
企業が保有する不動産や設備を売却しながらも、その資産を引き続き使用し続けられる「セール・アンド・リースバック」は、資金調達手段として多くの企業が活用しています。しかし、この取引の会計処理は通常の売却とは大きく異なり、売却益や売却損の扱い、リース負債の計上方法など、理解すべき論点が多岐にわたります。
特に2024年9月に企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」が公表され、2027年4月1日以降開始する事業年度から新基準が適用される予定となっており、従来の日本基準を前提にしていた実務が大きく変わります。また、IFRS(国際財務報告基準)を適用している企業では、すでにIFRS第16号に基づいた会計処理が求められており、同号が2019年1月1日以降開始する事業年度から適用されたことで、実務の見直しが進んでいます。
本記事では、リースバックの基本概念から始まり、日本基準・IFRS双方の会計処理と仕訳例、勘定科目の選び方、税務上の取り扱い、そして2027年適用予定の新リース会計基準への対応方法まで、実務担当者が必要とする情報を体系的に解説します。資金繰り改善を検討している経営者の方から、経理担当者まで、幅広く参考にしていただける内容です。
目次
リースバック(セール・アンド・リースバック)とは
セール・アンド・リースバックの基本的な仕組み
セール・アンド・リースバックとは、企業(売手・借手)が自社保有の不動産や設備などの資産を第三者(買手・貸手)に売却し、売却後にその買手から同じ資産をリースバック(賃借)して引き続き使用する取引のことをいいます。
この取引の流れは次のとおりです。まず売手である企業が保有資産を売却し、売却代金を受け取ります。次に、同じ資産について買手との間でリース契約を締結し、リース料を支払いながら資産の使用を継続します。資産の物理的な使用場所や利用方法はそのままに、所有権のみが移転するため、業務への影響を最小限に抑えながら資金を調達できる点が最大のメリットです。
不動産を対象とした場合は「不動産リースバック」とも呼ばれ、自社ビルや工場を売却しながら同施設に入居し続ける形態が代表的です。設備や機械についても同様のスキームが活用されており、製造業や物流業での利用が多く見られます。
資金調達手段としての活用場面
セール・アンド・リースバックは、主に次のような場面で活用されます。
第一に、運転資金や設備投資資金の調達です。不動産などの固定資産を売却することで、まとまった現金を即座に手に入れることができます。銀行融資と異なり、資産売却による調達のため、信用力が低い局面でも活用しやすいという特徴があります。
第二に、バランスシートのスリム化です。固定資産を売却してオフバランス化することで、総資産が減少し、ROA(総資産利益率)の改善が期待できます。ただし、後述する新リース会計基準やIFRS第16号の適用後は、使用権資産とリース負債がともに貸借対照表に計上されるため、完全なオフバランス効果は期待できなくなります。
第三に、事業再編や経営危機への対応です。保有資産を換金しながら業務継続を図る手段として、財務改善策の一環として活用されるケースもあります。
従来の日本基準によるリースバックの会計処理
ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区分
日本では、企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」(以下「旧基準」)に基づき、リースバック取引はリースがファイナンス・リース取引か、オペレーティング・リース取引かによって会計処理が異なります。
ファイナンス・リース取引とは、リース期間の途中で契約を解除できないか、または解除した場合に相当の違約金を支払う必要があり、かつリース物件から生じる経済的利益のほぼすべてが借手に帰属する取引をいいます。具体的には、現在価値基準(リース料総額の現在価値が資産価額の90%以上)や経済的耐用年数基準(リース期間が経済的耐用年数の75%以上)を満たす場合に該当します。
オペレーティング・リース取引は、ファイナンス・リースに該当しないリース取引を指します。
ファイナンス・リースに分類された場合の仕訳
ファイナンス・リースに分類されたセール・アンド・リースバック取引では、売却と同時にリース資産・リース債務を計上します。売却損益は通常の売却とは異なり、繰延処理が必要です。
具体例として、帳簿価額5,000万円の建物を6,000万円で売却し、直ちに同建物をリースバックする(月額リース料50万円、リース期間5年)ケースを考えます。
売却時の仕訳: (借)現金預金 60,000,000 (貸)建物 50,000,000 長期前受収益 10,000,000
この場合、売却益1,000万円は「長期前受収益」として負債計上し、リース資産の減価償却費の割合に応じて減価償却費に加減する形で損益に計上します。
リースバック時の仕訳: (借)リース資産 48,000,000 (貸)リース債務 48,000,000
以降、リース料支払い時には元本返済と支払利息に分けて処理し、リース資産はリース期間にわたって減価償却します。売却損が生じた場合は「長期前払費用」として資産計上し、同様にリース期間で償却します。
オペレーティング・リースに分類された場合の仕訳
オペレーティング・リースに分類された場合は、売却時の処理は通常の資産売却と同様です。売却損益はそのまま当期の損益として計上します。
帳簿価額3,000万円の機械を3,500万円で売却した場合の仕訳例:
(借)現金預金 35,000,000 (貸)機械 30,000,000 固定資産売却益 5,000,000
リースバック後は、支払ったリース料を期間費用として「支払リース料」または「賃借料」として計上します。オペレーティング・リースではリース資産・リース債務の計上は不要で、オンバランス化されないため、バランスシートへの影響が比較的小さい点が特徴です。
IFRS第16号に基づくリースバックの会計処理
IFRS第16号の基本概念と適用時期
IFRS第16号「リース」は、国際会計基準審議会(IASB)が2016年1月に公表し、2019年1月1日以降開始する事業年度から強制適用されています。この基準の最大の特徴は、従来のオペレーティング・リースに相当する取引についても、「使用権資産(Right-of-Use Asset)」と「リース負債」を貸借対照表に計上する「使用権モデル」を採用した点です。
これにより、IFRS適用企業ではほぼすべてのリース取引がオンバランス化されることになり、総資産・総負債が増加します。リース期間が12ヶ月以内の短期リースや、原資産の価値が低い(例:5,000米ドル以下)場合には、例外的にオフバランス処理が認められています。
IFRS第16号におけるセール・アンド・リースバックの処理
IFRS第16号では、セール・アンド・リースバック取引の処理は、資産の移転が「売却」に該当するかどうかによって大きく異なります。
売却に該当する場合、売手(借手)は使用権資産を「資産の従前の帳簿価額のうち、借手が保持した使用権資産に係る部分」で測定します。また、認識する利得または損失は「買手(貸手)に移転された権利に係る部分のみ」に限定されます。
具体例として、以下の条件を想定します: ・原資産の公正価値(売却価格):2億4,000万円 ・リースバックのリース料総額の割引現在価値:2億円 ・原資産の帳簿価額:1億8,000万円
この場合、使用権資産は1億8,000万円×(2億円÷2億4,000万円)=1億5,000万円として計上し、認識される利得は(2億4,000万円-1億8,000万円)×(4,000万円÷2億4,000万円)=1,000万円となります。
資産の移転が売却に該当しない場合(例:買戻しオプションが付いている場合等)は、売手は資産の移転を認識せず、受取金額をリース負債として計上する金融取引として処理します。
使用権資産とリース負債の計上方法
IFRS第16号において、使用権資産の当初認識額はリース負債の計上額に前払リース料や初期直接コストなどを加算して算定します。
リース負債は、リース開始日時点で支払われていない将来のリース料を、リースの内部収益率(算定できない場合は追加借入利子率)で割り引いた現在価値として計上します。
月額リース料100万円、リース期間5年(60ヶ月)、割引率3%(月次換算0.25%)の場合: リース負債 = 100万円×(1-(1+0.0025)^(-60))÷0.0025 ≒ 5,565万円
毎期の処理としては、リース負債に対して実効利子率法で利息費用を計上し、使用権資産はリース期間(または耐用年数のいずれか短い方)にわたって定額法等で減価償却します。
2027年適用開始の新リース会計基準への対応
新基準(企業会計基準第34号)の概要と適用スケジュール
企業会計基準委員会(ASBJ)は2024年9月13日、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」(以下「新基準」)を公表しました。この新基準は、IFRS第16号との整合性を図りつつ、日本の実務慣行も考慮した内容となっています。
適用スケジュールは次のとおりです: ・強制適用:2027年4月1日以後開始する事業年度の期首から ・早期適用:2024年4月1日以後開始する事業年度から認められる
新基準の最大の変更点は、日本基準においてもすべてのリース取引(短期・少額を除く)を貸借対照表に計上することが求められる点です。従来オペレーティング・リースとして費用処理していたリースも、使用権資産とリース負債として計上する必要があります。
この変更は財務諸表に大きなインパクトをもたらします。例えば、オフィスの賃貸借契約、社用車のリース、コピー機のリース等、これまでオフバランスだった取引がすべて資産・負債として計上されることになり、特に不動産を多数賃借している小売業やサービス業などでは、負債が大幅に増加する可能性があります。
新基準におけるセール・アンド・リースバック取引の処理
新基準においても、セール・アンド・リースバック取引は売却と判定されるかどうかによって処理が分岐します。
売却に該当し、かつリースがフルペイアウト(所有権移転ファイナンス・リース相当)でない場合: 売手(借手)は、保持する使用権資産に対応する部分の帳簿価額を算定し、使用権資産を計上します。認識する売却損益は、買手(貸手)に移転した権利部分のみです。この処理はIFRS第16号の処理と概ね整合しています。
売却に該当しない場合、または売却でもフルペイアウト・リースの場合: 受取対価をリース負債として計上し、従来の資産を引き続き計上します。実質的に金融取引として扱われます。
新基準への移行にあたっては、既存のリースバック取引についても遡及適用が求められる場合があり、早期から影響試算を行うことが重要です。特に、大型設備や不動産を活用したセール・アンド・リースバック取引を多く持つ企業では、財務指標(負債比率、EBITDA等)への影響が大きくなるため、早急な実態把握が必要です。
移行時の実務対応ポイント
新リース会計基準への移行にあたっては、以下の点を重点的に確認することが求められます。
第一に、リース契約の洗い出しです。社内に存在するすべてのリース契約・賃貸借契約を一覧化し、新基準の適用対象となるかを判定します。各契約について残リース期間、リース料総額、割引率を整理する必要があります。
第二に、システム対応の検討です。従来は費用処理のみで対応できていたオペレーティング・リースについても、使用権資産・リース負債の管理が必要となるため、会計システムや固定資産管理システムの改修が必要になるケースが多くあります。
第三に、財務影響試算です。リース負債の増加による財務制限条項(コベナンツ)への影響、格付機関や金融機関との関係への影響を事前に確認することが重要です。
強制適用まで約1〜2年を残す現時点(2026年)から準備を開始することで、スムーズな移行が可能です。

リースバックの税務処理と消費税の取り扱い
法人税における売却損益の取り扱い
税務上のセール・アンド・リースバックの処理は、会計処理とは異なる点があるため注意が必要です。
ファイナンス・リースに分類されるセール・アンド・リースバックであっても、税務上は実態を重視した判断が行われます。資産の売却が「売買」として実質的に認められる場合は、売却時に売却損益が確定し、その期の所得に算入されます。
一方、取引の実態が金融(担保目的での資金調達)と認められる場合は、資産の売却は認識されず、受取金額は「仮受金」等として処理し、実質的なリース料(元本返済部分と利息部分)で処理することとなります。
この区分判定については、契約内容・経済的実態・買戻し条件などを総合的に勘案して判断する必要があり、税理士や公認会計士との確認を行うことが望ましいです。
消費税の課税区分と注意点
セール・アンド・リースバック取引における消費税の取り扱いは複雑です。
資産売却時の消費税:不動産(土地)の売却は消費税の非課税取引ですが、建物や機械設備の売却は消費税課税取引です。建物付き土地を売却する場合は、土地部分と建物部分を合理的に按分して消費税額を計算します。
リース料に係る消費税:リースバック後の毎月のリース料にも消費税が課税されます(標準税率10%)。例えば月額リース料100万円の場合、消費税10万円が加算されるため、実質的な月次支出は110万円となります。
特に注意が必要なのは、売却時に多額の消費税を一括で支払う一方、リース料に係る消費税は月次で分割されるため、一時的に大きなキャッシュアウトが生じる可能性がある点です。売却代金が1億円の建物を売却する場合、消費税1,000万円(建物部分相当)を売却時に買手から受け取り(仮受消費税)、自社の課税売上として申告・納付する。なお買手側では、その消費税が仕入税額控除の対象となる流れとなります。インボイス制度(適格請求書等保存方式)への対応も合わせて確認が必要です。
固定資産税・不動産取得税の影響
セール・アンド・リースバックで不動産を対象とする場合、固定資産税と不動産取得税への影響も考慮が必要です。
固定資産税は所有者に課税されるため、売却後は買手(貸手)が納税義務者となります。ただし、リース料の中に固定資産税相当額が含まれている場合が多く、実質的なコストは借手が負担する形となるケースもあります。契約締結時にリース料の内訳を明確にしておくことが重要です。
不動産取得税は、資産を取得した買手(貸手)に課税されます。標準税率は固定資産税評価額の4%ですが、土地や住宅については軽減措置が適用される場合があります。この費用がリース料に転嫁されるかどうかも契約内容によって異なるため、事前に確認することが必要です。
仕訳・勘定科目の具体的な設定方法
主要な勘定科目一覧
リースバック取引で使用する主な勘定科目をまとめます。
資産科目: ・使用権資産(新基準・IFRS):リースバック後の使用権を資産計上 ・リース資産(旧基準・ファイナンス・リース):従来基準での資産計上科目 ・長期前払費用(旧基準):繰延売却損
負債科目: ・リース負債(新基準・IFRS):将来リース料の現在価値 ・リース債務(旧基準・ファイナンス・リース):従来基準での負債計上科目 ・長期前受収益(旧基準):繰延売却益
損益科目: ・固定資産売却益 / 固定資産売却損:売却時の損益 ・減価償却費:使用権資産・リース資産の償却 ・支払利息 / 利息費用:リース負債に係る利息 ・支払リース料 / 賃借料(オペレーティング・リース・旧基準):期間費用
ケーススタディ:不動産リースバックの仕訳例
以下、新基準(または現行IFRS第16号)に基づく不動産リースバックの具体的な仕訳例を示します。
前提条件: ・土地(帳簿価額2億円)と建物(帳簿価額5,000万円、減価償却累計額2,000万円、差引3,000万円)を合計3億円で売却(土地2億5,000万円、建物5,000万円) ・リースバック:建物のみ、リース期間5年、月額リース料80万円、割引率2% ・取引は売却として認定(買戻し条件なし) ・IFRS第16号に基づく処理
① 売却時の仕訳(建物部分のみ抜粋): (借)現金預金 50,000,000 (貸)建物 50,000,000 建物減価償却累計額 20,000,000 リースバックに係る使用権資産の認識と売却損益の按分計算を同時に行います。 リース負債現在価値:80万円×57.05(現価係数5年・年利2%=月利約0.167%・60回)≒ 4,564万円 使用権資産:3,000万円×(4,432万円÷5,000万円)≒ 2,659万円 認識利得:(5,000万円-3,000万円)×((5,000万円-4,432万円)÷5,000万円)≒ 227万円
② リース開始時の仕訳: (借)使用権資産 26,590,000 (貸)リース負債 44,320,000
③ 毎月の処理:リース負債への利息計上と元本返済、使用権資産の減価償却
繰延売却損益の処理と償却方法
旧基準(従来の日本基準)でファイナンス・リースに分類された場合の繰延売却損益の処理を説明します。
長期前受収益(繰延売却益)の場合: 計上時:(借)固定資産 × × × (貸)現金預金 × × × 長期前受収益 × × × 毎月収益化:(借)長期前受収益 × × × (貸)長期前受収益実現益 × × ×
長期前払費用(繰延売却損)の場合: 計上時:(借)長期前払費用 × × × (貸)固定資産売却損 × × × 毎月費用化:(借)売上原価(または営業外費用)× × × (貸)長期前払費用 × × ×
償却期間はリース期間(または残耐用年数のいずれか短い方)とします。月次決算を行っている場合は毎月均等額を認識し、年度決算時に累計額が正確かどうか確認します。
リースバックを活用した資金繰り改善の実践
キャッシュフローへの影響分析
セール・アンド・リースバックを活用した場合、キャッシュフロー計算書への影響も理解しておく必要があります。
売却代金の受取:投資活動によるキャッシュフローのプラス要因として計上 (IFRS・新基準では財務活動に分類される場合あり)
リース料の支払い:旧基準のオペレーティング・リースでは営業活動によるキャッシュフローのマイナス要因、ファイナンス・リースでは元本返済部分が財務活動・利息部分が営業活動(または財務活動)
IFRS・新基準では、リース負債の返済額は財務活動によるキャッシュフローに、利息支払額は選択により営業活動または財務活動に計上します。
キャッシュフロー上の効果として、例えば時価5億円の自社ビルをリースバックした場合、初年度に5億円の投資活動によるキャッシュインが生じ、以降は月次のリース料(例:200万円)が財務活動によるキャッシュアウトとなります。短期の資金調達効果は非常に大きい反面、長期では総コストが割高になるケースもあるため、資金調達コストの比較検討が重要です。
資金繰りの改善を目指す場合、請求書の支払いをカード払いに切り替えることで最大60日の支払いサイトを延長できる「請求書カード払いサービス」なども有効な選択肢の一つです。(参考:INVOY カード払い)
リースバック活用時の財務指標への影響
新リース会計基準・IFRS第16号適用下では、セール・アンド・リースバックの財務指標への影響が従来と異なります。
総資産:使用権資産が計上されることで総資産は増加します。ただし売却した資産は除外されるため、純増・純減はスキームの詳細によります。
総負債:リース負債が新たに計上されるため、負債は増加します。自己資本比率は低下する傾向があります。
EBITDA(税引前利益+支払利息+減価償却費):旧基準でオペレーティング・リースだった取引が新基準下でオンバランス化されると、費用が「リース料」から「減価償却費+支払利息」に替わるため、EBITDAが改善される効果があります。
財務制限条項(コベナンツ):銀行借入の財務制限条項として「純有利子負債/EBITDA」「自己資本比率」等が設定されている場合、新基準適用によりコベナンツに抵触するリスクがあります。主要取引金融機関との事前調整が必要です。
中小企業がリースバックを検討する際の留意点
中小企業がリースバックを活用する際には、大企業とは異なる観点での検討が必要です。
会計基準の選択肢:中小企業は「中小企業の会計に関する指針」等、大企業向けと異なる簡便な会計基準を適用できる場合があります。新リース会計基準の適用範囲についても、中小企業に対する簡便的な取り扱いが議論されており、最新の基準動向を確認することが重要です。
資金調達コストの比較:リースバックによる資金調達は、銀行融資と比較して調達コストが高くなるケースが少なくありません。資産売却価格とリース料総額を比較し、実質的な借入コスト(IRR)を試算した上で、他の資金調達手段(銀行融資、社債発行、ファクタリング等)と比較検討することをお勧めします。
売却価格と市場価格の乖離リスク:急いでリースバックを行うと、資産の売却価格が市場価格を下回る可能性があります。複数の事業者から見積もりを取り、適正な売却価格を確認することが重要です。
よくある疑問
売却の判定基準はどのように決まるか
IFRS第16号・新基準において、売却の判定はIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」(または日本基準の収益認識会計基準)に基づいて行われます。
主なポイントとして、買戻しオプション(コールオプション)や買戻し義務(フォワード)が付いている場合、資産の支配が借手から貸手に移転しないと判断され、売却として認識されないことがあります。
一方、行使価格が売却時の公正価値と同等のプット・オプションが付いているだけの場合は、通常売却として認識されます。判定には専門的な判断が必要なため、監査人や会計士との事前確認が推奨されます。
既存の取引に対する移行時の処理方法
新基準適用時の移行処理については、完全遡及法と修正遡及法の選択が可能な場合があります。
完全遡及法:基準が当初から適用されていたものとして、過去の財務諸表を遡及修正します。比較可能性は高まりますが、作業負荷も大きくなります。
修正遡及法:移行日時点の影響のみを認識し、比較期間の財務諸表は修正しません。実務的に最も採用しやすい方法で、移行日時点のリース負債をリース開始日時点での情報を使って計算します。
具体的には、既存のリースバック取引についても残期間のリース料を適切な割引率で割り引き、リース負債として計上する作業が必要です。
監査対応上の注意点
セール・アンド・リースバック取引は、金融取引の側面を持つため、監査上も厳しく精査される項目です。
主な監査上のポイントとして、①取引の実質(売却か担保融資か)の判定、②公正価値による売却(市場価格と乖離した価格での取引は利得調整が必要)、③使用権資産・リース負債の測定の適切性、④割引率の合理性、⑤開示の十分性(関連当事者取引に該当する場合の追加開示)などが挙げられます。
セール・アンド・リースバックを実施した事業年度の財務諸表には、取引の概要、売却損益の金額、計上したリース資産・負債の金額等を注記として開示することが求められます。 まとめ リースバック(セール・アンド・リースバック)の会計処理は、適用する会計基準、リースがファイナンス・リースかオペレーティング・リースか、そして売却として認識されるかどうかによって大きく異なります。本記事の重要ポイントをまとめます。
1. 旧日本基準では、ファイナンス・リースの場合に売却損益を繰延処理(長期前受収益・長期前払費用)し、リース期間にわたって認識します。オペレーティング・リースでは売却損益を即時認識します。
2. IFRS第16号(2019年1月1日以降適用)では、セール・アンド・リースバックの処理は売却判定が核心です。売却と認識される場合は使用権資産を計上し、売却損益は移転権利部分のみ認識します。
3. 新リース会計基準(企業会計基準第34号)は2027年4月1日以降開始する事業年度から強制適用されます。従来オフバランスだったオペレーティング・リースもオンバランス化され、財務指標に大きな影響を与えます。
4. 消費税・固定資産税・法人税の観点での検討も不可欠です。特に不動産を対象とする場合は消費税の一時的キャッシュアウトに注意が必要です。
5. 財務指標(自己資本比率、EBITDA、コベナンツ等)への影響を事前に試算し、金融機関・監査法人との早期コミュニケーションを図ることが重要です。
リースバックは資金繰り改善に有効な手段ですが、会計・税務処理の複雑さや長期的なコスト負担も踏まえた上で総合的に判断することが重要です。資金繰りの改善については、請求書カード払いなど、会計処理の複雑さが比較的少ない手段も合わせてご検討ください。
2027年の新基準適用に向けて、今からリース契約の棚卸しと財務影響の試算を開始し、専門家と連携しながら適切な準備を進めることをお勧めします。



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