており、リターンを設けないことが特徴です。
「融資型(ソーシャルレンディング)」は元本と利息の返済を前提とした形式で、事業者側には返済義務が生じます。
一方、「株式投資型クラウドファンディング」は株式を発行する形式のため、基本的に法人化が前提となります。個人事業主の場合は主に「購入型」か「寄付型」を選ぶことになります。クラウドファンディングは資金調達と同時にプロジェクトの認知度向上にもつながるため、マーケティング的な効果も期待できます。
法人化すれば出資を受けやすくなる理由
個人事業主のまま出資を受ける方法は存在しますが、大きな資金を調達したい場合や継続的に投資家と関係を築きたい場合は、法人化を検討することが現実的な選択肢です。法人化することで、資金調達の選択肢が一気に広がります。
株式発行で投資家へのリターンを設計できる
株式会社に法人化する最大のメリットのひとつは、株式を発行できるようになることです。投資家に株式を渡すことで、将来的なキャピタルゲイン(株式売却益)や配当金という明確なリターンを設計できます。この仕組みがあることで、投資家は「損をした場合でも出資額分の株式という資産がある」という安心感を持てます。
また、株式の保有比率によって経営への関与度合いを調整することも可能です。例えば、事業の重要な決定権は創業者が持ちつつ、外部の投資家には少数株主として参加してもらうという設計ができます。このような柔軟なストラクチャーが、個人事業主のままでは実現できない出資の形です。
エンジェル投資家・VCからの調達が可能になる
法人化すると、エンジェル投資家やベンチャーキャピタル(VC)からの出資を受けられる可能性が生まれます。エンジェル投資家1人あたりの出資額の相場は100万円〜1,000万円程度が一般的であり、プレシードやシード期のスタートアップに適した資金規模です。ベンチャーキャピタルの場合は数千万円〜数億円規模の出資が期待できます。
エンジェル投資家は自らの事業経験を活かしたメンタリングや人脈のネットワーク提供も行ってくれることが多く、資金だけでなく経営上のサポートも受けられます。VC投資を受けるには事業の成長性や市場規模の大きさが厳しく審査されますが、エンジェル投資家は比較的初期段階のアイデアや人物評価で判断してくれることも多いです。
エンジェル税制の適用で投資家にもメリット
日本では「エンジェル税制」という制度があり、一定の要件を満たすベンチャー企業(主に設立後間もない株式会社)に投資した場合、投資家が税制上の優遇を受けられます。具体的には、投資時点での所得控除や、売却損が生じた場合の損益通算などが受けられます。
この制度の対象となるためには、企業側がエンジェル税制の確認を受けた認定ベンチャー企業であることが必要です。個人事業主はそもそもこの制度の対象外となるため、エンジェル税制を活用した投資家誘致をしたいなら法人化は必須条件です。投資家にとってもメリットがある仕組みを用意できることは、出資交渉において大きな武器になります。
法人化の種類と費用の比較
法人化を検討する際には、設立する法人の形態とそれに伴う費用を把握することが重要です。主な選択肢は「株式会社」と「合同会社」の2種類で、それぞれ特徴と費用が異なります。
株式会社の設立費用
株式会社は最もよく知られた会社形態で、対外的な信頼性が高く、株式を発行して投資家から出資を受けやすいという特徴があります。設立にかかる費用の内訳は以下のとおりです。
登録免許税は最低15万円(資本金の0.7%または15万円のうち高い方)です。定款認証手数料は資本金の額によって異なり、100万円以上300万円未満なら4万円、それ以外は5万円です。資本金100万円未満の場合は原則3万円ですが、2024年(令和6年)12月1日施行の公証人手数料令改正により、発起人が3人以下の自然人で取締役会を設置しないなど一定の要件を満たす株式会社は1万5,000円に引き下げられました。紙の定款を使う場合は収入印紙代として4万円が別途かかりますが、電子定款にすることでこの費用は不要になります。定款の謄本手数料は1枚250円で、合計2,000円程度が目安です。
これらを合計すると、電子定款を使用した場合でも約20万円前後、紙の定款では約25万円程度の費用が発生します。なお、自治体の創業支援制度(特定創業等支援事業)を活用すれば、登録免許税が半額の7.5万円に軽減される場合があります。
合同会社の設立費用と注意点
合同会社(LLC)は比較的新しい会社形態で、設立費用の安さが特徴です。定款の認証が不要なため、必要な法定費用は登録免許税の最低6万円のみです。電子定款を利用した場合、収入印紙代も不要なため、諸費用を合わせても約10万円程度で設立できます。
ただし、合同会社には「持分」という概念があり、株式会社のように株式を自由に発行して不特定多数の投資家を受け入れることが難しい側面があります。また、合同会社は社会的な認知度がまだ低く、取引先や金融機関からの評価が株式会社より低いケースもあります。
出資を受けることを主目的に法人化するのであれば、株式会社が適切な選択といえます。コスト面では合同会社が有利ですが、資金調達のしやすさという観点では株式会社のほうが圧倒的に選択肢が広がります。

法人化して出資を受けるまでの流れ
法人化の方針が決まったら、実際に出資を受けるまでの具体的なステップを把握しておきましょう。事前の準備が出資交渉の成否を大きく左右します。
事業計画書の作成
出資を受けるためには、投資家に事業の将来性や収益性を説得力をもって伝えられる事業計画書が不可欠です。事業計画書には、解決しようとしている課題、ターゲット市場の規模、競合との差別化ポイント、収益モデル、財務計画(売上・費用・利益の予測)などを盛り込みます。
特に数値面での説得力が重要で、「なぜこの市場で勝てるのか」「どのタイミングで黒字化するのか」を具体的な数字で示せるかどうかが、投資家の判断を左右します。事業計画書の作成に慣れていない場合は、中小企業診断士や税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
投資家探しの方法
事業計画書が整ったら、実際に投資家を探すステップです。投資家と出会う主な方法として以下が挙げられます。
スタートアップイベントへの参加:ピッチコンテストや起業家コミュニティのイベントでは、エンジェル投資家と直接出会えるチャンスがあります。
マッチングプラットフォームの活用:FUNDINNO、ANGEL PORT、StartupListなど、起業家と投資家をつなぐプラットフォームが複数あります。
信頼できる紹介者経由:弁護士・税理士・経営コンサルタントなど専門家のネットワークを通じた紹介は、信頼性が高く交渉もスムーズになりやすいです。
VCへのアプローチ:インターネットで投資対象とするフェーズや業種が自社に合うVCを調べ、コールドメールや紹介経由でアプローチします。
出資契約書・株主間契約の締結
投資家との条件が合意に達したら、出資契約書(投資契約書)と株主間契約書を締結します。これらの書類には、出資金額・株式数・株価・払込日・表明保証・情報提供義務・株式の売却制限・ドラッグアロング(強制売却請求権)・タグアロング(共同売却請求権)など、多くの重要な条項が含まれます。
これらの契約は法律の専門知識がないと内容を正確に理解することが難しく、後々のトラブルの原因にもなりかねません。必ずスタートアップ法務に精通した弁護士のレビューを受けることを強くおすすめします。弁護士費用は案件の複雑さによりますが、シードラウンドの簡易な契約であれば数十万円程度が目安です。
出資を受ける際の注意点
出資を受けることは事業成長の大きなチャンスですが、同時にリスクも伴います。事前に注意点を把握しておくことで、後悔のない資金調達が実現できます。
経営権の希薄化に注意
株式を発行して出資を受けると、その株式数に応じて経営権(議決権)が希薄化します。出資者が増えれば増えるほど、創業者が保有する株式比率は下がっていきます。一般的に、株主総会での普通決議(過半数)に必要な持株比率を下回ると経営方針の決定が難しくなり、特別決議(3分の2以上)を要する重要事項については、創業者の意向が通らなくなる可能性があります。
資金調達を進める際には、現在および将来的な株式の希薄化シミュレーションを必ず行い、どの段階でどれだけの株式を放出するかをあらかじめ設計しておくことが重要です。必要以上に多くの株式を安価で渡してしまうと、後からの修正が難しくなります。
投資家との関係構築が重要
出資を受けるということは、長期的なビジネスパートナーを迎えることを意味します。投資家は単なるお金の提供者ではなく、株主として事業の一部に関与する存在です。定期的な報告(月次レポートや四半期レポート)を通じて、事業の進捗や財務状況を透明性高く共有することが信頼関係の維持につながります。
また、事業が計画どおりに進まない場合の対応策や、追加資金が必要になった際の相談窓口としても、投資家との良好な関係が重要です。投資家の中には自社の経営判断に積極的に関与しようとするタイプもいるため、事前にどのような関与を望むかをすり合わせておくことが大切です。
出資と融資の違いを理解する
出資を受けることを検討する際に、融資(借入)との違いを正確に理解しておくことも必要です。出資は返済義務がない代わりに、株式という形で経営への関与権を渡します。融資は返済義務がある代わりに、経営権は維持されます。
どちらが適しているかは事業のフェーズや目的によって異なります。立ち上げ期で資金需要が大きく返済が難しい場合は出資が適していることが多いです。一方、ある程度の売上がある場合は融資のほうが経営権を守れるというメリットがあります。日本政策金融公庫などの政府系金融機関は比較的低金利で融資を受けやすく、最大で数千万円規模の融資が可能です。出資と融資を組み合わせることで、リスクを分散しながら資金調達することも一般的なアプローチです。
よくある質問
個人事業主のまま出資を受けることは合法ですか?
個人事業主が誰かから資金を受け取ること自体は違法ではありません。ただし、その資金の性質(贈与・貸付・出資)を明確にし、適切な契約書を作成することが必要です。特に年間110万円を超える贈与は贈与税の課税対象となります。また、「出資」として受け取る場合は匿名組合契約などの法的枠組みを利用することをおすすめします。
法人化しないとエンジェル投資家から出資を受けられないのですか?
事実上、エンジェル投資家やベンチャーキャピタルからの正式な出資は法人(特に株式会社)でないと難しい状況です。これは、出資の対価として提供できる株式という仕組みが個人事業主には存在しないためです。少額であれば知人から資金を調達することは可能ですが、本格的な外部資金調達を目指すなら法人化を検討することが現実的です。
合同会社でも出資を受けられますか?
合同会社でも出資を受けることは可能ですが、株式会社と比べると難しい面があります。合同会社は「持分」を新たな出資者に渡す形になりますが、持分の譲渡には他の社員全員の同意が必要(定款で別段の定めがある場合を除く)など制約があります。出資を受けることを重視するなら株式会社がより適した選択といえます。
出資を受けるタイミングはいつが適切ですか?
出資を受けるのに「正解のタイミング」はありませんが、一般的には「プロダクトの方向性が固まり、最初の顧客が獲得できた段階(シード期)」が出資を受けやすいとされています。何も実績がない状態より、小さくても実績が示せる状態のほうが投資家の信頼を得やすいためです。また、資金が完全に底をついてから調達活動を始めると交渉力が弱まるため、余裕のある段階から動き始めることが重要です。
まとめ
個人事業主が出資を受ける方法と注意点について解説しました。重要なポイントを振り返ります。
個人事業主は株式を発行できないため、法人に比べて外部からの出資を受けにくい構造になっています。個人事業主のまま資金を調達する方法としては、匿名組合契約、知人・友人・家族からの資金調達、クラウドファンディングの3つが主な選択肢です。
本格的な外部資金調達を目指す場合は法人化が現実的な選択肢です。株式会社の設立費用は電子定款を利用すれば約20万円程度から始められます。法人化することでエンジェル投資家(出資相場は100万円〜1,000万円程度)やベンチャーキャピタルからの出資が可能になり、エンジェル税制という投資家向けの税優遇制度も活用できるようになります。
出資を受ける際は、経営権の希薄化リスクを事前にシミュレーションし、信頼できる弁護士の下で適切な契約書を締結することが重要です。出資と融資を組み合わせた資金調達も有効な手段です。自分の事業フェーズや目標に合った方法を選び、着実に資金調達を進めていきましょう。



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