
支払期日まであと1か月あるのに、外注費と給与の支払いは来週に迫っています。手元に請求書はあるのに現金がない、という場面は珍しくありません。3社間ファクタリングは、その請求書(売掛債権)をファクタリング会社に売却して、期日を待たずに現金化する方法です。売掛先にも契約へ加わってもらう形式のため、手数料は売掛債権額の1〜9%程度に収まることが多く、2社間方式の8〜18%程度と比べて調達コストを大きく下げられます。
この記事では、契約の流れを1ステップずつ追いながら、2社間方式との違い、売掛先へ承諾を求めるときの伝え方、仕訳と消費税の扱い、悪質な業者を見分ける基準までを整理します。読み終えたときには、自社の売掛先に話を持っていくべきかどうか、持っていくなら何を用意すればよいかが判断できる状態になります。売掛先に知られること自体が不安、という方も多いはずです。実際には支払先の変更手続きとして淡々と処理される取引も多く、事前に何を説明するかで結果は変わります。用意するものは請求書と決算書、それに売掛先へ話す段取りだけです。
目次
3社間ファクタリングの仕組みを整理します
売掛債権を期日前に売却して現金に変える取引
ファクタリングは、企業や個人事業主が保有する売掛債権を、支払期日より前にファクタリング会社へ売却して資金を得る取引です。金融庁も、事業者が保有している売掛債権等を期日前に一定の手数料を徴収して買い取るサービスと説明しています。借入ではないため返済のスケジュールは発生しません。調達できる金額は売掛債権額から手数料を差し引いた金額で、上限は保有している債権の額に縛られます。
3社間方式では、この売買に売掛先も当事者として加わります。売掛先は債権が移ったことを承諾し、支払期日が来ると、利用企業を通さずファクタリング会社へ直接入金します。ここが2社間方式との最大の差です。
契約に登場する3者とそれぞれの役割
・利用企業は債権を売る側で、資金を受け取ります。
・ファクタリング会社は債権を買う側で、期日に回収します。
・売掛先は代金を支払う側で、譲渡を承諾して支払先を切り替えます。
売掛先が手数料を負担することはありません。求められるのは承諾書への記名押印と、振込先の登録変更だけです。この点を最初に伝えられるかどうかで、話の受け取られ方はかなり変わります。
法律上は債権の売買として扱われます
3社間ファクタリングは、法的には債権譲渡にあたります。根拠は民法466条以下です。2020年4月1日に施行された改正民法では、契約書に譲渡制限の特約があっても債権譲渡そのものの効力は妨げられないと明記されました(民法466条2項)。中小企業が売掛債権を使って資金調達しやすくすることが、この改正の狙いのひとつでした。
ただし特約がある場合、債務者である売掛先は、特約を知っていた譲受人に対して支払いを拒める余地が残ります。だからこそ3社間方式で承諾を取る意味が大きくなります。承諾があれば、この論点は最初から消えます。
対抗要件は通知または承諾で満たします
民法467条1項は、債権譲渡を債務者やその他の第三者に主張するには、譲渡人からの通知か債務者の承諾が必要だと定めています。同条2項では、債務者以外の第三者に主張するには、その通知または承諾が確定日付のある証書によるものでなければならないとされています。実務では内容証明郵便が使われます。どの書面をどの方法で送るのかは、契約前にファクタリング会社へ確認しておくとよいでしょう。
申し込みから入金までの流れを追います
見積もりと審査で確認される内容
1. 利用企業がファクタリング会社に申し込みます。
2. 決算書や通帳、対象の請求書、取引の基本契約書などを提出します。
3. ファクタリング会社が売掛先の支払能力を中心に審査します。
4. 買取の可否と手数料の見積もりが提示されます。
審査でもっとも重く見られるのは、利用企業の財務内容よりも売掛先の支払能力です。自社が赤字でも、税金の納付が遅れていても、売掛先が上場企業や官公庁であれば通る可能性は十分にあります。逆に、売掛先の与信に不安があると、自社が黒字でも断られます。
売掛先への打診と承諾の取得
見積もりに納得したら、売掛先へ譲渡の打診をします。ここが3社間方式の山場で、所要日数の大半をこの工程が占めます。売掛先の社内では、経理部門の確認だけで済むこともあれば、法務や購買の決裁が回ることもあります。
承諾が得られたら、利用企業とファクタリング会社、売掛先の3者で債権譲渡契約を締結します。あわせて債権譲渡通知書と承諾書を取り交わします。この書面が、後から支払先をめぐる争いが起きたときの証拠になります。
入金と、期日の直接回収
契約後、買取金額から手数料を差し引いた金額が利用企業へ入金されます。申し込みから入金までの目安は3日から2週間程度です。売掛先の決裁スピードに左右されるため、資金が必要な日から逆算して早めに動く必要があります。
支払期日が来ると、売掛先はファクタリング会社へ直接振り込みます。利用企業が回収して送金する手間はありません。取引はここで終わります。
2社間方式との違いは手数料・日数・登記の3点です
手数料の相場は1〜9%と8〜18%です
一般的な相場は、3社間方式が売掛債権額の1〜9%程度、2社間方式が8〜18%程度とされています。仮に500万円の売掛債権を売却するとして、手数料3%なら15万円、手数料15%なら75万円です。差額の60万円は、そのまま利益の差になります。
差が生まれる理由は、ファクタリング会社が負うリスクの量です。3社間方式では売掛先が譲渡を承諾しているため、架空債権や二重譲渡の心配がほとんどありません。回収もファクタリング会社が行うので、利用企業が回収金を別の支払いに流用する事故も起きません。残るのは売掛先が倒産するかどうかという信用リスクだけです。この差が価格に反映されます。
資金化までの日数は方式によって変わります
2社間方式は最短即日の入金に対応する会社もあります。3社間方式は売掛先の承諾を待つため、3日から2週間程度を見ておくのが現実的です。急ぎの支払いに間に合わせたいなら2社間、コストを優先するなら3社間という整理になります。
締切が迫っている状況での動き方は個人事業主が即日で資金化する手順も参考になります。必要な時期と金額を先に固めてから業者に当たると、判断が早くなります。
債権譲渡登記が原則不要になります
2社間方式では、売掛先に通知しない代わりに、法務局で債権譲渡登記を行って第三者への対抗要件を備えることが多いです。この登記には登録免許税がかかります。債権個数が5,000個以下なら1件につき7,500円、5,000個を超えると1件につき15,000円です。ここに司法書士報酬が加わります。
3社間方式では確定日付のある承諾で対抗要件を満たせるため、登記は原則として不要です。登記の費用と手間が要らない点も、実質的なコスト差として効いてきます。
選び方の判断軸
・売掛先との関係が安定していて担当者と話ができるなら、3社間が有利です。
・入金を今週中に受けたい状況なら、2社間しか選べません。
・調達額が大きいほど、手数料率の差が金額の差として重くなります。
ファクタリング以外の選択肢も含めて比べたい場合は、債権流動化の4つの手法を確認すると全体像がつかめます。
メリットは手数料の低さと事務負担の軽さです
調達コストを抑えられます
最大の利点は手数料の低さです。ファクタリングは資金需要が繰り返し発生しやすい取引なので、1回あたりの手数料差は年間で積み上がります。月に1回、300万円の債権を売却する会社が手数料12%から4%に下げられたら、年間で288万円の差になります。1回ごとの見積もりだけを見ていると、この差は見落としやすくなります。
回収と送金の作業がなくなります
2社間方式では、期日に売掛先から入金された資金をファクタリング会社へ送金する作業が残ります。この資金を一時的に自社口座で預かる形になるため、他の支払いに使ってしまわないよう管理する必要もあります。3社間方式ではこの工程が消えます。経理担当者が1人しかいない会社では、この差は小さくありません。
違法な取引と疑われる余地が小さくなります
金融庁は、ファクタリングを装った違法な貸付けについて注意喚起を公表しています。買い戻し義務があるものや、売掛先から回収できなかったときに利用企業が自己資金で支払う義務を負うものは、経済的に貸付けと同じ機能を持つとして貸金業に該当するおそれがあると示されています。3社間方式は回収そのものをファクタリング会社が担うため、この論点に踏み込みにくい構造になっています。

デメリットと、売掛先への説明の壁
売掛先が承諾しなければ成立しません
3社間方式は、売掛先が首を縦に振らなければ始まりません。断られる理由は資金繰りへの懸念だけとは限りません。振込先マスタの変更に社内規程上の手続きが必要で、そこに手間をかけたくないという事務的な事情で断られることもあります。
資金繰りを勘繰られる可能性があります
売掛債権を売却したという事実は、相手に伝わります。受け取り方は取引先によって違います。与信管理が厳しい相手では、取引条件の見直しや与信枠の縮小につながる可能性を否定できません。長く続けたい重要な取引先については、慎重に判断するべきです。
小口の取引では使いにくい場面があります
3社間方式を扱う会社は、買取金額の下限を設けていることがあります。数十万円規模の債権では、そもそも取り扱ってもらえない場合もあります。売掛先が個人や小規模事業者だと、承諾書の取得自体が難しくなります。
承諾を得やすくする準備
・支払総額は変わらず負担も増えないことを、最初に伝えます。
・依頼するのは承諾書への記名押印と振込先の変更だけだと明示します。
・売掛債権の早期資金化という一般的な資金管理手法だと位置づけます。
・期日から逆算して2週間以上の余裕を持って相談します。
公共工事の請負代金や大企業向けの売掛債権では、譲渡に慣れた担当者が窓口になることも多く、話が通りやすい傾向があります。断られたときは、2社間方式や請求書のカード払いで支払期日を最大60日延長する方法を検討する余地があります。
会計処理と税務の扱いを確認します
売却時の仕訳と勘定科目
売掛金500万円を手数料3%(15万円)で売却し、485万円が入金されたケースの仕訳です。
借方は普通預金4,850,000円と売掛債権売却損150,000円、貸方は売掛金5,000,000円になります。
手数料は売掛債権売却損として処理します。会計ソフトにこの科目がない場合は、支払手数料や雑損失で処理しても差し支えありません。ただし科目は期をまたいで統一してください。年度ごとに勘定科目が変わると、資金調達コストの推移が追えなくなります。
消費税は非課税として扱います
売掛金などの金銭債権の譲渡は、消費税の非課税取引です。消費税法別表第二では、有価証券に類するものとして貸付金や預金、売掛金その他の金銭債権が挙げられています。消費税法基本通達6-3-1では、金銭債権の買取りに係る差益は利子の性質を持つものとして非課税とされています。手数料に消費税が上乗せされた見積もりが出てきたら、その場で内訳を確認してください。
決算書への影響
売掛金が現金に置き換わるだけなので、総資産は手数料の分だけ減ります。借入と違って負債は増えません。自己資本比率はわずかに下がりますが、有利子負債が増えないため、金融機関の評価上は借入よりも中立に働く場面があります。
一方で売却損が営業外費用として積み上がると、利益率の低下として読まれます。毎月の資金繰りが3社間ファクタリング前提で組まれているなら、調達手段の話より先に、回収サイトと支払サイトのずれを直す作業が必要です。
悪質な業者を見分ける基準
買い戻し義務があれば貸金業の疑いがあります
契約書に、回収できなかった債権を利用企業が買い戻す条項や、自己資金で支払う義務が書かれていたら要注意です。金融庁は、こうした取引は経済的に貸付けと同じ機能を持つため貸金業に該当するおそれがあると指摘しています。契約書に償還請求権なしと書かれていても、他の条項で実質的に責任を負わされていれば同じことです。条項は必ず全文を読んでください。
買取額が著しく低い提示は疑ってください
金融庁は、債権額に比べて買取代金が著しく低額であるケースを、注意すべき特徴として挙げています。3社間方式で手数料が20%を超えるような提示は、相場から大きく外れています。売掛先が承諾しているのに高い手数料を求める理由は、通常なら見つかりません。
契約前に確認する項目
・債権譲渡契約書という名称になっているか。
・手数料の総額と内訳が金額で明記されているか。
・償還請求権なしの条件が他の条項で覆されていないか。
・会社の所在地と固定電話、代表者名が確認できるか。
・保証人や担保を求められていないか。
なお、個人が勤務先に対して持つ賃金債権を買い取る給与ファクタリングは、金融庁の見解では貸金業に該当します。貸金業の登録がない業者が提供していれば違法です。事業者向けの売掛債権買取とは切り離して考えてください。
よくある質問
売掛先に承諾を求めた時点で断られたらどうなりますか
契約は成立せず、費用も発生しないのが通常です。申し込みの時点で手数料を請求してくる会社は避けてください。ただし、打診した事実は売掛先に残ります。関係を大事にしたい相手に対しては、打診の前に2社間方式で成立するかを確認しておくのが安全です。先に可否を確かめておけば、打診せずに済みます。
赤字決算や税金の滞納があっても利用できますか
利用できる可能性があります。審査の重心は売掛先の支払能力にあるため、利用企業自身の赤字や納税の遅れが直接の否決理由になりにくいのが特徴です。ただし、税金の滞納額が大きく差押えの可能性がある場合は、債権の帰属に疑義が生じるため断られることもあります。滞納がある場合は、納付計画を示せる資料を用意しておくと話が進みやすくなります。
2026年1月施行の取適法や手形の廃止で、資金調達の考え方は変わりますか
変わります。2026年1月1日に施行された取適法(中小受託取引適正化法)では、手形などによる支払いが禁止されました。従来は受領日から60日で手形を受け取り、そこから満期まで60日という形で、現金化まで120日かかる取引もありました。手形払いの禁止によって、支払期日までの期間は60日に収まります。紙の手形と小切手についても、銀行界が2026年度末までに電子交換所での交換枚数をゼロにする目標を掲げ、2027年度初から交換を廃止するとしています。回収サイトが短くなるほど、ファクタリングに頼る場面は減っていきます。移行期にある現在は、日常の調達手段として組み込むより、資金が足りない月に限って使う前提で構えておくほうが安全です。
手数料以外にかかる費用はありますか
会社によって異なります。3社間方式では債権譲渡登記が原則不要なので登記費用はかかりませんが、事務手数料、内容証明の郵送費、印紙代、振込手数料が別建てになっている場合があります。見積もりの段階で、入金される金額と差し引かれる金額を数字で確認してください。手数料の率だけを比べても実質的な負担はわかりません。
分割で支払うことはできますか
できません。ファクタリングは債権の売買なので、利用企業が分割で返すという概念がありません。分割返済を提案してくる業者は、実質的な貸付けを行っている可能性があります。その場合は貸金業の登録があるかを必ず確認してください。
売掛先が期日に支払わなかった場合、利用企業は責任を負いますか
償還請求権なしの契約であれば、原則として利用企業は負担しません。売掛先の支払不能リスクはファクタリング会社が引き受けます。借入では返済義務が残るので、この点は大きく違います。反対に、回収できなかった分を利用企業が埋める契約になっているなら、それは売買の形をとった貸付けに近く、金融庁が注意喚起で挙げている類型に該当する可能性があります。
ファクタリングの基本的な考え方をもう一度確認したい場合は、ファクタリングの基礎知識をまとめた解説記事が役立ちます。
まとめ
3社間ファクタリングは、売掛先を契約に加えることで手数料を1〜9%程度に抑えられる資金化の方法です。2社間方式の8〜18%程度と比べると調達コストは大きく下がり、回収と送金の事務も不要になります。代わりに売掛先の承諾を取る工程が入るため、資金化までは3日から2週間程度を見込む必要があります。
判断に必要なのは、売掛先に話を持っていけるか、入金をいつまでに必要とするか、調達額に対して手数料の差がどれだけ効くかという3点です。ここが固まれば、2社間と3社間のどちらを選ぶかは自然に決まります。
契約前には、買い戻し義務の有無と手数料の内訳を必ず確認してください。金融庁が注意喚起で挙げている特徴に当てはまる契約は、ファクタリングの形をした貸付けである可能性があります。会計処理では手数料を売掛債権売却損として計上し、消費税は非課税として扱います。制度面では手形払いの禁止と紙の手形・小切手の廃止が進み、回収サイトは短くなる方向にあります。回収サイトが短くなる分、ファクタリングに頼る場面も絞り込めるようになります。



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