
適格請求書発行事業者への登録は任意です。ただし、登録しない場合は適格請求書を交付できず、課税事業者である取引先は原則として仕入税額控除を受けられません。取引先の構成や自社の売上規模によって影響は異なるため、制度の全体像だけでなく、買い手の負担額と今後の取引方針を見て判断する必要があります。2026年10月から経過措置も変わるため、現在の状況に合わせて整理しましょう。
目次
登録しないとどうなるか【結論】
登録は義務ではない
適格請求書発行事業者への登録は、すべての事業者に課された手続きではありません。登録しないこと自体に直ちに罰則があるわけでもなく、免税事業者が登録を見送る選択もできます。
一方、登録しない事業者は適格請求書を交付できません。請求書の書式を整えたり、消費税額を記載したりしても、登録番号のない書類は適格請求書として扱われないためです。
インボイス制度や適格請求書発行事業者の定義を確認したい方は、総論をまとめた適格請求書発行事業者とは?インボイス制度の概要をご覧ください。ここでは「登録しない」という選択をした場合に、取引へどう影響するかに絞って説明します。
買い手が仕入税額控除を受けにくくなる
課税事業者の取引先が仕入税額控除を受けるには、原則として仕入先から交付された適格請求書の保存が必要です。登録しない事業者から仕入れた場合、取引先は支払額に含まれる消費税相当額を、納付する消費税の計算から差し引けません。ただし、一定期間は経過措置により一部の控除が認められます。割合と期間は後述の表で確認してください。
この影響は、買い手が誰かによって変わります。一般消費者は通常、仕入税額控除を行いません。取引先が免税事業者の場合は、消費税の納税義務が免除されているため、この控除を行いません。反対に、課税事業者と継続的に取引する場合は、相手の計算上の負担が増えるため、価格や取引条件の見直しを相談される可能性があります。
取引が自動的に終了するわけではない
登録していないことだけを理由に、すべての取引が直ちに終了するわけではありません。商品の代替のしやすさ、専門性、納期、価格、契約内容などを踏まえて、取引先が判断します。経過措置が続く間は、影響を見ながら取引を継続する会社もあります。
ただし、取引先が自社の控除額を重視している場合、新規取引の条件に登録を求めたり、既存契約の金額を見直したりすることは考えられます。「切られるか」を一律に予測するのではなく、主要な取引先ごとに、登録の有無が契約や発注に影響するかを確認することが現実的です。
取引先が負担する金額
登録しない場合の影響を判断するには、「取引先がどれほど控除できなくなるか」を金額に置き換えると分かりやすくなります。ここでは、税率10%の課税仕入れが税込110万円で、そのうち消費税相当額が10万円だったと仮定します。ほかの要件を満たし、仕入税額控除の計算対象になる取引として試算した金額です。
| 仕入れを行った期間 | 経過措置による控除割合 | 控除できる額 | 控除できない額 |
| 2023年10月1日〜2026年9月30日 | 80% | 8万円 | 2万円 |
| 2026年10月1日〜2028年9月30日 | 70% | 7万円 | 3万円 |
| 2028年10月1日〜2030年9月30日 | 50% | 5万円 | 5万円 |
| 2030年10月1日〜2031年9月30日 | 30% | 3万円 | 7万円 |
| 2031年10月1日以後 | 0% | 0円 | 10万円 |
たとえば2026年10月以降に同じ仕入れをすると、取引先は10万円のうち7万円を控除できますが、3万円は控除できません。2031年10月以降は、経過措置による控除がなくなるため、10万円全額が控除できない額になります。実際の負担は、取引先の課税方式やほかの取引、税率によって変わりますが、登録しないことが買い手の計算に与える規模を把握する目安になります。
経過措置の割合は、請求書を発行した日ではなく、課税仕入れを行った日で決まります。契約期間が長い取引では、期間の境目をまたぐたびに相手の負担が変わる点にも注意が必要です。
なお、令和8年10月1日以後に開始する課税期間からは、一のインボイス発行事業者以外の者からの課税仕入れの合計額(税込み)が、その年または事業年度で1億円を超える部分は経過措置の対象外です。改正前の上限は10億円でした。高額な仕入れを継続して受ける取引先では、表の割合だけで判断せず、対象となる取引額も確認します。制度の詳細は国税庁「令和8年度税制改正特集」で確認してください。
登録しない判断ができるケース
登録するかどうかは、自社が免税事業者か、取引先がどのような事業者か、これからどの市場へ広げたいかを組み合わせて考えます。売上規模だけで決めると、取引先の構成が変わったときに判断を誤りやすくなります。
判断の早見表
| 主な取引先 | 自社の売上規模・状態 | 登録の要否の目安 | 判断理由 |
| 課税事業者が中心 | 基準期間の課税売上高が1,000万円超 | 登録の有無にかかわらず課税関係を確認 | 免税事業者のままではなく、取引先の控除と請求書要件を確認する段階です。 |
| 課税事業者が中心 | 基準期間の課税売上高が1,000万円以下で小規模 | 登録を前向きに検討 | 買い手の控除に影響し、取引条件の見直しにつながりやすいためです。 |
| 課税事業者が中心 | 売上拡大中で法人取引を増やす予定 | 早めに比較検討 | 今の取引だけでなく、登録を条件とする新規案件を逃す可能性があります。 |
| 一般消費者が中心 | 基準期間の課税売上高が1,000万円以下 | 登録しない選択をしやすい | 消費者は通常、仕入税額控除を行わず、請求書の登録番号を求める場面が限られます。 |
| 一般消費者が中心 | 売上が安定している小規模事業者 | 登録しない選択をしやすい | 消費税の申告や請求書対応を増やす効果が小さいためです。 |
| 一般消費者が中心 | 今後、法人向け販売を増やす予定 | 将来計画を含めて検討 | 販売先が変わると、登録しないことによる影響も変わります。 |
| 免税事業者が中心 | 基準期間の課税売上高が1,000万円以下 | 登録しない選択をしやすい | 相手も仕入税額控除を使わない場合、登録の必要性が比較的低くなります。 |
| 免税事業者が中心 | 小規模で取引先が固定 | 取引先に確認して判断 | 相手が免税事業者のままであれば仕入税額控除を行わないため、登録番号の必要性は低くなります。相手が課税事業者になる予定があるかを確認します。 |
| 免税事業者が中心 | 売上拡大や課税事業者との取引を予定 | 登録を含めて検討 | 取引先の入れ替わりで、買い手側の控除への影響が生じるためです。 |
登録しない選択と相性がよい事業者
美容室、学習塾、小売店、個人向けの教室など、売上の大半が一般消費者向けであれば、顧客から適格請求書を求められる場面は多くありません。サービスの表示価格やレシートの出し方を整えれば、登録しないことが営業上の大きな障害にならない場合があります。
取引先も免税事業者である場合は、相手が今後課税事業者になる予定があるかを確認します。課税事業者であっても簡易課税制度を適用している場合は、仕入先ごとの消費税額を使わずに計算するため、適格請求書を必要としないことがあります。制度の利用状況は外から断定できないため、取引先へ直接尋ねるのが確実です。
他社に代替されにくい専門技術や独自商品がある事業者も、登録しない判断を取りやすいケースです。買い手にとって品質や納期などの価値が大きければ、控除できない額だけで取引先を変更するとは限りません。ただし、取引先が増えたときに同じ条件が続く保証はないため、定期的に見直します。
登録を前向きに検討したい事業者
主要な取引先が課税事業者で、取引額も大きい場合は、相手の負担を具体的に聞き取ります。取引先が複数あるなら、税込取引額、経過措置の対象期間、登録を求める時期を一覧にすると、登録した場合としない場合を比べやすくなります。
法人との取引をこれから増やす事業者は、現在の売上だけでなく、営業先の募集要項や契約書の条件を確認します。登録しないことで応募できる案件が限られるなら、登録に伴う事務作業と、取引機会を広げる効果を並べて考えます。
なお、基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも、特定期間の課税売上高が1,000万円を超える場合などは課税事業者になることがあります。登録の有無と、消費税の申告が必要かどうかは別に確認してください。判定の最新の内容は国税庁の該当ページで確認してください。
経過措置と特例【2026年10月から70%】
登録しない事業者からの仕入れについては、制度開始後すぐに控除がゼロになったわけではありません。経過措置の控除割合は段階的に縮小します。2026年10月からは70%、その後は50%、30%と下がり、2031年10月以後は控除できなくなります。
経過措置の年次表
| 期間 | 控除割合 | 上限 |
| 2023年10月1日〜2026年9月30日 | 80% | 改正前の上限は10億円 |
| 2026年10月1日〜2028年9月30日 | 70% | 1億円 |
| 2028年10月1日〜2030年9月30日 | 50% | 1億円 |
| 2030年10月1日〜2031年9月30日 | 30% | 1億円 |
| 2031年10月1日以後 | 0% | 経過措置なし |
上限の1億円は、買い手が一つの登録事業者でない者から行った課税仕入れの合計額(税込み)に関するものです。その年または事業年度に1億円を超える部分には、7割・5割・3割の経過措置を適用できません。取引先が複数ある場合も、制度上の集計方法を確認し、単純に一件ごとの金額だけで判断しないようにします。
2割特例と3割特例
登録しない場合の制度ではありませんが、登録を迷う免税事業者が比較する制度として、2割特例と3割特例があります。
2割特例は、インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者となった事業者が、一定の要件のもとで納付税額を売上税額の2割とできる制度です。適用できるのは、2023年10月1日から2026年9月30日までの日の属する課税期間です。基準期間の課税売上高や登録の経緯など、ほかの要件もあるため、自社が対象かは申告時期に国税庁の案内で確認します。
令和8年度の改正では、インボイス発行事業者の登録を受けたことにより免税事業者から課税事業者となった個人事業者を対象に、3割特例が設けられました。対象は令和9年分・令和10年分の消費税の確定申告です。法人を含むか、登録以外の理由で課税事業者となった場合に使えるかなど、適用要件を自己判断で広げないでください。詳細は国税庁「令和8年度税制改正特集」の最新案内で確認してください。
少額特例は買い手側の制度
少額特例は、一定規模以下の買い手が、税込1万円未満の課税仕入れについて、適格請求書がなくても一定の事項を記載した帳簿の保存だけで仕入税額控除を受けられる制度です。基準期間の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者が対象となり、適用対象期間は2023年10月1日から2029年9月30日までです。
この制度があるからといって、登録していない事業者が適格請求書を交付できるようになるわけではありません。少額の取引では買い手の事務や控除への影響が小さくなる可能性がある、という買い手側の措置です。取引単位は商品一つずつではなく、一回の取引に係る税込金額で判定します。詳しくは国税庁「少額特例とは」を確認してください。
登録しないと決めたあとにやること
登録を見送ると決めても、何もしなくてよいわけではありません。取引先への説明、請求書の表示、価格の相談、制度変更の確認を先に整えておくと、発注側との行き違いを減らせます。
取引先と取引条件を確認する
主要な取引先を一覧にし、次の項目を整理します。
– 取引先が課税事業者、免税事業者、一般消費者のどれに当たるか
– 月間または年間の取引額と、消費税率が異なる取引の有無
– 適格請求書発行事業者への登録を求める契約条項や発注条件があるか
– 2026年10月以後の経過措置の縮小を、取引先がどう扱う予定か
– 登録しない場合の価格や手数料について、協議の窓口は誰か
相手の制度区分が分からない場合は、登録を前提に推測せず、取引先に確認します。今すぐ回答できない項目は、確認日と次回の連絡日を決めて記録しておくと、後から条件が変わったときに追いやすくなります。
請求書は適格請求書と誤認されないようにする
登録していない事業者は、登録番号を記載した適格請求書を発行できません。現在使っている請求書に登録番号欄や「適格請求書」といった表示があるなら、書式を見直します。
通常の請求書や領収書として、取引日、取引内容、金額、宛先などを正確に記載することはできます。取引先の経理処理に必要な項目や、消費税額の表示方法は、取引先と事前にすり合わせてください。登録していないことが分かる表示を加える場合も、相手の指定する書式と矛盾しないかを確認します。
取引先への説明文を用意する
説明は、登録しない理由を長く並べるより、取引先が必要とする情報を簡潔に伝える形が適しています。たとえば、「当社は適格請求書発行事業者として登録していません。請求書は通常の書式で発行します。経過措置の扱いと今後の取引条件について、必要な点をご相談ください」といった内容です。
登録しない方針が将来も固定されるとは限りません。登録を検討する条件や見直し時期を伝えておけば、相手も社内処理の予定を立てやすくなります。取引先から価格の変更を提案された場合は、単価、作業範囲、支払時期、契約期間などを分けて確認し、口頭だけで終わらせないようにします。
事業の採算と顧客構成を見直す
登録しないことで取引額が変わる可能性があるなら、年間の売上と経費を取引先別に分けて試算します。税込110万円の仕入れであれば、買い手の控除できない額は2026年10月以降の70%段階で3万円が目安です。自社の取引先が同じ規模の発注を毎月行うなら、1回の差額ではなく年間の影響として話し合う必要があります。
一方で、一般消費者向けの販売や、登録番号を求めない事業者との取引を増やす方法もあります。登録しない判断をした後も、課税事業者との取引が売上の何割を占めるかを四半期ごとに確認し、必要なら登録の比較に戻ります。
あとから登録したくなった場合
登録を見送った後に、取引先から求められたり、法人向けの案件を受けることになったりした場合は、改めて登録を申請できます。登録を決めた日からすぐ適格請求書を出せるわけではないため、登録希望日、申請日、通知を受ける時期、請求書の切替日を一つの予定表にまとめます。
申請から通知までの流れ
1. 登録する理由と開始希望日を決め、自社の課税期間を確認する。
2. 適格請求書発行事業者の登録申請書を作成する。
3. e-Taxなどで申請し、申請内容を保存する。
4. 登録通知を受け、登録番号と登録日を確認する。
5. 請求書の書式、会計処理、取引先への案内を切り替える。
登録申請はe-Taxで行えます。電子通知を選んだ場合、登録通知はe-Taxのメッセージボックスに「通知書」として保存されます。登録番号は国税庁インボイス登録番号公表サイトで確認できます。申請方法や通知の扱いは、国税庁「インボイス制度の申請手続」で最新の案内を確認してください。
登録後に変わる事務を把握する
登録後は、登録番号、適用税率、税率ごとの消費税額など、適格請求書に必要な項目を請求書へ反映します。売上先が事業者の場合は、相手が保存しやすい形式で交付し、自社も写しや電子データを保存できる運用に整えます。
基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも、登録を受けた事業者は消費税の申告が必要です。登録によって増える申告、帳簿、請求書管理の作業を把握し、事業年度や年分の予定に組み込みます。負担軽減の制度を使えるかは、登録日、課税期間、基準期間の売上などで変わるため、2割特例・3割特例の要件を含めて確認してください。
登録を取りやめる場合も期限を確認する
一度登録した後に、登録の取消しを求めることもできます。ただし、届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間の初日から登録の効力を失わせるには、翌課税期間の初日から起算して15日前の日までに提出する必要があります。登録を取りやめても、登録日から2年間は申告が必要となる場合があります。
自社の課税期間や登録日によって扱いが変わるため、取消しを決めたら国税庁「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出手続」を確認してください。最新の内容は国税庁の該当ページで確認してください。
よくある質問
Q1. 適格請求書発行事業者への登録は必須ですか?
必須ではありません。登録しない場合は適格請求書を交付できないため、課税事業者との取引で買い手の仕入税額控除に影響します。登録するかは、取引先の構成、今後の営業先、事務負担を照らし合わせて決めます。
Q2. 登録しないと取引先から断られますか?
一律に決まるものではありません。取引先の社内方針、商品の代替可能性、価格、契約内容などで扱いは異なります。登録の有無が発注条件になるか、価格や業務範囲を見直す予定があるかを、取引先に確認してください。
Q3. 登録しない事業者は請求書を発行できますか?
通常の請求書や領収書は発行できます。ただし、適格請求書として必要な登録番号を記載した書類は交付できません。請求書の書式に登録番号や適格請求書の表示が残っていないかを確認し、取引先と必要な項目をすり合わせます。
Q4. 基準期間の課税売上高が1,000万円以下なら登録しなくてもよいですか?
登録しないという選択はできますが、1,000万円以下なら必ず免税事業者になるとは限りません。特定期間の課税売上高など別の判定が関係する場合があります。最新の内容は国税庁の消費税に関する案内で確認してください。
Q5. 2026年10月以降、取引先はどれくらい控除できますか?
登録していない事業者からの課税仕入れについては、2026年10月1日から2028年9月30日までは70%の控除が認められます。その後は50%、30%と縮小し、2031年10月1日以後は控除できません。一定の上限やほかの要件もあるため、取引先側の計算を確認してください。
Q6. あとから登録することはできますか?
できます。登録申請を行い、登録通知を受けた後に、登録番号を記載した請求書へ切り替えます。登録日や申請期限は課税期間などによって扱いが変わるため、取引開始日から逆算して国税庁の申請手続を確認してください。
Q7. 登録後に取りやめることはできますか?
できますが、提出期限と、その後も申告が必要になる場合に注意してください。翌課税期間の初日から登録の効力を失わせる届出書の提出期限は、原則としてその初日の15日前です。個別の課税期間に当てはめる際は、国税庁の登録取消し手続を確認してください。
まとめ
適格請求書発行事業者に登録しないことは可能です。ただし、登録しない事業者は適格請求書を交付できず、課税事業者である取引先は仕入税額控除を受けにくくなります。経過措置がある期間も、控除割合は段階的に下がるため、取引先の負担は時間とともに変化します。
一般消費者や免税事業者との取引が中心で、売上規模も小さく、今後も法人取引を大きく増やす予定がなければ、登録しない選択を検討しやすいでしょう。一方、課税事業者との取引が中心で、法人向けの受注を広げたい場合は、相手の控除できない額と自社の事務負担を比べ、登録を含めて判断します。
登録しないと決めた後は、取引先への説明、請求書の表示、価格や契約条件の記録、制度変更の確認を行います。迷ったときは「登録するか」を先に決めるのではなく、取引先別の年間影響額と、3年後の顧客構成を並べて比較すると、自社に合った方針を選びやすくなります。



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