
事業を始めたばかりの年や、景気が悪化した年など、事業が赤字になることは珍しくありません。「赤字なら税金は払わなくていいから、確定申告もしなくていいのでは?」と考えている個人事業主の方もいるかもしれません。しかし、赤字であっても確定申告をすることで、将来の税負担を大幅に減らしたり、各種証明書を取得したりといった大きなメリットが得られます。逆に、申告しないことで損をしているケースも多いのです。本記事では、赤字の確定申告が必要かどうかの判断基準から、具体的な申告のメリット・デメリット、手続きの流れまでを詳しく解説します。個人事業主として赤字を賢く活用し、将来の事業成長につなげるための知識をしっかり身につけましょう。
目次
赤字とは何か:確定申告における赤字の定義
確定申告における損失(赤字)の定義
確定申告での「赤字」とは、事業の収入(売上)から必要経費を差し引いた所得がマイナスになった状態のことを指します。たとえば、年間の売上が200万円で、人件費・家賃・材料費などの必要経費が280万円かかった場合、所得はマイナス80万円、つまり赤字80万円ということになります。
個人事業主の場合、所得は事業所得として計算されます。事業所得以外にも不動産所得・給与所得・雑所得などさまざまな種類の所得があり、それぞれの所得がプラスかマイナスかによって対応が変わります。本記事では主に、個人事業主の事業所得が赤字になった場合を中心に解説します。
法人と個人事業主の違い
法人(会社)の場合は赤字であっても法人税の申告は必ず行わなければなりません。均等割りという最低限の住民税も発生します。一方、個人事業主の場合は、赤字(事業所得がゼロ以下)であれば確定申告の法的義務はありません。ただし、義務がないからといって申告しないでいると、後述するように多くのデメリットが生じます。
赤字の確定申告は義務?しなくていい?
個人事業主の確定申告義務のルール
所得税法では、個人事業主が確定申告をしなければならない要件として「事業所得などの合計額が基礎控除(令和7年分以降は合計所得金額に応じて最大95万円(基礎的な水準は58万円。なお、税制改正により従来の48万円から見直されています))その他の控除を超える場合」と定められています。事業所得がマイナスになった場合は、原則として確定申告の義務はありません。
ただし注意が必要なのは、事業所得以外に給与所得などがある場合です。会社員として給与をもらいながら副業で個人事業主として活動している場合、副業の事業所得が赤字であれば確定申告で損益通算ができる可能性があります。この場合は確定申告をすることで還付が受けられる場合もあります。
損失があっても申告が必要になるケース
赤字であっても確定申告をしたほうがよい、あるいは必ずしたほうがよいケースがあります。
まず、青色申告で純損失の繰越控除を受けたい場合です。赤字を翌年以降に繰り越すためには、赤字の年に確定申告をしている必要があります。申告をしなければ繰越の権利は消えてしまいます。
次に、源泉徴収されている収入がある場合です。原稿料や講演料など、収入から源泉徴収されている場合、確定申告をすることで税金が還付される可能性があります。
さらに、国民健康保険料の軽減を受けたい場合も申告が有利です。前年の所得をもとに計算される国民健康保険料は、確定申告によって赤字(所得ゼロ)として記録されることで、大幅に安くなるケースがあります。
損失申告で得られる5つのメリット
メリット1:純損失の繰越控除で将来の税負担を減らせる
赤字の確定申告の最大のメリットは、純損失の繰越控除です。青色申告をしている個人事業主は、赤字(純損失)が出た年に確定申告をすることで、その損失額を翌年以降最大3年間にわたって繰り越し、将来の黒字所得から差し引くことができます。
具体的な計算例を見てみましょう。
-
- 1年目:事業所得 マイナス200万円(赤字)→ 確定申告で損失申告
- 2年目:事業所得 プラス150万円(黒字)→ 繰越損失200万円のうち150万円を控除 → 課税所得 0円
- 3年目:事業所得 プラス100万円(黒字)→ 繰越損失残り50万円を控除 → 課税所得 50万円
このように、1年目の赤字200万円が2年目・3年目の税金計算に活かされ、合計で250万円の所得があったにもかかわらず、課税所得は50万円に抑えられます。所得税率20%で計算すると、繰越をしなかった場合に比べて40万円(=200万円×20%)の節税になります。
この繰越は青色申告者のみの特権です。白色申告では繰越控除は原則として利用できないため、節税効果が大きく異なります。
メリット2:損益通算で他の所得と相殺できる
事業所得が赤字の場合、同じ年の他の所得(不動産所得・給与所得など)と損益通算することができます。損益通算とは、ある種類の所得のマイナスを別の種類の所得のプラスと合算することで、課税対象となる所得を減らす仕組みです。
たとえば、給与所得が400万円あり、副業の事業所得がマイナス100万円の場合、損益通算をすると合計所得は300万円となり、400万円に対して課税されるよりも税負担が軽くなります。
ただし、損益通算には制限があります。不動産所得の場合、土地購入のための借入金利子は損益通算の対象外とされるなど、細かいルールがあります。
メリット3:源泉徴収された税金の還付が受けられる
フリーランスや個人事業主として原稿料・講演料・デザイン費などを受け取っている場合、報酬から10.21%(または20.42%)の源泉徴収が差し引かれていることがあります。事業所得が赤字の場合、先払いしていたこの源泉徴収税額が戻ってくる可能性があります。
たとえば、年間の売上が100万円で源泉徴収が10万円されており、必要経費が150万円の場合、事業所得は マイナス50万円です。確定申告をすれば、先払いしていた源泉徴収税額10万円が全額還付されます。申告しなければ、この10万円は戻ってきません。
メリット4:国民健康保険料が軽減される
国民健康保険料(国保)は前年の所得に基づいて計算されます。事業所得が赤字で確定申告をすると、所得がゼロ(またはマイナス)として記録されるため、翌年度の国民健康保険料が大幅に下がります。
具体的には、国保には「所得割」「均等割」「平等割」という区分(賦課方式)があります。所得がゼロまたはマイナスの場合、所得割がゼロになります。さらに、所得が一定以下の場合は均等割・平等割も7割・5割・2割まで軽減される制度があります。
所得200万円の場合と赤字(所得ゼロ)の場合を比べると、地域によって差はありますが、年間数十万円規模で国保料が異なるケースもあります。
メリット5:各種証明書の取得・融資申請で有利になる
確定申告をすることで、税務署や市区町村から「課税証明書」「非課税証明書」「所得証明書」などを取得できます。これらは以下のような場面で必要になります。
住宅ローンや賃貸物件の契約審査・保育園や幼稚園の入園手続き・奨学金の申請・各種補助金や助成金の申請・社会保険の扶養認定申請などが挙げられます。
確定申告をしていない場合、これらの証明書が「未申告」として扱われることがあり、審査や手続きで大きな不利を被ることがあります。赤字でも申告しておくことは、事業以外の生活面でも重要です。
損失申告のデメリットと注意点
デメリット1:融資審査でマイナスに働く可能性
赤字の確定申告をすることで、金融機関への融資申請時に「赤字企業」として評価される可能性があります。銀行などの金融機関は融資審査において事業の収益性を重視するため、赤字が続いていると評価が下がることがあります。
ただし、これは「赤字だから申告しない」ことで解決するものではありません。むしろ確定申告をしていない状態の方が、事業実態が不明として融資審査がより困難になります。日本政策金融公庫など、創業期や赤字事業者向けの融資制度もありますので、赤字でも申告した上で適切な融資機関を選ぶことが重要です。
デメリット2:税務調査のリスクがある
経費が売上を大幅に上回る状況が続く場合、税務署から「経費計上が適切かどうか」を確認するための税務調査の対象になる可能性があります。特に、事業との関連性が薄い費用を経費として計上していたり、家事按分の割合が実態と異なる場合は注意が必要です。
経費は正当なものを適切に計上することが大切です。領収書や証拠書類をきちんと保管しておくことが、税務調査への備えになります。
デメリット3:申告書類の作成に時間と手間がかかる
確定申告には書類の作成・提出の手間がかかります。赤字の場合は通常の確定申告書に加えて「第四表(損失申告用)」の作成が必要です。ただし、会計ソフト(freee、マネーフォワード クラウド、やよいの青色申告など)を使えば、第四表も比較的簡単に作成できます。手間を惜しんで申告しないことで生じる損失(繰越控除の権利喪失、源泉徴収還付の機会損失など)に比べれば、申告の手間はずっと小さいといえます。
青色申告と白色申告:損失の扱いの違い
青色申告のメリット:3年間の繰越が可能
個人事業主の確定申告には「青色申告」と「白色申告」の2種類があります。赤字の取り扱いについて、両者は大きく異なります。
青色申告では、純損失の繰越控除制度を利用できます。赤字が出た年に申告をしておけば、その損失を翌年以降3年間にわたって繰り越すことができ、黒字の年の所得から差し引いて税金を大幅に節約できます。
青色申告をするためには、事前に税務署に「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。原則として、その年の3月15日まで。ただし、新規に業務を開始した場合は業務開始の日から2か月以内、既に事業を行っている場合は申告しようとする年の3月15日までに申請が必要です。
また、青色申告には65万円または55万円の青色申告特別控除という節税メリットもあります(電子申告+複式簿記で65万円控除)。事業所得が黒字の年はもちろん、赤字の年でも後の繰越のために青色申告をしておくことが有利です。
白色申告の場合:繰越控除は原則不可
白色申告では、原則として純損失の繰越控除を行うことができません。ただし例外として、変動所得(原稿料など所得変動が大きいもの)や被災事業用資産の損失については繰越が認められています。
また、損益通算(同一年内での異なる所得間の損失と利益の合算)は白色申告でも可能です。ただし、繰越ができないため翌年以降への損失活用はできません。
これから事業を始める、あるいは現在白色申告をしている個人事業主は、できるだけ早く青色申告への切り替えを検討することをおすすめします。

損失申告の具体的な手続き方法
ステップ1:必要書類の準備
赤字の確定申告に必要な書類を揃えます。
青色申告の場合に必要な書類は以下の通りです。確定申告書B(第一表・第二表)、青色申告決算書(損益計算書・貸借対照表)、確定申告書第四表(損失申告用)(一)(二)、各種領収書・帳簿類(7年間保管義務)が必要です。
白色申告の場合は、確定申告書B(第一表・第二表)、収支内訳書、各種領収書・帳簿類(5年間保管義務)が必要です。
ステップ2:確定申告書の記載方法
事業所得が赤字の場合、確定申告書第一表の「所得金額等」欄の「事業」の項目に、マイナスを意味する「△」を付けて金額を記入します。
たとえば、事業所得がマイナス80万円の場合は「△800,000」と記載します。損益通算後もマイナスが残る場合は、その金額を第四表に記載して繰越損失として申告します。
ステップ3:第四表の記載
青色申告で損失を繰り越す場合は、確定申告書第四表の記載が必要です。
第四表(一)には、その年の損益通算の詳細(各所得の金額と合算結果)を記載します。第四表(二)には、過去から繰り越してきた損失がある場合にその明細を記載します。
会計ソフトを使っている場合は、帳簿データから自動的に第四表が生成されることが多いため、内容を確認して申告書に添付するだけで済むケースも多いです。
ステップ4:申告の提出
確定申告書の提出は、毎年2月16日から3月15日の期間内に行います(土日の場合は翌平日)。2025年分(令和7年分)の申告期間は2026年2月16日から2026年3月16日でした。
提出方法は、税務署への持参・郵送・e-Tax(電子申告)の3種類があります。e-Taxを利用した場合、青色申告では65万円の特別控除が適用されるため、積極的に活用することをおすすめします。
ケーススタディ:損失申告の具体例
ケース1:フリーランスWebデザイナーAさんの場合
Aさんは独立1年目のWebデザイナーです。売上は150万円でしたが、パソコン・ソフトウェアの購入費・セミナー受講費・交通費など必要経費が230万円かかり、事業所得はマイナス80万円となりました。
青色申告で損失申告をしたAさんは、翌年(2年目)の事業所得が120万円になりました。繰越損失80万円を控除することで、課税所得は40万円となり、所得税・住民税の合計で約14万円の節税になりました。また、赤字の年に源泉徴収されていた報酬税額3万円も確定申告によって還付されました。
Aさんがもし確定申告をしていなかった場合、繰越損失の権利が消えてしまい、翌年は120万円全額が課税対象となっていました。申告によって節税と還付の合計17万円のメリットを得ることができました。
ケース2:副業で個人事業を営む会社員Bさんの場合
会社員のBさんは副業でネットショップを運営しています。本業の給与所得は500万円ですが、副業の事業所得はマイナス60万円でした。
損益通算を行うことで、課税対象の合計所得は440万円(500万円-60万円)となります。所得税率は20%の税率区間(課税所得330万円超695万円以下)ですので、損益通算による節税効果は12万円(60万円×20%)となります。さらに住民税も軽減されます。
確定申告をしていなければ、Bさんの副業の赤字は何も活かされることなく終わっていました。
ケース3:3年連続損失から黒字転換したCさんの場合
Cさんは小規模な飲食店を経営しています。開業から3年間は先行投資のため赤字が続きました。各年の事業所得は次の通りです。1年目:マイナス100万円、2年目:マイナス50万円、3年目:マイナス30万円、4年目:プラス200万円でした。
青色申告で毎年損失申告をしていたCさんは、4年目に黒字転換した際、繰越損失の合計180万円(=100万円+50万円+30万円)を控除できました。4年目の課税所得は200万円-180万円=20万円となります。
もし繰越申告をしていなければ、4年目の課税所得は200万円となり、税率10%で計算すると20万円、繰越があれば2万円と、差額18万円の節税効果を得ることができました。
よくある質問(損失申告について)
Q1:赤字でも青色申告の65万円控除は受けられますか?
青色申告特別控除(65万円または55万円)は、所得がゼロや赤字の場合には控除しきれません。ただし、赤字の年でも青色申告の手続きをすることで、純損失の繰越控除の権利が生まれます。黒字の年に65万円控除+繰越損失控除の両方を受けられるという大きなメリットがあります。
Q2:確定申告しなかった年の損失は後から申告できますか?
基本的には、期限後申告(申告期限後に申告すること)は可能ですが、青色申告の特典である純損失の繰越控除は、法定期限内(毎年3月15日まで)に申告した場合のみ適用されます。期限後に申告した場合、繰越控除の特典は失われます。
また、確定申告の更正の請求(申告内容の訂正・修正)は、申告期限から5年以内に行う必要があります。
Q3:赤字と黒字が交互に繰り返される場合はどうすればよいですか?
赤字の年に損失申告をしておくことで、次の黒字の年に繰越損失を控除できます。繰越損失は最長3年間有効ですので、赤字の年から3年以内に黒字になれば控除を適用できます。毎年継続して確定申告をすることが、この制度を最大限に活用する鍵です。
Q4:赤字申告すると税務調査が入りやすくなりますか?
赤字申告だけが税務調査のトリガーになるわけではありません。経費の内容が適切でない、同業者と比べて異常に経費比率が高いといった場合に調査対象になりやすい傾向があります。適切な経費計上と証拠書類の保管をしっかり行っていれば、過度に心配する必要はありません。
Q5:白色申告から青色申告に変更するにはどうすればよいですか?
青色申告に変更するには、変更したい年の3月15日までに「所得税の青色申告承認申請書」を管轄の税務署に提出します。e-Taxを使って電子申請することも可能です。翌年分からではなく、申請した年の確定申告から青色申告が適用されます(申請が受理された場合)。
損失を活かして資金繰りを改善するために
損失申告と資金繰りの関係
赤字の確定申告をした場合、税金の支払いは不要(または最小限)になります。これは短期的には事業の資金繰りにとってプラスですが、赤字が続くということは事業の収益性に問題があることも示しています。確定申告による税負担の軽減と並行して、事業の収支改善に取り組むことが長期的には重要です。
ファクタリングなどの資金調達手段の活用
赤字の年でも、事業継続のための運転資金が必要になることがあります。その際に活用できる資金調達手段として、ファクタリング(売掛金の早期現金化)があります。ファクタリングは融資ではなく売掛債権の売買であるため、赤字決算であっても利用できる可能性があります。売上があり、取引先への請求書(売掛金)があれば、決算内容に関わらず資金調達できる場合があります。
INVOYのカード払いサービスで資金繰りをサポート
赤字や資金不足に悩む個人事業主・中小企業に向けて、INVOYでは請求書のカード払いサービスを提供しています。取引先への支払いをカードで行うことで、実際の支払い期限を延長し、資金繰りの改善につなげることができます。赤字の時期でも事業を継続するための資金繰り対策として、ぜひ活用をご検討ください。
まとめ:損失がある年でも申告を行うことが賢明な選択
赤字の確定申告について、以下のポイントをまとめます。
第一に、個人事業主は赤字でも確定申告の義務はありませんが、申告することで大きなメリットが得られます。
第二に、青色申告であれば純損失を3年間繰り越せます。将来の黒字から差し引いて節税ができます。
第三に、源泉徴収された税金の還付、国民健康保険料の軽減、各種証明書の取得など、税金以外のメリットも多くあります。
第四に、白色申告でも損益通算は可能ですが、繰越控除は原則不可です。青色申告への切り替えを強くおすすめします。
第五に、確定申告書に加えて第四表(損失申告用)の作成が必要です。会計ソフトを活用すれば比較的簡単です。
第六に、申告期限(3月15日)内に確定申告することが、繰越控除の権利を守るための必須条件です。
赤字の確定申告は、将来の事業成長に向けた賢明な投資ともいえます。面倒だからといって申告を怠ると、後年の税負担が増え、証明書の取得もできなくなるなど多くのデメリットが生じます。ぜひ、赤字であっても毎年きちんと確定申告をする習慣をつけましょう。資金繰りが不安な場合は、ファクタリングや支払いサービスなども活用しながら、事業を継続・成長させていくことが大切です。



ブリッジローンとは?仕組み・メリット・デメリットと資金繰りへ…
ブリッジローンという言葉を聞いたことはあるでしょうか。不動産の住み替えやM&A、スタートアッ…