
売掛金を計上したあとに必ず発生するのが、入金時の回収処理です。請求どおりに振り込まれることもあれば、振込手数料が差し引かれていたり、手形やでんさいで支払われたり、買掛金と相殺されたりと、回収の形は取引先ごとに変わります。回収のたびにどの勘定科目を借方と貸方のどちらに置くかで迷うと、帳簿の残高が合わなくなり、月末の消込作業が止まってしまいます。
この記事では、現金・預金回収から振込手数料の差し引き、受取手形、電子記録債権、相殺、前受金の充当、一部入金、貸倒れ、ファクタリングまで、回収パターンごとの仕訳例を具体的な金額つきで一覧できるようにまとめました。読み終えるころには、どんな入金が来ても迷わず正しい仕訳を切れるようになり、毎月の入金消込を安心して進められるようになります。簿記が苦手な方でも順番に追えるよう、借方と貸方の向きを一つずつ確認しながら解説します。
目次
売掛金の回収仕訳で押さえる基本の考え方
売上を計上した時点で、会社には「あとで代金を受け取る権利」が生まれます。これが売掛金です。回収の仕訳とは、この権利が現金や預金などの形に変わったことを帳簿に記録する作業を指します。まずは全パターンに共通する考え方を整理しておきましょう。
回収時に売上を計上しない理由
初心者がつまずきやすいのが、入金があったときに再び売上を計上してしまうミスです。売上は商品やサービスを提供した時点ですでに計上されています。これを発生主義と呼びます。回収はあくまで「権利がお金に変わった」だけの出来事ですから、売上には触れません。回収時に動かすのは、減少する売掛金と、増加する現金や預金だけです。ここを取り違えると、売上が二重に計上され、利益も納税額も過大になってしまいます。
借方と貸方の向きを固定して覚える
売掛金は資産の勘定科目です。資産が増えるときは借方、減るときは貸方に記入します。回収は売掛金という資産が減る場面ですから、売掛金は必ず貸方に置きます。一方、入金で増える現金や普通預金も資産ですので、こちらは借方です。つまり回収仕訳は「増えた資産を借方、減った売掛金を貸方」という形に固定して覚えると、迷いがなくなります。手形やでんさいへの振り替えも、受け取った債権が借方、売掛金が貸方という同じ向きで処理できます。
入金消込との関係
回収仕訳は、請求書の金額と実際の入金額を突き合わせて消し込む「入金消込」と一体で進めます。請求額と入金額が一致すれば単純な仕訳で済みますが、手数料の差し引きや一部入金があると差額が残ります。差額の正体を正しく把握し、適切な勘定科目に振り分けることが、残高をきれいに保つコツです。次の章から、回収パターンごとに具体的な仕訳を見ていきます。
現金と預金で回収したときの仕訳例
もっとも基本的な回収が、現金または銀行振込による入金です。請求額どおりに受け取れた場合の処理を確認しましょう。
現金で回収した場合
取引先から売掛金30万円を現金で受け取ったとします。資産である現金が増え、売掛金が減りますので、次のように仕訳します。 借方:現金 300,000円 / 貸方:売掛金 300,000円 現金回収は小売業や個人事業で多く見られます。受け取った現金をすぐに金庫やレジに保管する場合はこの仕訳で完了です。あとで銀行に預け入れたときは、別途「普通預金/現金」という仕訳を切り、現金から預金への移動を記録します。
普通預金に振り込まれた場合
売掛金50万円が請求どおり普通預金口座に振り込まれたケースです。増えた預金を借方、減った売掛金を貸方に置きます。 借方:普通預金 500,000円 / 貸方:売掛金 500,000円 通帳やネットバンキングの入金明細を見て、どの請求に対する入金かを確認してから消し込みます。複数の請求をまとめて振り込まれた場合は、合計額が一致するかを必ず確かめましょう。一致しないときは、後述する振込手数料の差し引きや一部入金を疑います。
当座預金で回収した場合
小切手や当座取引で回収する企業では、勘定科目を当座預金に変えるだけで考え方は同じです。借方を当座預金、貸方を売掛金とします。どの口座に入金されたかを正確に区別することが、資金繰りの把握にもつながります。
振込手数料が差し引かれて入金されたときの処理
実務で頻繁に登場するのが、取引先が振込手数料を差し引いて入金してくるパターンです。請求額より少ない金額が着金するため、差額の扱いを正しく決める必要があります。
支払手数料として処理する方法
請求額10万円に対し、振込手数料550円が差し引かれ、99,450円が普通預金に入金されたとします。差額の550円を自社が負担する場合、支払手数料という費用科目で処理するのが実務で最も一般的です。 借方:普通預金 99,450円 / 貸方:売掛金 100,000円 借方:支払手数料 550円 売掛金は請求額の全額10万円を貸方で消し込み、実際の入金額99,450円を普通預金、差額550円を支払手数料に振り分けます。借方の合計と貸方の合計がともに10万円で一致するため、残高がずれません。この方法は仕訳がわかりやすく、入金消込との相性も良いとされています。
売上値引として処理する方法
差し引かれた手数料を「売上のマイナス」と捉え、売上値引として処理する考え方もあります。この場合は借方を普通預金99,450円と売上値引550円、貸方を売掛金10万円とします。どちらで処理するかは社内ルールで統一し、取引先ごとにばらつかせないことが大切です。
インボイス制度での注意点
インボイス制度のもとでは、売手が負担する振込手数料相当額を売上のマイナスとして扱う場合、原則として買手に「適格返還請求書(返還インボイス)」を交付する義務が生じます。ただし、税込1万円未満の売上に係る対価の返還等については、返還インボイスの交付義務が免除される特例があります。振込手数料は通常数百円ですから多くはこの特例に該当しますが、処理方法によって消費税の扱いが変わる点は意識しておきましょう。
手形や電子記録債権で回収したときの仕訳
代金が現金や預金ではなく、約束手形や電子記録債権の形で支払われることもあります。これらは「期日になればお金になる債権」ですので、いったん専用の勘定科目に振り替えます。
約束手形を受け取ったとき
売掛金40万円について、取引先から期日2か月後の約束手形を受け取ったとします。売掛金が受取手形という別の債権に変わるため、次のように振り替えます。 借方:受取手形 400,000円 / 貸方:売掛金 400,000円 この時点では現金は増えていません。手形の期日が到来し、当座預金などに入金されたときに、改めて「普通預金/受取手形」という仕訳を切って債権を消し込みます。手形は紛失や不渡りのリスクがあるため、保管と期日管理を徹底します。
電子記録債権(でんさい)で回収したとき
でんさいは、手形を電子化した仕組みです。インターネットバンキングを通じて債権を記録・管理するため、紙の手形のような紛失リスクがありません。売掛金30万円が電子記録債権として記録された場合は、次のように振り替えます。 借方:電子記録債権 300,000円 / 貸方:売掛金 300,000円 勘定科目として「電子記録債権」を使うのが一般的です。支払期日に口座へ入金されたら、「普通預金/電子記録債権」で消し込みます。会社によっては受取手形勘定にまとめる場合もありますが、管理しやすいよう専用科目を設けるとよいでしょう。
手形やでんさいを期日前に資金化したとき
受け取った手形やでんさいを、期日を待たずに銀行で割り引いて資金化することもできます。その際は割引料が差し引かれます。たとえば額面40万円の手形を割り引き、割引料5,000円を差し引かれて395,000円が入金された場合、借方を普通預金395,000円と手形売却損5,000円、貸方を受取手形40万円とします。割引料は手形売却損という費用で処理する点を覚えておきましょう。
相殺と前受金で回収する場合の仕訳
お金の受け渡しを伴わずに売掛金が減る場面もあります。代表例が、買掛金との相殺と、前受金の充当です。
買掛金と相殺したとき
同じ取引先に対して、売掛金20万円と買掛金8万円の両方がある場合、双方を相殺して差額だけを決済できます。相殺すると振込手数料を減らせるメリットもあります。買掛金8万円を売掛金と相殺する仕訳は次のとおりです。 借方:買掛金 80,000円 / 貸方:売掛金 80,000円 これで売掛金は残り12万円となり、後日この12万円が入金されたときに「普通預金/売掛金 120,000円」で消し込みます。相殺を行う際は、双方の合意を示す相殺通知書などの書面を残しておくと、後のトラブルを防げます。
前受金を売上代金に充当したとき
受注時に手付金として前受金を受け取っていた場合、納品後の売上代金に充当します。たとえば、あらかじめ前受金10万円を受け取り、売上25万円を計上したとします。売上計上時は売掛金25万円を借方に立てます。回収段階で前受金10万円を充当し、残額15万円が振り込まれたときの仕訳は次のようになります。 借方:前受金 100,000円 / 貸方:売掛金 250,000円 借方:普通預金 150,000円 前受金は「すでに受け取ったお金に対する義務」を表す負債科目です。売上代金に充当した時点でこの義務がなくなるため、借方に前受金を置いて消し込みます。残額のみが実際に入金される点に注意しましょう。
相殺と充当を混同しないために
相殺は同じ取引先への債権と債務を打ち消し合う処理、前受金の充当はすでに預かったお金を売上に当てはめる処理です。どちらも現金の動きが一部または全部なくなる点は似ていますが、使う勘定科目が買掛金か前受金かで異なります。取引の背景を確認してから科目を選びましょう。

一部しか入金されなかったときの分割回収
資金繰りの都合で、取引先が請求額の一部だけを先に支払ってくることがあります。残額は後日入金されるため、売掛金を分割して消し込みます。
一部入金があったときの仕訳
売掛金50万円のうち、30万円が先に普通預金へ振り込まれたとします。入金された分だけ売掛金を減らします。 借方:普通預金 300,000円 / 貸方:売掛金 300,000円 この仕訳のあと、売掛金の残高は20万円のまま帳簿に残ります。残額が後日入金されたら、改めて「普通預金/売掛金 200,000円」で消し込み、残高をゼロにします。一部入金は消込ミスが起きやすいため、補助元帳で取引先ごとの残高を管理すると安全です。
入金額が請求額と合わないときの確認手順
入金額が請求額と一致しないときは、原因を一つずつ確認します。第一に振込手数料の差し引き、第二に一部入金、第三に複数請求のまとめ払い、第四に値引きや返品の反映漏れです。原因を特定せずに差額を雑損失などで安易に処理すると、本来回収すべき残額を取りこぼす恐れがあります。明細と請求書を突き合わせ、差額の正体を必ず突き止めましょう。
回収できなくなったときの貸倒れの処理
取引先の倒産や経営悪化で売掛金が回収不能になることもあります。この損失をどう仕訳するかは、損失が確定しているか、まだ見積もりの段階かで分かれます。
貸倒損失で処理するとき
取引先の倒産などで売掛金の回収が不能と確定した場合、貸倒損失という費用科目で処理します。回収できなくなった売掛金15万円を貸倒れとして処理する仕訳は次のとおりです。 借方:貸倒損失 150,000円 / 貸方:売掛金 150,000円 貸倒損失として計上するには、法的に債権が消滅した、または回収不能が客観的に明らかになったなどの一定の要件を満たす必要があります。要件を満たさないまま損失計上すると、税務上は費用として認められない場合がありますので、判断に迷うときは税理士へ相談しましょう。
貸倒引当金を設定するとき
貸倒引当金は、まだ損失が確定していない段階で、将来回収できなくなりそうな金額をあらかじめ見積もって計上する処理です。決算時に売掛金残高のうち回収リスクのある金額を見積もり、費用として計上します。たとえば10万円の貸倒引当金を設定する場合は、借方に貸倒引当金繰入10万円、貸方に貸倒引当金10万円と仕訳します。 貸倒損失が「すでに確定した損失」であるのに対し、貸倒引当金は「将来に備えた見積額」である点が大きな違いです。実際に貸倒れが発生したときは、設定済みの貸倒引当金をまず取り崩し、不足分があれば貸倒損失で処理します。
貸倒れを防ぐための実務上のポイント
貸倒れは一度発生すると回収がきわめて難しくなります。取引開始前の与信管理、回収サイトの短縮、入金遅延が起きた際の早期の督促が予防の基本です。回収が遅れている売掛金は補助元帳で年齢分析を行い、長期間滞留している債権を早めに把握すると、損失の拡大を防げます。
ファクタリングで早期回収したときの仕訳
売掛金の入金を待たずに資金化したい場合、ファクタリング会社へ売掛債権を売却する方法があります。手数料が差し引かれるため、その処理を理解しておきましょう。
ファクタリングの基本的な仕訳
売掛金100万円をファクタリング会社に譲渡し、手数料5万円を差し引かれて95万円が入金されたとします。差し引かれた手数料は売上債権売却損という費用科目で処理します。 借方:普通預金 950,000円 / 貸方:売掛金 1,000,000円 借方:売上債権売却損 50,000円 売掛金100万円を全額消し込み、入金額95万円を普通預金、手数料5万円を売上債権売却損に振り分けます。なお、契約から入金までに期間が空く場合は、いったん売掛金を未収入金へ振り替えてから入金時に消し込む二段階の処理を行うこともあります。
手数料の相場と消費税の扱い
ファクタリングの手数料は契約形態で変わります。自社とファクタリング会社の2社で契約する2社間ファクタリングは8〜18%、取引先も加わる3社間ファクタリングは2〜9%が相場とされています。3社間のほうが取引先へ直接確認できるためリスクが低く、手数料が抑えられる傾向があります。また、売掛債権の譲渡は「金銭債権の譲渡」にあたり、消費税は非課税です。手数料に消費税が課されない点も押さえておきましょう。
ファクタリングと割引・借入の違い
ファクタリングは債権の売却であり、返済義務のある借入ではありません。手形割引が手形を担保にした資金調達であるのに対し、ファクタリングは債権そのものを譲渡する取引です。利用する際は、手数料率と入金スピードを比較し、資金繰りの必要性に見合うかを判断しましょう。手数料が高すぎると利益を圧迫するため、安易な多用は避けるのが賢明です。
売掛金の回収仕訳に関するよくある質問
回収処理で迷いやすい点を、質問形式で補足します。
回収時に消費税は別に仕訳するのですか
消費税は売上を計上した時点ですでに処理されています。回収はお金の受け渡しを記録するだけですので、原則として消費税を別に仕訳する必要はありません。税抜経理でも税込経理でも、回収仕訳では売掛金の全額を貸方で消し込むだけで完了します。ただし、振込手数料を売上値引で処理する場合など、消費税の扱いが関わる例外には注意しましょう。
複数の請求をまとめて入金されたときはどうしますか
取引先が複数月分の請求をまとめて振り込んでくることがあります。この場合、入金額の合計が各請求額の合計と一致するかを確認し、請求ごとに売掛金を消し込みます。仕訳上は「普通預金/売掛金」を入金総額でまとめて切ることも、請求ごとに分けて切ることもできますが、補助元帳では必ず請求単位で消し込み、どの請求が未回収かを把握できるようにします。
源泉徴収された報酬を回収するときの仕訳は
デザインや原稿料など源泉徴収の対象となる報酬では、取引先が所得税を差し引いて入金してきます。たとえば報酬10万円から源泉所得税10,210円が差し引かれ、89,790円が入金された場合、借方を普通預金89,790円と仮払税金10,210円、貸方を売掛金10万円とします。差し引かれた税額は仮払税金や事業主貸などで管理し、確定申告で精算します。
帳簿の残高が合わないときはどこを見ますか
残高が合わないときは、まず振込手数料の差し引きと一部入金を確認します。次に、相殺や前受金の充当を仕訳に反映し忘れていないかを点検します。それでも合わない場合は、入金日や金額の入力ミス、消込対象の取り違えを疑います。補助元帳で取引先ごとの残高を追うと、原因の特定が早くなります。
まとめ
売掛金の回収仕訳は、入金の形に応じて使う勘定科目を切り替えるだけで、考え方は一貫しています。増えた資産を借方、減った売掛金を貸方に置くという基本さえ押さえれば、現金・預金回収はもちろん、振込手数料の差し引き、受取手形や電子記録債権への振り替え、買掛金との相殺、前受金の充当、一部入金まで同じ手順で処理できます。
回収不能になった場合は損失の確定度合いに応じて貸倒損失か貸倒引当金を使い分け、早期に資金化したいときはファクタリングで売上債権売却損を計上します。どのパターンでも、請求額と入金額の差額の正体を突き止め、正しい科目に振り分けることが、帳簿の残高を合わせる最大のポイントです。この記事の仕訳例を手元に置き、毎月の入金消込を迷わず正確に進めていきましょう。



手形払いとは
取引先との支払いで「手形払い」という言葉を見聞きしたものの、仕組みや銀行振込との違いがよくわからない…