
月末になると、領収書の束を前に申請書を書き、上長の承認を待ち、経理から差し戻しの連絡を受ける。会社の経費精算は、こうしたやり取りが毎月くり返される業務です。1件ずつの手間は小さくても、社員全員の件数を合計すると、本来の仕事に使えたはずの時間がかなり削られています。
効率化の手段は、経費システムの導入だけに限りません。規程の明文化や締め日の統一のように費用のかからない見直しから、キャッシュレス化、承認フローの短縮、アウトソーシングまで、手段は段階的に選べます。2024年1月からは電子取引データの電子保存が義務になり、2023年10月に始まったインボイス制度も、2026年10月からは免税事業者からの仕入れに関する経過措置の控除割合が80%から70%に下がります。制度対応と業務の効率化を同時に進めると、作業の二度手間を避けられます。
この記事では、経費精算が負担になる理由を整理したうえで、会社の規模を問わず取り組める7つの方法と、電子帳簿保存法・インボイス制度に沿った運用の要点を順に解説します。いきなり全部を変える必要はありません。自社のボトルネックに合う方法を1つ選んで始めれば、翌月の締めから変化を確認できます。
目次
経費精算が会社の負担になる理由
申請者・承認者・経理の3者に作業が分散している
経費精算には、立て替えた社員、内容を確認する上長、仕訳と支払いを担当する経理の3者が関わります。社員は領収書を保管して申請書に日付・金額・目的を書き写し、上長は内容を見て承認し、経理は領収書と申請内容を突き合わせてから会計ソフトに入力します。
同じ情報を3回見て、2回書き写す構造になっているため、どこか1か所でミスがあると差し戻しが発生し、全員の作業がやり直しになります。紙の申請書を回覧している会社では、承認者の出張や休暇で書類が止まることも珍しくありません。
調査データで見る立替経費の課題
Sansanが2024年7月に会社員1,000人を対象に行った調査では、72.8%が立替経費に課題を感じていると答え、46.2%が精算業務が通常業務の妨げになっていると回答しています。課題の中身は「精算処理が面倒」が33.9%、「領収書の管理が面倒」が31.4%で上位を占めました。
同じ調査では、52.2%が精算を申請せずに自腹で済ませた経験があると答えています。理由の最多は「精算処理が面倒だから」の40.8%で、「申請を忘れていた」33.9%、「領収書を紛失した」31.2%が続きます。手続きの煩雑さが、社員の自己負担という形で表に出ている状態です。
非効率を放置したときに起きること
精算が面倒なまま放置されると、申請が月末に集中し、経理の締め作業が数日間に偏ります。確認時間が足りなくなれば、二重申請や私的な支出の混入を見落としやすくなります。先の調査でも、自社で社員が経費を不正利用した噂を見聞きしたことがあると答えた人は37.1%でした。
自腹精算が常態化すると、会社の費用として正しく計上されない支出が生まれます。損益の数字がずれるだけでなく、社員の不満にもつながるため、効率化は経理部門だけの課題にとどまりません。
効率化に着手する前に現状の業務フローを把握する
経費精算の一般的な流れ
多くの会社では、経費精算は次の順序で進みます。
- 社員が経費を立て替え、領収書を受け取る
- 社員が経費精算書を作成し、領収書を添付して提出する
- 上長が内容を確認して承認する
- 経理が規程と照合し、仕訳を入力する
- 経理が社員の口座へ精算額を振り込む
申請書の書式が決まっていない場合は、まず書式をそろえるところから始めると後の工程が楽になります。記入項目や書き方の例は経費精算書の無料テンプレートと書き方の解説で確認できます。
ボトルネックを見つける3つの指標
どこから手を付けるかは、感覚で決めるより数字で決めるほうが失敗しません。目安になるのは次の3つです。
1つ目は月間の申請件数と、その内訳です。交通費が大半を占めるなら交通系ICとの連携、接待費や出張費が多いなら規程の明確化が効果を出しやすくなります。2つ目は差し戻し率で、10件に1件以上戻っているなら、申請ルールが社員に伝わっていない可能性があります。3つ目は締め日から振込までの日数です。2週間以上かかっている場合は、承認フローのどこかで書類が滞留しています。
この3つを1か月分だけ記録すると、次に紹介する7つの方法のうち、どれを優先すべきかが見えてきます。
会社の経費精算を効率化する7つの方法
経費規程と申請ルールを明文化する
最初に取り組みたいのは、何が経費になり、いくらまで認めるのかを文書にすることです。交通費は最安経路か最速経路か、タクシーはどの条件で使えるか、会議費と交際費の境目はどこかといった基準があいまいなままだと、社員は迷いながら申請し、経理は1件ずつ判断することになります。
規程には、対象経費の範囲、1回あたりの上限額、必要な証憑、申請期限の4点を最低限入れておきます。出張がある会社は旅費規程で日当や宿泊費の上限も定めておくと、精算時の判断がほぼ不要になります。
申請書のフォーマットと締め日を統一する
部署ごとに異なるExcelの書式を使っていると、経理は書式を読み解くところから作業を始めなければなりません。全社で1つのフォーマットにそろえ、勘定科目を選択式にするだけでも、入力ミスと確認の時間が減ります。
締め日も「毎月25日締め、翌月10日支払い」のように全社で固定します。申請期限を過ぎたものは翌月回しにすると決めておけば、月末の駆け込み申請が分散し、経理の作業が特定の数日に集中しにくくなります。
小口現金を廃止して精算を振込に一本化する
小口現金を置いている会社では、現金の出し入れのたびに出納帳をつけ、毎日または毎週、帳簿と金庫の残高を照合する作業が発生します。金額が合わないと原因を探すのに時間を取られ、紛失や盗難のリスクも抱えます。
立替経費をすべて口座振込で精算するように切り替えると、現金の管理そのものがなくなります。振込は月1回か2回にまとめ、給与と同じ日に振り込む場合は、非課税の経費精算分を給与と区別して明細に記載します。廃止までの手順は小口現金の管理と廃止のメリットでまとめています。
法人カードや交通系ICでキャッシュレス化する
社員が立て替える場面そのものを減らせば、精算の件数が減ります。代表的な手段が法人カードと交通系ICカードです。カードの利用データを経費精算システムに取り込めば、日付と金額を手で書き写す必要がなくなり、立て替えた社員の資金負担もなくなります。
ただし、カード会社の利用明細はインボイス(適格請求書)の代わりになりません。仕入税額控除を受けるには、店舗が発行する領収書やレシートを別に保存する必要があります。カードの種類や社員への配布基準など、導入時に決めておくべき項目は法人カードのメリット・デメリットと選び方を参考にしてください。
経費精算システムを導入する
件数が多い会社で効果が大きいのは、クラウド型の経費精算システムです。スマートフォンで領収書を撮影すると、OCR(画像から文字を読み取る機能)が日付や金額を自動で入力し、交通系ICの履歴や法人カードの明細も取り込めます。承認もシステム上で完結するため、紙の回覧で書類が止まることがなくなります。
経理側では、承認済みのデータを仕訳として会計ソフトに連携できる製品が多く、手入力の工程を減らせます。電子帳簿保存法の要件に対応した製品を選べば、スキャンした領収書をそのまま法定の保存データとして扱えます。選び方は後の章で詳しく説明します。
承認フローを見直して承認者を減らす
課長、部長、役員と承認者が3人以上連なっていると、誰か1人が不在なだけで精算が止まります。金額によって承認ルートを分け、たとえば1万円未満は直属の上長のみ、10万円以上は部長まで、といった形に整理すると、大半の申請が1段階で済みます。
承認者には、全件を細かく見る役割から、規程外の支出だけを確認する役割へ移ってもらいます。規程に沿った内容かどうかのチェックはシステムや経理が担い、承認者は事業上の必要性の判断に集中すると、承認にかかる時間が短くなります。
アウトソーシングで経理の作業を外に出す
社内に経理担当者が1人しかいない、または繁忙期だけ人手が足りないといった会社では、経費精算の点検や入力を外部に委託する方法もあります。領収書と申請内容の照合、仕訳入力、振込データの作成といった定型作業を任せ、社内の担当者は例外処理と最終確認に専念します。
委託する場合は、社員の個人情報や口座情報を外部と共有することになるため、契約で情報の取り扱いを定めておきます。規程が整っていないまま委託すると判断を外部に委ねることになり、かえって確認が増えるので、規程の整備を先に済ませておくのが順序として適切です。
経費精算システムの選び方と導入の進め方
比較するときに確認したい5つの観点
経費精算システムは製品ごとに得意分野が異なります。比較するときは、次の5点を確認します。
- 領収書のOCR読み取りの精度と、スマートフォンでの操作性
- 交通系ICカードや法人カードの明細を取り込めるか
- 使っている会計ソフトと仕訳データを連携できるか
- 電子帳簿保存法の要件を満たしているか
- インボイスの登録番号を自動で照合できるか
電子帳簿保存法への対応は、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)の認証を受けているかが1つの目安になります。国税庁のWebサイトには、JIIMAの認証を受けたソフトウェアの一覧が掲載されています。登録番号の照合機能があると、領収書の番号が国税庁のデータと一致するかをシステムが確認するため、経理が1件ずつ公表サイトで調べる作業が減ります。
導入を失敗させない進め方
システム導入でつまずく原因の多くは、機能ではなく運用面にあります。全社で一斉に切り替えると、操作に慣れない社員からの問い合わせが経理に集中します。まず1つの部署で1か月ほど試し、つまずいた点を手順書に反映してから全社へ広げると、混乱を抑えられます。
経費規程の改定も、導入と同じタイミングで行います。紙の運用を前提にした規程のまま電子申請に移ると、「原本の提出は必要か」「承認印の代わりは何か」といった疑問が現場で出てきます。システム上の承認記録を正式な承認とみなす旨を規程に書き込んでおけば、運用の迷いがなくなります。
Excel運用とシステム導入の違い
Excelでの管理は費用がかからず、社員数が少ない会社ではこれで足りる場合もあります。一方で、領収書の画像とデータの紐付け、承認履歴の保存、電子帳簿保存法の検索要件への対応は、Excelだけでは手作業に頼ることになります。
月間の申請件数が50件を超える、承認者が複数の拠点にいる、紙の領収書を電子化したいといった条件のいずれかに当てはまるなら、システム導入の効果が費用を上回りやすくなります。多くのクラウド製品は利用人数に応じた月額課金なので、試用期間を使って自社の件数で試算してみると判断しやすくなります。

電子帳簿保存法に対応した経費精算の進め方
電子で受け取った領収書は電子のまま保存する
2024年1月1日以降、メールで届いたPDFの領収書や、ECサイトからダウンロードした領収書といった電子取引データは、電子データのまま保存することが義務になりました。印刷して紙で保存する方法は、原則として認められません。
保存にあたっては、改ざん防止の措置と、取引年月日・金額・取引先で検索できる状態が求められます。ただし、基準期間(2期前の事業年度)の売上高が5,000万円以下の会社は、税務調査の際にデータのダウンロードの求めに応じられるようにしておけば、検索機能の確保は不要です。
システム対応が間に合わない会社向けには猶予措置もあります。所轄税務署長が相当の理由があると認め、かつ税務調査の際にデータのダウンロードと印刷した書面の提示に応じられる場合は、保存要件に沿った対応をしないままデータを保存しておけます。事前の申請は不要で、適用期限も定められていませんが、「相当の理由」があるかは個別に判断されるため、システム対応までの措置として扱うのが無難です。
紙の領収書をスキャナ保存する場合の要件
紙で受け取った領収書は、紙のまま保存しても問題ありません。スキャナ保存を選べば、要件を満たしたうえで原本を廃棄でき、ファイリングや保管スペースの負担がなくなります。
スキャナ保存には入力期限があります。受領後おおむね7営業日以内に読み取る早期入力方式と、社内の業務処理サイクル(最長2か月)を経過した後、おおむね7営業日以内に読み取る方式のどちらかです。読み取りは解像度200dpi以上、原則カラーで行い、タイムスタンプの付与などで改ざんを防ぎます。
2024年1月以降は要件の一部が緩和されました。解像度や階調の情報を保存する必要がなくなり、入力者の情報を確認できるようにする要件も廃止されています。スマートフォンで撮影した画像も、要件を満たせばスキャナ保存として認められるため、社員が外出先で撮影して申請する運用が可能です。
事務処理規程で改ざん防止の要件を満たす
電子取引データの改ざん防止措置には、タイムスタンプの付与、訂正や削除の履歴が残るシステムの利用、不当な訂正削除を防ぐ事務処理規程の整備と運用、といった選択肢があります。専用システムを使わない場合は、事務処理規程を定めて守る方法が最も始めやすい手段です。
国税庁は事務処理規程のひな形をWebサイトで公開しています。ひな形をもとに、データの訂正や削除を行う際の申請先と承認者、記録の残し方を自社の組織に合わせて書き換えれば、大きな費用をかけずに要件に対応できます。
インボイス制度で経費精算の確認項目はどう変わったか
領収書の登録番号を確認する
インボイス制度のもとで仕入税額控除を受けるには、原則として適格請求書発行事業者が発行した領収書やレシートの保存が必要です。経費精算の確認項目には、従来の日付・金額・宛名に加えて、「T」に13桁の数字が続く登録番号と、税率ごとの消費税額(レシートなどの簡易なインボイスでは適用税率でも可)が加わりました。
取引先が適格請求書発行事業者でない場合は、免税事業者などからの仕入れとして扱います。この場合も、帳簿に経過措置の適用を受ける旨を記載するなどの要件を満たせば一定割合を控除できますが、控除割合は2023年10月から2026年9月までが80%で、2026年10月から2028年9月までは70%に下がります。その後は2030年9月まで50%、2031年9月まで30%と段階的に縮小します。令和8年度税制改正では、1つの免税事業者等からの課税仕入れについて、経過措置を適用できる年間の上限額が10億円から1億円に引き下げられた点も押さえておきます。
帳簿の保存だけで控除できる経費
すべての経費でインボイスが必要なわけではありません。次のような取引は、一定の事項を記載した帳簿を保存すれば、インボイスがなくても仕入税額控除を受けられます。
- 3万円未満の公共交通機関(電車・バスなど)の運賃
- 3万円未満の自動販売機や自動サービス機での購入
- 郵便切手類のみを対価とする郵便サービス(ポストに投函したもの)
- 従業員に支給する出張旅費・宿泊費・日当・通勤手当のうち通常必要と認められる部分
電車代の精算が多い会社では、この特例を規程に明記しておくと、社員に領収書の提出を求める範囲を絞れます。帳簿には通常の記載事項に加えて、「3万円未満の鉄道運賃」のように特例の対象である旨を書き添えます。
少額特例で1万円未満の経費を簡素化する
基準期間の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者は、税込1万円未満の課税仕入れについて、帳簿の保存だけで仕入税額控除を受けられます。これを少額特例といい、2023年10月1日から2029年9月30日までの取引が対象です。
1万円未満かどうかは、1回の取引の合計額で判定します。商品ごとの金額で分けて判定するわけではないため、1回の買い物で合計1万2,000円なら対象外です。中小企業では経費精算の大半が1万円未満に収まることが多く、この特例を使うと登録番号の確認作業を大きく減らせます。
社員が立て替えた経費の書類の扱い
社員が立て替えた経費のレシートなどの簡易インボイス(適格簡易請求書)に、社員個人の名前が宛名として書かれていることがあります。国税庁のQ&Aによれば、社員が会社に所属していることを示す従業員名簿などを併せて保存していれば、その簡易インボイスで会社の仕入税額控除を受けられます。名簿などで社員を特定できない場合は、社員が作成した立替金精算書の保存が必要です。
取引先に経費を立て替えてもらい、取引先宛てのインボイスを受け取った場合も同様に、取引先が作成する立替金精算書を一緒に保存します。書式と記載例はインボイス制度に対応した立替金精算書の書き方を参照してください。
経費精算の効率化でよくある質問
社員数が少ない中小企業でも経費精算システムは必要ですか
必ずしも必要ではありません。社員が10人程度で申請件数も月20件前後なら、規程の明文化と申請書式の統一、振込への一本化だけで十分に回ることが多いです。電子取引データの保存も、基準期間の売上高が5,000万円以下なら検索機能の確保が不要になるため、事務処理規程を備え、取引先や月ごとにフォルダを分けて保存する方法で対応できます(税務調査の際にデータのダウンロードの求めに応じることが条件です)。件数が増えてきた段階で、システム導入を検討すれば間に合います。
スキャンした紙の領収書の原本は捨ててもよいですか
スキャナ保存の要件を満たして保存していれば、原本は廃棄できます。ただし、読み取った画像が不鮮明で金額が判読できない、入力期限を過ぎてから読み取った、といった場合は要件を満たしません。運用開始直後は、経理が画像の品質を確認してから廃棄する手順を挟んでおくと安心です。
仮払いの運用はやめたほうがよいですか
出張費など高額な経費を社員に立て替えさせない目的で、仮払いを残している会社もあります。ただ、仮払いは出金時と精算時の2回処理が発生し、未精算の残高管理も必要です。法人カードで出張の交通費や宿泊費を直接支払える体制にすると、仮払いの件数を減らせます。
まとめ
会社の経費精算を効率化するには、まず申請件数・差し戻し率・振込までの日数を記録して、どこで時間を使っているかを把握することが出発点です。そのうえで、費用をかけずにできる規程の明文化と締め日の統一から始め、小口現金の廃止、キャッシュレス化、システム導入、承認フローの短縮、アウトソーシングへと、自社の状況に合わせて段階的に進めます。
制度面では、電子取引データは電子のまま保存し、紙の領収書はスキャナ保存の入力期限を守ること、インボイスの登録番号を確認しつつ、公共交通機関の特例や少額特例で確認範囲を絞ることが要点です。免税事業者からの仕入れの控除割合は2026年10月から70%に下がるため、規程やシステムの設定が最新の割合になっているかも確認しておきましょう。



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