
単式簿記は、1つの取引を1つの項目で記録する帳簿付けです。売上や経費を日々残せば、確定申告前に領収書や通帳から収支を探す負担を減らせます。
この記事では、現金出納帳や預金出納帳などの記入例、白色申告の記帳義務、青色申告10万円控除、令和9年分からの改正点を整理します。
目次
単式簿記とは?1つの取引を1つの項目で記録する方法
一つの取引、一つの記録
単式簿記は、一つの取引に対して一つの記録を残す方法です。「10月30日に事務所の家賃として15万円を支払った」場合は、「10月30日、地代家賃、150,000円」のように、日付、内容、金額を1行で記録します。
お金の出入りだけを追う
単式簿記では、売上の入金を収入、消耗品や交通費の支払いを支出として、主に現金や預金の増減を追います。中心は現金出納帳と預金出納帳ですが、売掛金、買掛金、借入金などは見えにくくなります。詳しくは個人事業主の帳簿の付け方も参考になります。
簡易簿記との関係
単式簿記は、税務では「簡易簿記」や「簡易な簿記の方法」と呼ばれることがあります。国税庁の青色申告特別控除の説明でも、10万円控除に関係する記帳方法として示されています。税務上は、確定申告書や収支内訳書、青色申告決算書につながる帳簿として保存することが重要です。
複式簿記との違いを比較表で確認
記録の視点:1つの側面と2つの側面
単式簿記は、「消耗品を10,000円で買った」という支出を、日付、消耗品費、文房具代、支出10,000円のように1つの側面で記録します。複式簿記は原因と結果の2つの側面から記録し、文房具を現金で買った場合は、借方に消耗品費10,000円、貸方に現金10,000円のように記録します。仕組みは複式簿記とはで確認できます。
わかること・わからないこと
単式簿記でわかるのは主にお金の出入りです。未入金の売上、これから支払う買掛金、借入金の残高は体系的に見えにくく、貸借対照表の作成には原則として向きません。青色申告特別控除55万円・65万円を目指す場合は、複式簿記への切り替えを検討します。
ひとめでわかる比較表
| 項目 | 単式簿記 | 複式簿記 |
| 記録方法 | 1つの取引を1つの項目で記録 | 1つの取引を借方・貸方で記録 |
| 主にわかること | 収入と支出の流れ | 収支、資産、負債、純資産の動き |
| 作成しやすい書類 | 収支内訳書、簡易な決算書 | 損益計算書、貸借対照表 |
| 難易度 | 低い | 高い |
| 青色申告特別控除 | 原則10万円、令和9年分以後は要件に注意 | 55万円または65万円、改正後は75万円の可能性 |
| 向いている人 | 取引が少ない個人事業主、白色申告の人 | 事業規模が大きい人、控除額を増やしたい人 |
どちらを選ぶべきかの判定フロー
白色申告または青色申告10万円控除で十分なら、単式簿記から始める方法があります。一方、前々年の事業所得や不動産所得に係る収入金額が1,000万円を超える可能性がある人、e-Taxで申告できる人、融資や資金繰りのために財産状況を把握したい人は、複式簿記を検討する時期です。令和9年分以後は簡易簿記の10万円控除にも影響が出る予定です。
メリット・デメリット
メリット:シンプル・専門知識不要・低コスト
単式簿記は、取引が発生したら日付、内容、金額を記録するだけなので始めやすい方法です。
デメリット:経営状況が見えにくい
単式簿記は現金や預金の動きが中心のため、売掛金、買掛金、借入金などを含めた全体像をつかみにくい弱点があります。入金前の売上や借入の返済義務も見えにくくなります。
デメリット:ミスを見つけにくい
複式簿記では、借方と貸方の金額一致で記録ミスを見つけやすくなります。単式簿記には同じ検算機能がないため、現金出納帳は実際の現金、預金出納帳は通帳やネットバンキングの明細と照合します。
デメリット:青色申告特別控除の額が小さい
単式簿記でも青色申告はできますが、青色申告特別控除は原則として10万円です。複式簿記で貸借対照表などを作成し、期限内に申告する場合は55万円、さらにe-Taxなどの要件を満たすと65万円の控除が検討できます。令和9年分からは、簡易簿記で10万円控除を受けている人の一部について、控除が使えなくなる予定です。
実践:帳簿の付け方と記入例
まず準備する帳簿
単式簿記でも、青色申告10万円控除を検討する人は、現金出納帳、預金出納帳、売掛帳、買掛帳、経費帳、固定資産台帳を準備すると整理しやすくなります。家事按分や事業主貸・事業主借は個人事業主の帳簿の付け方で解説しています。
現金出納帳の書き方と記入例
現金出納帳は、事業用現金の動きを記録し、財布や金庫の残高と帳簿残高が一致するかを確認する帳簿です。
| 日付 | 勘定科目 | 摘要 | 収入金額 | 支出金額 | 残高 |
| 4/1 | 前月繰越 | 前月からの現金残高 | 50,000 | ||
| 4/3 | 売上 | A社 商品代金 | 30,000 | 80,000 | |
| 4/5 | 消耗品費 | 文房具購入 | 3,000 | 77,000 | |
| 4/10 | 旅費交通費 | 打ち合わせ交通費 | 1,200 | 75,800 |
4月5日に文房具を3,000円で買った場合、支出金額に3,000円を入れ、前の残高80,000円から差し引いて77,000円とします。現金と合わない場合は、領収書の入れ忘れや日付違いを確認します。
預金出納帳の書き方と記入例
預金出納帳は、事業用の銀行口座の入金と出金を通帳やネットバンキングの明細で整理し、残高が銀行明細と一致するかを確認する帳簿です。
| 日付 | 勘定科目 | 摘要 | 預入金額 | 引出金額 | 残高 |
| 4/1 | 前月繰越 | 前月からの預金残高 | 200,000 | ||
| 4/15 | 売上 | B社 請求書入金 | 110,000 | 310,000 | |
| 4/20 | 通信費 | インターネット料金 | 6,600 | 303,400 | |
| 4/25 | 外注費 | C氏 デザイン費 | 55,000 | 248,400 |
事業用口座を分けると管理しやすく、混ざる場合でも摘要欄に内容を残します。
売掛帳・買掛帳の書き方と記入例
売掛帳は未入金の売上、買掛帳は未払いの仕入や外注費を取引先ごとに管理する帳簿です。
| 帳簿 | 日付 | 摘要 | 発生金額 | 回収・支払金額 | 残高 |
| 売掛帳 | 4/30 | A社 4月分制作費 | 88,000 | 88,000 | |
| 売掛帳 | 5/31 | A社 入金 | 88,000 | 0 | |
| 買掛帳 | 4/25 | D社 印刷費 | 33,000 | 33,000 | |
| 買掛帳 | 5/20 | D社 支払い | 33,000 | 0 |
掛け取引がある場合は、入金漏れや支払い漏れ、年末時点の未回収売上や未払い費用を確認しやすくなります。
経費帳の書き方と記入例
経費帳は、事業で発生した経費を消耗品費、旅費交通費、通信費、地代家賃などの勘定科目ごとに整理する帳簿です。
| 日付 | 摘要 | 支払先 | 金額 | 支払方法 |
| 4/5 | コピー用紙 | 文具店 | 3,000 | 現金 |
| 4/8 | プリンターインク | 家電店 | 5,500 | クレジットカード |
| 4/18 | 封筒 | 文具店 | 800 | 現金 |
摘要は「コピー用紙」「プリンターインク」のように具体的に書きます。
固定資産台帳の書き方
固定資産台帳は、パソコン、カメラ、業務用機器など、長期間使う資産を管理する帳簿です。取得日、資産名、取得価額、事業使用開始日、耐用年数、償却方法、期末残高などを記録します。
少額減価償却資産の特例については、令和8年4月1日以後に取得して事業に使った減価償却資産は、取得価額40万円未満まで全額を損金または必要経費にできる制度が示されています。年間合計の限度額は300万円、適用期限は令和11年3月31日まで、対象は従業員数400人以下の中小企業者等とされています。詳細は中小企業庁の少額減価償却資産の資料で確認してください。
記帳を続ける3つのコツ
記帳を続けるには、現金と預金の残高を定期的に照合し、領収書を日付順に整理し、週1回など入力日を決めます。
確定申告との関係:白色申告・青色申告10万円控除
白色申告でも記帳と保存は義務
白色申告でも、帳簿付けは不要ではありません。国税庁 No.2080では、不動産所得、事業所得、山林所得がある人に記帳制度が設けられていると説明されています。業務に係る雑所得がある人で、前々年分の収入金額が300万円を超える場合も、保存制度の対象になります。白色申告では、1年間の収入と必要経費をまとめた収支内訳書を作成し、確定申告書と一緒に提出します。
帳簿・書類はいつまで保存するか
白色申告者の保存期間は、国税庁の記帳・帳簿等保存制度で次のように整理されています。
| 保存するもの | 保存期間 |
| 収入金額や必要経費を記載した帳簿 | 7年 |
| 業務に関して作成した上記以外の帳簿 | 5年 |
| 決算に関して作成した棚卸表などの書類 | 5年 |
| 請求書、納品書、送り状、領収書など | 5年 |
単式簿記でも青色申告はできる
青色申告は複式簿記だけの制度ではありません。単式簿記、つまり簡易簿記でも青色申告を行い、原則として10万円の青色申告特別控除を受けられる場合があります。根拠となる控除の区分は、国税庁 No.2072で確認できます。ただし、10万円控除は55万円控除や65万円控除の要件に該当しない青色申告者が対象です。令和9年分以後は、簡易簿記で記帳している人のうち、前々年分の事業所得または不動産所得に係る収入金額が1,000万円を超える場合に、控除が使えなくなる予定です。
現行の青色申告特別控除 10万円・55万円・65万円
令和8年分までの青色申告特別控除は、主に次のように整理できます。実際の適用可否は所得の種類、帳簿の作り方、申告期限、提出方法などで変わるため、最新情報は国税庁で確認してください。
| 控除額 | 主な記帳方法 | 主な要件 |
| 65万円 | 複式簿記 | 55万円控除の要件に加え、e-Taxで申告書・貸借対照表・損益計算書等を提出、または優良な電子帳簿の要件を満たす |
| 55万円 | 複式簿記 | 正規の簿記の原則で記帳し、貸借対照表・損益計算書等を添付して期限内に提出する |
| 10万円 | 簡易簿記など | 55万円・65万円の要件に該当しない青色申告者が対象 |
65万円や55万円の控除を受けるには、貸借対照表を作成できる記帳が前提です。単式簿記のままでは原則として届かないため、控除額を増やしたい人は複式簿記への移行を検討します。
現金主義による所得計算の特例
青色申告者のうち、前々年分の不動産所得と事業所得の金額の合計額が300万円以下の場合、届出により現金主義による所得計算の特例を選べる場合があります。提出期限などの手続きは、国税庁の現金主義の特例の案内で確認できます。ただし、55万円の青色申告特別控除は受けられないとされています。
令和9年分からの改正で簡易簿記の10万円控除がなくなる人がいる
何が変わるか:前々年の収入金額1,000万円が分かれ目
令和8年度税制改正により、令和9年分から青色申告特別控除の要件が変わる予定です。国税庁リーフレットでは、簡易な簿記の方法で記録している人のうち、その年の前々年分の不動産所得または事業所得に係る収入金額が1,000万円を超える人は、10万円の青色申告特別控除を適用できなくなると説明されています。
ここで注意したいのは、判定に使うのが「所得金額」ではなく、事業所得や不動産所得に係る「収入金額」とされている点です。令和9年分の判定では、前々年である令和7年分の金額を確認することになります。該当しそうな人は、最新の要件を国税庁の公表資料で必ず確認してください。
改正後の控除額
令和9年分以後に適用される予定の控除額は、次のように整理できます。税制改正の詳細や実務上の扱いは更新される可能性があるため、申告前には国税庁の公表資料、税務署、税理士に確認してください。
| 控除額 | 要件の概要 |
| 75万円 | 複式簿記、e-Tax申告、優良な電子帳簿の要件を満たす等 |
| 65万円 | 複式簿記、e-Tax申告 |
| 55万円 | 廃止予定。紙で提出する複式簿記は10万円になる予定 |
| 10万円 | 簡易簿記。ただし前々年分の事業所得・不動産所得に係る収入金額が1,000万円以下の場合 |
| 0円 | 簡易簿記で、前々年分の事業所得・不動産所得に係る収入金額が1,000万円を超える場合に該当する可能性 |
この改正で、単式簿記では10万円控除が無条件ではなくなり、収入規模が大きい人は複式簿記や会計ソフトの導入を検討する意味が強くなります。
不動産所得の場合の例外
不動産所得については、収入金額が1,000万円を超える場合、事業的規模の人のみが控除対象外になるとされています。業務的規模の人は、改正前と同様に最大10万円の控除を受けられる場合があるとされています。判断は物件数や運営実態などにより変わる可能性があるため、税務署または税理士に確認してください。
新設される75万円控除
令和9年分以後は、75万円控除が新設される予定です。要件としては、複式簿記で記帳し、e-Taxで申告し、さらに請求書データ等との自動連携や訂正削除履歴の記録など、一定の要件を満たす優良な電子帳簿を作成・保存することが示されています。
75万円控除を目指す場合、単に会計ソフトを使うだけでは足りない可能性があります。請求書、領収書、銀行明細などのデータがどのように保存され、帳簿とつながるかを確認しておきます。
対象になりそうな人が2026年中に確認すること
令和9年分の判定では、令和7年分の事業所得や不動産所得に係る収入金額が関係します。2026年のうちに、令和7年分の決算書や収支内訳を確認し、1,000万円を超えていないかを見ておくと準備しやすくなります。
該当する可能性がある人は、複式簿記へ移行する時期、e-Taxの準備、優良な電子帳簿への対応を検討します。制度の詳細は変わる可能性があるため、最新の要件は国税庁の公表資料で必ず確認してください。
帳簿付けを効率化する方法
手書き・Excel・会計ソフトの使い分け
取引数が少ないうちは手書きの帳簿でも始められます。Excelなどの表計算ソフトは合計や残高計算を自動化でき、銀行口座やクレジットカードの明細を取り込みたい場合は会計ソフトが候補になります。将来、複式簿記へ移行する可能性がある人は、最初から移行しやすい方法を選ぶと作業を減らせます。
会計ソフトを選ぶときの3つの観点
会計ソフトを選ぶときは、銀行口座やカード明細の自動取込、電子帳簿保存への対応、困ったときのサポートを確認します。単式簿記では入力の簡単さ、令和9年分以後は複式簿記や電子帳簿への対応も判断材料になります。
国税庁リーフレットでは、会計ソフトの導入により複式簿記による記帳を行いやすくなることや、導入費用に補助制度を活用できる場合があることも示されています。補助率や対象経費は制度ごとに変わるため、利用前に公式情報で要件を確認してください。
帳簿の元になる請求書・領収書をデータで残す
帳簿は、請求書、領収書、通帳、カード明細などの証拠書類をもとに作ります。取引の発生時点でデータ化しておくと、帳簿入力や確認作業が進めやすくなります。
令和9年分以後の75万円控除では、請求書データ等との自動連携が要件の一つとして示されています。控除を保証するものではありませんが、請求書や領収書をデータで残す習慣は、将来の電子帳簿対応にもつながります。請求書・帳簿のテンプレートを使い、まずは書類の形式を整える方法もあります。
よくある質問
単式簿記と簡易簿記は同じものですか?
実務上はほぼ同じ意味です。国税庁の資料では「簡易な簿記の方法」や「簡易簿記」という表現もあり、税務上は収入や必要経費を計算できる帳簿を保存することが大切です。
単式簿記で貸借対照表は作れますか?
単式簿記は現金や預金の出入りが中心で、資産、負債、純資産を体系的に記録しません。貸借対照表には原則として向かず、55万円・65万円控除を目指す場合は複式簿記が必要です。
白色申告なら帳簿は不要ですか?
不要ではありません。白色申告者にも記帳制度や帳簿書類の保存制度があります。不動産所得、事業所得、山林所得がある人などは、取引を記録し、帳簿や請求書、領収書を保存する必要があります。
帳簿はいつまで保存しますか?
収入金額や必要経費を記載した帳簿は7年、その他の帳簿、決算関係書類、請求書や領収書などは原則5年保存します。申告後も確認できる状態にしておきます。
令和9年分から10万円控除が受けられないのは誰ですか?
簡易簿記で記帳しており、前々年分の事業所得または不動産所得に係る収入金額が1,000万円を超える人は、10万円控除を受けられなくなる可能性があります。不動産所得には例外もあるため、税務署や税理士に確認してください。
複式簿記に切り替えるタイミングは?
収入金額が1,000万円に近づいたとき、65万円や75万円の控除を検討したいとき、融資を受ける予定があるときは切り替えの目安です。
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INVOYなら請求書の作成と、取引先から受け取る請求書の管理を利用できます。請求書データを整理しておくと、売掛帳や経費帳への転記、入金確認、支払管理が進めやすくなります。項目を上から順番に入力するだけで、インボイス制度に対応した請求書を作成でき、受け取った請求書のアップロードや支払情報のデータ化にも対応しています。
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まとめ
要点再確認
単式簿記は、1つの取引を1つの項目で記録する方法です。現金出納帳、預金出納帳、売掛帳、買掛帳、経費帳、固定資産台帳を用意すると、白色申告や青色申告10万円控除に向けた記録を整えやすくなります。一方で、貸借対照表を作れない、売掛金や借入金を含めた経営状況を把握しにくい、青色申告特別控除の額が小さいという限界もあります。
令和9年分からは、簡易簿記で10万円控除を受けている人の一部に改正の影響が出る予定です。特に、前々年分の事業所得や不動産所得に係る収入金額が1,000万円を超える可能性がある人は、最新の要件を国税庁の公表資料で必ず確認し、必要に応じて税務署や税理士に相談してください。



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