
取引先に売掛金があり、同じ相手に買掛金も抱えている。この状態で双方が満額を振り込み合うと、手数料も振込の手間も二重にかかります。相殺を使えば実際に動かす資金は差額だけになり、月末の資金繰りも読みやすくなります。
ただ、請求書の上で金額を差し引く処理は、書き方をひとつ間違えると税務調査でも取引先との関係でも問題になります。特に消費税は、相殺しても売上と仕入を総額で計上するのが原則です。差額だけを売上に立てると課税売上高が過少になり、修正申告につながります。さらに2026年1月1日からは下請法が「取適法」に変わり、代金からの一方的な差し引きに対する目が厳しくなりました。
この記事では、民法505条が定める相殺の要件から相殺通知書の書き方、請求書への表示方法、消費税とインボイスの扱い、仕訳、振込手数料の処理、取適法上の注意点までを、経理の実務で必要になる順に並べています。読み終えた時点で、自社がいま行っている相殺処理をそのまま点検できるはずです。
目次
請求書における相殺とは何か
債権と債務を対当額で消し合う決済方法です
相殺は、同じ相手に対して債権と債務を持っている場合に、重なっている金額の分だけ両方を消滅させる処理です。この重なる部分を法律では対当額と呼びます。
たとえば自社がB社に110万円の売掛金を持ち、同時にB社へ66万円の買掛金を負っているとします。相殺すれば66万円分が消え、残る44万円だけを受け取れば決済が終わります。B社から110万円が入金され、自社から66万円を振り込むという二往復が一度で済みます。
現金が動かないため、相殺は「代金決済の手段」に分類されます。売上や仕入が減るわけではないという点が、後で説明する消費税の処理につながります。
支払額は減っても、売上と仕入は減りません
この点を取り違えている会社は少なくありません。相殺で減るのは入金額と出金額だけで、取引そのものの金額は変わりません。110万円の売上は110万円のまま、66万円の仕入は66万円のまま帳簿に残ります。
売掛金と買掛金の性質そのものを整理しておきたい場合は、買掛金と売掛金・未払金の違いを先に確認しておくと、相殺仕訳の意味が理解しやすくなります。
相殺が使われる場面
外注先から仕入れつつ、その外注先へ自社商品を販売しているような相互取引が典型です。建設業の元請と下請、卸と小売、システム開発の受託と再委託などでよく見られます。
回収が滞りはじめた相手に対して、自社の買掛金と相殺して債権を確保する場面もあります。取引先の資金繰りが悪化してから慌てて動くと、後述する差押えとの優先関係で不利になることがあるため、平時から残高を把握しておく必要があります。売掛金の管理手順は売掛金の勘定科目と回収管理の進め方でまとめています。
相殺の法的根拠と要件
民法505条が定める相殺適状の条件
法定相殺の根拠は民法505条1項です。二人が互いに同種の目的を有する債務を負担し、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は対当額について相殺によって債務を免れられると定めています。この状態を相殺適状と呼びます。
条件は3つに整理できます。1つ目は、同一の当事者間で債権と債務が向かい合っていること。2つ目は、両方の債権が同種の目的を持つこと。金銭債権と金銭債権であれば満たします。3つ目は、双方の債務が弁済期にあることです。
3つ目は少し補足が必要です。相殺を仕掛ける側が持つ債権を自働債権、相手が持つ債権を受働債権と呼びます。自働債権の弁済期が到来していなければ相殺はできません。受働債権の弁済期がまだ来ていない場合は、支払う側が期限の利益を放棄すれば相殺できます。ここで注意したいのが最高裁平成25年2月28日判決です。いつでも期限の利益を放棄できるから相殺適状にあるという解釈は認められず、放棄などによって弁済期が現実に到来していることが必要だと示しています。売掛金の支払期日が来ていて、買掛金の支払期日が翌月であるなら、買掛金について期限の利益を放棄したうえで相殺する流れになります。
なお、債務の性質が相殺を許さないときは対象外です。現物の引き渡しを目的とする債務など、金銭で置き換えられない債務が該当します。
相殺が制限されるケース
まず契約による制限があります。民法505条2項は、当事者が相殺を禁止または制限する意思表示をした場合、その意思表示は第三者が知っていたか重大な過失で知らなかったときに限り第三者に対抗できると定めています。基本契約書に相殺禁止条項が入っていれば、当事者間では相殺できません。取引開始時の契約書を確認する作業を省かないでください。
法律上の禁止もあります。民法509条は、悪意による不法行為に基づく損害賠償債務と、人の生命または身体の侵害による損害賠償債務については、その債務者から相殺を主張できないとしています。
差押えとの関係も押さえておきたい点です。民法511条1項では、差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺は差押債権者に対抗できませんが、差押え前に取得した債権による相殺なら対抗できます。取引先の債権が差し押さえられた後で、慌てて新しい債権を作って相殺しても通りません。
時効については民法508条が救済しています。時効で消滅した債権であっても、消滅する前に相殺適状になっていたのであれば相殺できます。
合意でつくる相殺契約
法定相殺の要件を満たさない場合でも、当事者が合意すれば相殺できます。これが相殺契約です。弁済期が両方とも到来していない、通貨が異なる、契約に相殺禁止条項があるといった状況でも、双方が納得すれば処理できます。
継続的な相互取引では、基本契約書に「毎月末締めで双方の債権債務を相殺し、差額を翌月末までに支払う」といった条項を入れておくのが現実的です。毎回の合意形成が不要になり、経理の締め作業も安定します。相手が中小企業や個人事業主の場合は、後述する取適法との関係もあるため、条項の文言を法務や顧問弁護士に確認しておくと安心です。
相殺の意思表示|通知書と合意書の作り方
相殺は一方的な意思表示で成立します
民法506条1項は、相殺は当事者の一方から相手方に対する意思表示によって行うと定めています。相手の同意は不要です。同項は、この意思表示に条件や期限を付けられないとも規定しています。「入金がなければ相殺する」といった条件付きの通知は効力を持ちません。
同条2項には遡及効の規定があります。相殺の意思表示は、双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼって効力を生じます。したがって相殺適状の時点以降の遅延損害金は発生しません。通知が遅れても、利息計算の基準日は相殺適状の日になります。
相殺通知書に書く項目
書式は法律で決まっていません。ただし後から争いになったときに何を相殺したか特定できなければ意味がないため、次の要素は入れてください。
・表題として相殺通知書と明記します。
・通知日と、相手方の商号または氏名を記載します。
・自社の商号、所在地、代表者名を記載し押印します。
・自働債権を特定します。取引年月日、請求書番号、金額を書きます。
・受働債権も同じ粒度で特定します。
・相殺する金額、つまり対当額を明示します。
・相殺後の残額と、その支払方法および支払期日を書きます。
文末は「上記のとおり相殺いたしましたので通知します」のように、相殺の意思表示であることがわかる表現にします。「相殺したい」「相殺を希望する」では意思表示と読めない余地が残ります。
通知の送り方と合意書を選ぶ場面
日常的な相互取引で相手も相殺を前提にしているなら、締め日の残高確認書に相殺内容を記載して交換するだけで足ります。
一方、回収が難しくなってきた相手に対する相殺、金額が大きい相殺、相手が相殺に反発しそうな相殺では、到達を証明できる方法を選びます。配達証明付きの内容証明郵便であれば、いつ何を通知したかが記録として残ります。
相手が争ってくる可能性が高い場面や、相殺契約として処理する場面では、通知書ではなく相殺合意書を2通作成し、双方が記名押印して1通ずつ保管する形が確実です。合意書には、相殺の対象、相殺日、相殺後の残額、残額の支払期日、そして「本件債権債務について他に債権債務がないことを相互に確認する」旨の清算条項を入れておきます。
相殺後の請求書と領収書の書き方
相殺前の総額を先に書きます
請求書の書き方に法定の様式はありません。ただ、消費税の計算根拠を示す書類である以上、相殺前の取引金額を明記する必要があります。差額だけを書いた請求書は、取引金額の証明として不完全です。
推奨される並べ方は次のとおりです。まず明細行に今回の取引内容と金額を通常どおり記載し、小計、消費税額、税込合計を出します。その下に相殺欄を設け、相殺する金額をマイナス表記します。最後に差引請求金額を太めの罫線で囲み、実際に振り込んでもらう金額として示します。
相殺欄には、何と相殺したのかを書き添えてください。「2026年7月20日付貴社請求書No.1042との相殺」のように相手の請求書番号を引用すれば、相手の経理も突き合わせができます。請求書そのものの基本項目を確認したい場合は請求書の書き方と記載事項が参考になります。
2枚に分ける方法もあります
相殺欄を入れると請求書が読みにくくなる、あるいは自社の請求書フォーマットに欄を追加できないという事情もあります。その場合は、適格請求書としての要件を満たす請求書を通常どおり1枚発行し、相殺の内容と差引後の支払額を示す精算書をもう1枚添付する方法が使えます。適格請求書の記載事項は複数の書類の組み合わせで満たしても構いません。
相殺領収書と収入印紙の扱い
相殺した分について領収書を求められることがあります。相殺のみを内容とする領収書には、収入印紙は不要です。国税庁の質疑応答でも、相殺は金銭の受領ではないため印紙税法上の第17号文書には当たらないという扱いが示されています。
ただし、相殺であることが書面上明らかでなければなりません。「上記金額を相殺いたしました」といった文言を必ず入れてください。相殺と書かずに金額だけを記載すると、通常の金銭受取書と区別できず課税対象になります。
一部を相殺し、残額を現金や振込で受け取った分もまとめて1枚の領収書にする場合は注意が必要です。相殺部分の金額が書面上明確に区分されていれば、その部分は記載金額から除かれます。区分がなければ全額が記載金額とみなされます。売上代金に係る金銭の受取書は記載金額5万円未満であれば非課税ですが、区分を怠って全額が記載金額と扱われると、5万円の線を超えて印紙が必要になる場合があります。
消費税とインボイスの扱いで間違えやすい点
相殺そのものは不課税で、売上と仕入は総額のまま計上します
消費税の課税対象は資産の譲渡等です。相殺は債権債務の決済方法にすぎないため、それ自体は課税対象になりません。不課税取引として扱います。
相殺しても、課税売上高は相殺前の売上金額で計上し、課税仕入れも相殺前の仕入金額で計上します。税込110万円の売掛金と税込66万円の買掛金を相殺して44万円を受け取ったとしても、売上は税込110万円、仕入は税込66万円で計上し、課税売上高は税抜100万円、課税仕入れは税抜60万円になります。差額の44万円だけを売上に立てると、課税売上高が税抜60万円分過少になり、消費税の納付額が不足します。
この誤りは、簡易課税の適用判定や、課税売上高1,000万円という納税義務の判定にも影響します。相殺の多い会社では、売上計上額が総額になっているかを決算前に必ず確認してください。
適格請求書は相殺前の対価の額で交付します
適格請求書に記載する「課税資産の譲渡等の対価の額」も、相殺前の金額です。税率ごとに区分した対価の額と、税率ごとの消費税額等を記載し、登録番号を入れます。差引請求金額のほうに消費税額を按分して書き直す必要はありません。
相殺額そのものは、適格請求書の法定記載事項ではありません。取引先との突き合わせのために書くものだと理解しておくと、記載を迷わなくなります。適格請求書の要件を整理しておきたい場合は適格請求書の書き方と記載事項を確認してください。
相殺は値引きではないため返還インボイスは不要です
売上を値引きしたときは、売上げに係る対価の返還等として返還インボイス(適格返還請求書)の交付義務が生じます。しかし相殺は決済であって値引きではないため、相殺したこと自体で返還インボイスが必要になることはありません。
混同しやすいのは、相殺と同時に単価の修正や数量値引きを行っている場合です。この場合は値引き部分について返還インボイスの検討が必要になります。相殺欄と値引欄は請求書上で分けて表示してください。

相殺の仕訳例
前提を統一します。自社はB社に対し税込110万円の売掛金(本体100万円、消費税10万円)を持ち、同時にB社への税込66万円の買掛金(本体60万円、消費税6万円)を負っているとします。税込経理を前提に、まず基本形を示します。
全額を相殺するケース
売掛金と買掛金がともに55万円で、全額を相殺する場合の仕訳です。
借方:買掛金 550,000/貸方:売掛金 550,000
現金の動きがないため、預金勘定は登場しません。摘要欄に「B社 2026年7月分 相殺」のように相手先と対象月を残しておくと、後の照合が楽になります。
一部を相殺し、差額を振込で受け取るケース
相殺日の仕訳は次のとおりです。
借方:買掛金 660,000/貸方:売掛金 660,000
差額44万円が入金された日の仕訳は次のとおりです。
借方:普通預金 440,000/貸方:売掛金 440,000
相殺日と入金日を分けて記帳すると、月末時点の売掛金残高が実態と一致します。同じ日に処理してしまうと、相殺と入金の区別が帳簿から読み取れなくなります。
税抜経理の場合の考え方
税抜経理では、売上と仕入を計上した時点で仮受消費税等と仮払消費税等を切り離しています。売掛金110万円は本体100万円と仮受消費税等10万円に分けて計上済み、買掛金66万円は本体60万円と仮払消費税等6万円に分けて計上済みという状態です。
そのため相殺の仕訳では消費税勘定は動きません。売掛金と買掛金という債権債務の残高だけを、税込金額で対当額分だけ落とします。相殺の際に消費税を再計算して按分するような処理は不要です。
振込手数料の相殺と2026年1月からのルール変更
売上値引きとして処理する場合
売手が振込手数料を負担する取り決めのもとで、買手が手数料を差し引いて入金してくるケースがあります。この差引額を売上値引き、つまり売上げに係る対価の返還等として処理する方法があります。
税込44万円の請求に対し、振込手数料440円を差し引いた439,560円が入金された場合の仕訳です。
借方:普通預金 439,560/貸方:売掛金 440,000
借方:売上値引 400
借方:仮受消費税等 40
売上値引きとして処理すると返還インボイスの交付義務が生じますが、令和5年10月1日以後の取引については、税込1万円未満の売上げに係る対価の返還等について交付義務が免除されています。振込手数料は数百円ですから、この免除の範囲に収まります。この免除措置は2割特例や少額特例と違い、適用期限のない恒久的な措置で、対象事業者の限定もありません。
支払手数料として処理する場合
差引額を支払手数料として課税仕入れに計上する方法もあります。ただしこの場合、仕入税額控除を受けるには金融機関が発行するインボイスの保存が必要になります。実際に振り込んだのは買手なので、売手はそのインボイスを持っていません。買手から立替金精算書を受け取るなどの手当てが必要で、事務負担は売上値引き処理より重くなります。
金額の小さい取引で毎月発生する処理ですから、売上値引きとして処理を統一しておくほうが現実的です。
取適法では「手数料の天引き」が問題になります
2026年1月1日から、下請法は「中小受託取引適正化法」、略称で取適法に変わりました。正式名称は製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律です。
この法律のもとでは、代金から振込手数料を差し引く行為が代金の減額に当たると判断されるおそれがあります。背景にあるのは民法の考え方です。民法484条1項により金銭債務は債権者の住所で弁済する持参債務が原則で、民法485条は別段の意思表示がなければ弁済の費用は債務者が負担すると定めています。振込手数料は支払う側が負担するのが原則という整理になります。従来の運用では、事前の書面合意があり実費の範囲内であれば差し引けると整理されてきましたが、改正後は当局の見方がより厳しくなっています。実費が150円のところに一律550円を控除しているような運用は、差額分が不当な減額と評価される余地があります。
対象取引であれば、振込手数料は発注側が全額負担する運用に統一するのがもっとも安全です。どうしても受託側の負担にしたい事情があるなら、発注時点で書面により合意し、控除額を実費に限定してください。
下請法(取適法)上の注意点とトラブル回避
一方的な相殺は代金の減額と評価されるおそれがあります
取適法は、製造委託・修理委託・特定運送委託については資本金3億円超または従業員300人超の事業者を委託事業者とし、情報成果物作成委託や役務提供委託については資本金5,000万円超または従業員100人超を基準としています。従業員数の基準は今回の改正で追加されました。自社が委託事業者に当たるかどうかを、まず資本金と従業員数で確認してください。
取適法は委託事業者に4つの義務と11の禁止行為を課しています。相殺に直接関わるのは「製造委託等代金の減額の禁止」で、中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに代金を減らす行為が対象です。相殺そのものは禁止されていませんが、相手に事前に伝えず代金から一方的に控除すると、実質的な減額と見られます。損害賠償請求権との相殺を主張する場合も、減額禁止をすり抜けるために仮装した請求だと評価されないよう、損害の根拠を示せる状態にしておく必要があります。
相殺の対象と金額を書面で提示し、相手の確認を取ってから控除してください。相殺予定通知を支払期日の前に送る運用にすれば、相手も自社の帳簿を合わせられます。
支払期日は相殺後の残額にも及びます
支払期日は、給付を受領した日から起算して60日以内に定めなければなりません。相殺したからといって、この期日が延びるわけではありません。相殺後の残額も、元の支払期日までに支払う義務があります。
2026年1月からは約束手形などによる支払いが禁止されました。電子記録債権やファクタリングであっても、支払期日までに手数料を含む満額を受け取ることが難しいものは認められません。相殺後の残額を手形で渡す処理も見直しの対象になります。あわせて全国銀行協会は、2026年度末までに電子交換所での手形・小切手の交換枚数をゼロにする目標を掲げ、2027年度初から交換自体を廃止する方針を示しています。
契約と締め日の運用で防ぐ
相殺をめぐる争いは、金額の認識がずれることから起きます。防ぎ方は地味ですが効果があります。
・基本契約書に相殺の可否、締め日、通知方法、差額の支払期日を明記します。
・自社の締め日と相手の締め日を揃え、対象期間のずれをなくします。
・毎月、残高確認書を交換して債権債務の金額を突き合わせます。
・相殺通知書と相手からの確認回答を、証憑としてセットで保管します。
相手の信用状態が悪化してからの相殺は、差押えや倒産手続との優先関係が絡み、判断が難しくなります。回収に不安がある取引先については、平時のうちに相殺条項を整えておくほうが確実です。
よくある質問
相手の同意がなくても相殺できますか
法定相殺の要件を満たしていれば、民法506条1項に基づき一方的な意思表示で相殺できます。相手の同意は不要です。
ただし、契約書に相殺禁止条項があれば当事者間では相殺できません。また相手が取適法上の中小受託事業者に当たる取引では、同意なく代金から控除すると減額禁止に触れるおそれがあります。法律上できることと、実務で行って安全なことは別だと考えてください。
相殺すると消費税の課税売上高は減りますか
減りません。相殺は決済方法であり、資産の譲渡等の対価の額そのものは変わらないためです。課税売上高は相殺前の売上金額で計上し、課税仕入れも相殺前の仕入金額で計上します。
差額だけを売上に計上する処理は、課税売上高の過少計上につながります。納税義務の判定や簡易課税の適用可否にも影響するため、決算前の確認項目に入れておくことをおすすめします。
相殺する場合、請求書はどちらが発行しますか
双方が発行します。自社は自社の売上について適格請求書を交付し、相手も相手の売上について適格請求書を交付します。相殺は決済段階の処理なので、それぞれの取引についてインボイスを交付する義務は変わりません。
実務では、差額を受け取る側が自社の請求書に相殺欄を設けて差引請求金額を示し、相手からは通常の請求書を受け取る形が多く見られます。
相殺額が売掛金を超えるときはどう処理しますか
対当額を超える部分は相殺できません。売掛金が44万円、買掛金が66万円なら、相殺できるのは44万円までです。残る22万円は自社の支払義務として残るため、期日までに振り込みます。
請求書上では、自社の売掛金44万円を全額相殺したうえで、差引請求金額を0円と表示します。超過分の22万円は相手からの請求書に基づいて別途支払います。
相殺の証拠として何を残せばよいですか
最低限、相殺通知書または相殺合意書の控え、相手からの確認回答、相殺前の総額を記載した請求書、そして相殺仕訳を記録した帳簿を揃えてください。
内容証明郵便で送付した場合は、差出時の謄本と配達証明も保管します。相殺は遡及効があるため、いつ相殺適状になったかを後から示せる資料が必要になります。取引年月日と請求書番号を通知書に書いておく理由もここにあります。
まとめ
請求書で相殺を扱うときの要点を振り返ります。
法的な土台は民法505条です。同一当事者間で債権が向かい合い、同種の目的を持ち、自働債権の弁済期が到来していれば相殺適状になります。相殺は民法506条1項により一方的な意思表示で成立し、その効力は相殺適状の時点にさかのぼります。要件を満たさない場合も、相殺契約という選択肢があります。
請求書の書き方では、相殺前の総額を先に記載し、相殺額をマイナス表記して差引請求金額を示します。適格請求書に書く対価の額は相殺前の金額です。相殺のみの領収書に収入印紙は不要ですが、相殺であることを書面に明記してください。
消費税では、相殺しても課税売上高と課税仕入れを総額で計上します。ここを差額で処理すると納税額が狂います。振込手数料を差し引く場合は、売上値引きとして処理すれば税込1万円未満の返還インボイス交付義務免除が使えます。
2026年1月に施行された取適法にも注意が必要です。代金からの一方的な控除は減額禁止に触れるおそれがあり、振込手数料の天引きも見直しが必要になりました。相殺の対象と金額を事前に書面で示し、相手の確認を取ってから控除する運用に切り替えておけば、法令面でも取引先との関係でも安全に処理できます。



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