
「不動産は持っていないが、売掛金ならある」「金融機関の借入枠はもう使い切ってしまった」。こうした状況で次の一手を探している経営者にとって、保有する売掛債権を担保にして資金を調達できる売掛債権担保融資は、検討に値する資金調達手段です。売掛債権担保融資はABL(Asset Based Lending=資産担保融資)の一形態であり、在庫や機械設備などの動産、そして売掛金などの流動資産を担保として活用する融資の総称のうち、とくに売掛債権を担保とするものを指します。
この記事では、売掛債権担保融資の基本的な仕組みから、混同されやすいファクタリングとの違い、利用するメリットとデメリット、信用保証協会の流動資産担保融資保証制度、そして実際に申し込んでから資金が手元に入るまでの流れまでを体系的に解説します。売掛金という事業資産をどう活用して資金繰りを改善するか、その選択肢を比較検討するための判断材料として活用してください。なお、本文ではABLと売掛債権担保融資をほぼ同じ意味の言葉として扱いますが、厳密にはABLは動産担保を含むより広い概念である点をはじめに押さえておきましょう。
目次
売掛債権担保融資(ABL)とは|売掛金を担保にお金を借りる仕組み
売掛債権担保融資とは、企業が取引先に対して持っている売掛金などの売掛債権を担保として金融機関に差し入れ、その担保価値に応じて融資を受ける資金調達方法です。英語のAsset Based Lendingの頭文字をとってABLと呼ばれます。従来の融資が不動産や経営者の個人保証を前提にしてきたのに対し、ABLは企業が事業活動の中で日常的に保有している在庫や売掛金といった流動資産そのものに着目する点が特徴です。
経済産業省や中小企業庁は、不動産担保や個人保証に過度に依存しない融資慣行を広げる狙いから、こうした事業資産を活用した資金調達を推進してきました。売掛金を担保にできるため、自社所有の不動産がなくても、また創業から日が浅く十分な資産形成ができていない企業でも、売掛先に対する債権さえあれば融資の土俵に乗れる可能性があります。
担保になるのは「将来の入金予定」である売掛債権
売掛債権とは、商品やサービスを提供したものの、代金の支払いがまだ行われていない状態の請求権を指します。多くのBtoB取引では、納品の翌月末や翌々月末といった締め日と支払日が設定されており、売上が確定してから実際に現金が入金されるまでに30日から60日程度のタイムラグが生じます。この入金待ちの債権は、いずれ確実に現金化される見込みのある資産です。売掛債権担保融資は、この「将来の入金予定」を担保として、入金日を待たずに資金を引き出す仕組みだといえます。
担保にできる売掛債権は、国内の事業者に対する債権が対象であり、物品の販売による債権だけでなく、サービスの提供による債権も含まれます。一方で、対象外となる債権もあります。たとえば消費者である個人に対する債権、譲渡禁止特約が付されていて担保化が難しい債権、すでに支払期日を過ぎて不良債権化しているものなどは、担保として認められにくい傾向があります。
債権譲渡登記によって担保権を確保する
売掛債権を担保に差し入れる際、金融機関は債権譲渡登記という手続きを行うのが一般的です。これは、万が一融資の返済が滞った場合に、担保とした売掛債権から優先的に資金を回収できる権利を法的に確保するための仕組みです。債権譲渡登記は法務局で行われ、第三者に対して「この債権はすでに担保に入っている」という事実を主張できる対抗要件となります。
重要なのは、債権譲渡登記を行っても、原則として売掛先である取引先に通知が届くわけではない点です。登記事項概要は法務局に記録されますが、取引先に直接知らされることなく、自社の判断で売掛債権を担保に資金調達を進められます。ただし、登記情報は誰でも一定の手続きで閲覧できるため、完全に秘匿できるわけではなく、返済が滞れば最終的に取引先へ通知が及ぶ可能性がある点には注意が必要です。
売掛債権担保融資とファクタリングの違い|「融資」か「売買」か
売掛債権を活用した資金調達手段として、売掛債権担保融資と並んでよく挙げられるのがファクタリングです。どちらも売掛金を元手に資金を調達する点では共通していますが、その法的な性質は根本的に異なります。最大の違いは、売掛債権担保融資が「お金を借りる」融資取引であるのに対し、ファクタリングは「売掛債権を売る」売買取引であるという点です。OLTAも、売掛債権を売却して資金化するクラウドファクタリングを提供しています。サービスの詳細はOLTAで確認できます。
取引の性質|金銭消費貸借契約と債権譲渡契約
売掛債権担保融資は、売掛金などを担保として金融機関からお金を借りる金銭消費貸借契約に基づきます。あくまで融資であるため、借り入れた元本に利息を上乗せして返済する義務が生じます。一方ファクタリングは、保有する売掛債権をファクタリング会社に売却する債権譲渡契約です。債権を売却した時点で資金を受け取り、返済という概念は存在しません。手元の売掛債権という資産を、現金という別の資産に入れ替える取引だと理解すると分かりやすいでしょう。
会計処理|負債が増えるか、資産が入れ替わるか
取引の性質の違いは、貸借対照表への影響にそのまま表れます。売掛債権担保融資は融資であるため、調達した資金は借入金として負債に計上されます。負債が増えれば自己資本比率は低下し、その後に金融機関から追加の融資を受ける際の審査に影響する可能性があります。これに対しファクタリングは、貸借対照表上では売掛金が減って現金が増えるという資産の入れ替えとして処理されるため、負債を増やさずに資金を調達できます。負債を圧縮した身軽な財務状態を保てるこの効果はオフバランス効果と呼ばれ、決算書の見栄えを重視する企業にとっての利点とされています。
コスト|金利と手数料の水準
資金調達にかかるコストの考え方も異なります。売掛債権担保融資は融資であるため、コストは金利として発生します。一般的な水準は年利2パーセントから10パーセント程度とされ、銀行融資の中では比較的高めですが、年率で見れば負担はおおむね一桁台に収まります。一方ファクタリングのコストは手数料として一括で差し引かれ、利用者と買取会社の二者間取引では8パーセントから18パーセント程度、取引先も交えた三者間取引では2パーセントから9パーセント程度が目安とされています。手数料は1回の取引ごとにかかるため、調達スピードを優先する場面ではファクタリング、コストを抑えたい場面では売掛債権担保融資が向く傾向があります。
審査とスピード|何を重視して審査するか
審査で重視されるポイントも対照的です。売掛債権担保融資は自社が返済主体となる融資のため、自社の信用力や財務状況が審査の中心になります。担保の価値や信用情報を慎重に確認するため、申し込みから資金調達までに最短でも2週間程度かかるのが一般的です。一方ファクタリングは、買い取る売掛債権が確実に回収できるかどうか、つまり売掛先の信用力を中心に審査するため、自社が赤字や債務超過であっても利用できる場合があります。即日から数日で資金化できるサービスも多く、スピードを重視する場面に適しています。
両者の違いを整理すると、次のようになります。
- 取引の性質:売掛債権担保融資は金銭消費貸借契約による融資/ファクタリングは債権譲渡契約による売買
- 会計処理:売掛債権担保融資は借入金として負債計上/ファクタリングは資産の入れ替えで負債が増えない
- コスト:売掛債権担保融資は年利2から10パーセント程度の金利/ファクタリングは1回あたり2から18パーセント程度の手数料
- 審査の中心:売掛債権担保融資は自社の信用力/ファクタリングは売掛先の信用力
- スピード:売掛債権担保融資は最短2週間程度/ファクタリングは即日から数日
売掛債権担保融資のメリット
売掛債権担保融資には、不動産担保に頼らない資金調達ならではの利点があります。資金繰りに悩む中小企業や、保有資産が限られる成長期の企業にとって、有力な選択肢となり得ます。
不動産がなくても売掛金を活用して資金調達できる
最大のメリットは、不動産などの固定資産を持っていなくても、事業活動の中で生まれる売掛金を担保に資金を調達できる点です。サービス業やIT企業のように物理的な担保資産が乏しい業種でも、安定した売掛先との取引があれば融資の対象になり得ます。眠っている売掛債権という資産を有効活用し、入金日を待たずに資金を確保できるため、運転資金の確保や資金繰りの改善に直結します。
金利は融資の範囲内に収まりコストを抑えやすい
ファクタリングの手数料が1回の取引で数パーセントから十数パーセントに達するのに対し、売掛債権担保融資のコストは年利2から10パーセント程度の金利です。資金を長期間にわたって使う場合や、繰り返し資金調達を行う場合には、年率ベースで管理できる売掛債権担保融資のほうがトータルコストを抑えやすい傾向があります。
内部管理体制の整備や経営改善につながる
売掛債権担保融資では、融資実行後に売掛金の残高情報などをおおむね3か月に1度のペースで金融機関へ定期報告するのが一般的です。報告のために債権や在庫の状況を継続的に把握する必要が生じるため、結果として社内の管理体制が整い、経営の透明性が高まります。金融機関と密にコミュニケーションを取ることで、自社の事業内容への理解が深まり、長期的な信頼関係の構築にもつながります。
売掛債権担保融資のデメリットと注意点
メリットの一方で、売掛債権担保融資には固有のリスクや手間も存在します。利用前に確認しておきたい注意点を整理します。
あくまで融資であり返済義務と負債計上が伴う
売掛債権担保融資はファクタリングと異なり、借りたお金を利息とともに返済する義務があります。調達した資金は負債として貸借対照表に計上されるため、財務指標の悪化につながり、その後の追加融資の審査に影響する可能性もあります。資金を売却して完結するファクタリングとは負担の性質が根本的に異なる点を理解しておく必要があります。
売掛先の倒産リスクが自社に残る
担保とした売掛先が倒産すると、その売掛債権は担保としての価値を失います。すると金融機関は貸し倒れを防ぐために返済を求めてきますが、本来は担保の売掛金を回収して返済に充てたいところ、売掛先の倒産でそれができなくなります。ファクタリングであれば売掛先が倒産しても利用者が弁済を求められない契約形態が一般的なのに対し、売掛債権担保融資では売掛先の倒産リスクが自社に残る点が大きな違いです。
審査に時間がかかり登記の手間も生じる
自社の信用力と担保価値の双方を審査するため、申し込みから資金調達まで最短でも2週間ほどかかります。即日の資金化が必要な緊急時には間に合わないこともあります。また、債権譲渡登記の手続きが必要となり、登記費用や司法書士への報酬といった付随コストが発生する点も把握しておきましょう。

信用保証協会の流動資産担保融資保証制度(ABL保証)
売掛債権担保融資を後押しする公的な仕組みとして、信用保証協会の流動資産担保融資保証制度があります。これはABL保証とも呼ばれ、中小企業が売掛債権や棚卸資産(在庫)を担保に金融機関から融資を受ける際、その借入金の返済を信用保証協会が保証する制度です。2007年の中小企業信用保険法の改正によって創設されました。
この制度では、保証割合は借入金額の8割で、保証限度額は2億円とされています。残りの2割は金融機関が負担する部分保証(割合保証)の形をとり、金融機関にも一定のリスクを負わせることで、安易な貸し倒れを防ぐ設計になっています。担保対象は申込人が保有する在庫と売掛債権で、在庫のみ、または売掛債権のみを担保とした場合でも保証限度額は2億円です。金融機関からの借入限度額は2億5千万円が目安とされています。保証協会の保証が付くことで、金融機関は融資をより前向きに検討しやすくなり、中小企業にとっては資金調達のハードルが下がる効果が期待できます。
売掛債権担保融資の利用の流れ
売掛債権担保融資を申し込んでから資金を受け取るまでの流れは、基本的には通常の運転資金の借入と大きく変わりません。売掛金を担保とする場合の一般的なステップは次の通りです。
- 担保とする売掛金の決定:どの売掛先に対する債権を担保に差し入れるかを選定します。すでに融資を申し込む金融機関に入金がある売掛先だと、お金の流れが把握しやすく審査がスムーズに進みやすくなります。
- 金融機関への申し込みと自社の審査:決算書や試算表などをもとに、自社の財務状況や信用力が審査されます。
- 売掛先の調査:担保とする売掛債権の質を見極めるため、売掛先の信用力や取引実績も確認されます。
- 担保価値の評価と融資条件の決定:売掛債権の金額や回収可能性をもとに担保価値が評価され、融資額や金利などの条件が決まります。
- 債権譲渡登記と契約締結:担保権を確保するための債権譲渡登記を行い、金銭消費貸借契約を結びます。
- 融資実行と定期報告:資金が振り込まれた後は、おおむね3か月に1度、売掛金の残高情報などを金融機関へ報告します。
よくある質問
売掛債権担保融資とファクタリングはどちらを選ぶべきですか
資金調達の目的とスピードによって使い分けるのが基本です。コストを抑えて長期的に資金を活用したい、負債計上を許容できる、申し込みから2週間程度の時間を確保できるという場合は、金利の低い売掛債権担保融資が向いています。一方、できるだけ早く資金化したい、負債を増やしたくない、自社の財務状況に不安があり融資審査に通る自信がないという場合は、ファクタリングが選択肢になります。両者は対立する手段ではなく、状況に応じて併用や使い分けを検討すると良いでしょう。
取引先に売掛債権を担保にしたことを知られますか
原則として、債権譲渡登記を行っても売掛先である取引先に通知が届くことはなく、知られずに利用できる仕組みになっています。ただし、登記事項概要は法務局に記録され、誰でも一定の手続きで閲覧可能なため、完全に秘匿できるわけではありません。また、融資の返済が滞った場合には、金融機関が担保債権の回収に動き、結果として取引先に伝わる可能性があります。
赤字や創業間もない会社でも利用できますか
売掛債権担保融資は自社の信用力を中心に審査するため、赤字や債務超過の状態では融資が難しくなることがあります。創業間もなく実績が乏しい場合も同様です。自社の財務状況に不安がある場合は、売掛先の信用力を重視するファクタリングのほうが利用しやすいケースもあります。なお、信用保証協会の流動資産担保融資保証制度を活用できれば、保証協会の保証が付くことで融資を受けられる可能性が高まります。
どのくらいの金額まで借りられますか
借入可能額は担保とする売掛債権の金額や回収可能性をもとに評価されます。信用保証協会の流動資産担保融資保証制度を利用する場合、保証割合は借入金額の8割、保証限度額は2億円、金融機関からの借入限度額は2億5千万円が目安です。実際の融資額は売掛債権の質や自社の信用力によって変動するため、金融機関への相談が必要です。
まとめ
売掛債権担保融資は、保有する売掛金を担保にして金融機関から資金を調達する方法で、ABL(資産担保融資)の一形態です。不動産がなくても売掛債権があれば資金調達ができ、コストは年利2から10パーセント程度の金利に収まるため、ファクタリングの手数料と比べてトータルコストを抑えやすいのが利点です。一方で、融資であるがゆえに返済義務と負債計上が伴い、売掛先の倒産リスクが自社に残り、審査に最短でも2週間程度かかるといった注意点もあります。
ファクタリングとの最大の違いは、売掛債権担保融資が「借りる」融資取引であるのに対し、ファクタリングは「売る」売買取引であるという点に集約されます。負債を増やしたくない、できるだけ早く資金化したいならファクタリング、コストを抑えて長期的に資金を活用したいなら売掛債権担保融資というように、目的に応じて使い分けることが大切です。信用保証協会の流動資産担保融資保証制度といった公的な後押しも活用しながら、自社の資金繰りに最も合った手段を選びましょう。



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